⑰ 虚ろ船
(何だ、アレは?)
アタシが物陰から見ていると、漁村の者と、村の役人たちが、集まって来た。次に彼等は、よってたかって、ソレを素手や棒で叩いたり突いたりしている。
例によって全員、チョンマゲを結っている。
役人の様子から察するに、江戸時代だろうか?
それにしても、不味い対応だ。中から宇宙人でも出て来たら、どうするてもりなのか?国際問題、いや対外惑星問題になるぞ?
ああ、でも、この時代のニンゲンに、そんな想像力は無いか。せいぜい異国から流れついた船としか……アタシがそこまで、想像した時の事だった。
突然、その乗り物の、天井中央部分が開き、中から女が現れたのだ。その女は、何やら黒くて四角い箱を、小脇に抱え、髪は赤く、メイド服を着ていた。
えっ……ちょっと待て。
アレは妹の由理子だ!
アタシには、直ぐに解った。
つまりこれが"虚ろ船事件"なのだ。
由理子は漁村の人間たちから、色々と尋ねられているようだった。だが、知られたくない事だらけだろうから、言葉が通じないフリをしている。
やがて村長が、役人らしき者と相談を始めた。
どうやら、話がまとまったようだ。
村長が、何やら指示を出すと、村人たちは船を出し、虚ろ船を沖の方へと曳航して行った。
扱いに困る者が村に居ると、もっと偉い御大臣様に目をつけられる。だから、臭いモノに蓋をするように、虚ろ船を、元居た沖の海へ遺棄したと言う訳だ。
当時の田舎の対応としては、ソレが精いっぱいだった事だろう。アタシは彼等の心中を察した。
この場面の後、由理子と箱の中に居たミケーネは、無事に元の世界に帰ったはずだ。だから恐らくコレで、結果オーライなのである。
さて、アタシも次の世界に行くとするか……。
……次にアタシが出た場所は、何だか蒸し暑いところだった。周りの樹木の様子は、如何にも熱帯のソレのようであり、最早、季節がどうこうと言うより、年中暑い地域であるかのように思えた。
少し歩くと、目の前に大きな菩提樹が見えて来た。
そして、その根元に座り、何やら瞑想に耽っている人物も目に入って来た。まさかアレは……。
「……やあ、よく来てくれたね?」
アタシが近づいて行くと、その男の方から、マガディ語で話し掛けて来た。
その上同時に、テレパシーも送って来る。おかげでアタシは、同時通訳を聞いている気分になったのだ。




