⑮ 狐の化身
肩で息をしながら、城壁の上に跳び上がって、戻って来たアタシに驚く兵士たち。
「ねっ?敵じゃなかったでしょ」
ニッコリ笑うアタシを、遠巻きにして囲む兵士たち。
「怪しい術を使う女め。妖怪変化の類か?」
「まあ、似たようなモノよ。でも例えそうだとしても、味方してあげたでしょ?何かモンダイでも?私と貴方たちは、共通の敵を相手にしていたのよ」
「まてまて。九尾の狐の、化身の噂を聞いたことがあるぞ。妖術を使う美しい娘だ……確かその名は"妲己"!」
兵士たちの中で、古参の者らしい男がそう言った。
「それはまた……光栄な勘違いね?いっそもう、そう言う事にしてもイイけど」
妲己と言えば、国を傾けさせる程の絶世の美女だ。
アタシは悪い気はしなかった。
「取り押さえろ!」
「ああ、やっぱダメかあ……じゃあ、これでサヨナラね」
アタシはそう言うと、その場で跳び上がり、時空転移に入った。
もう少し遊んでいたかったのに、正直な話、少し残念に思った。
次に出た場所は、またまた涼しい、いや、むしろ寒い程の体感気温だった。
だが、やたらと日当たりはいい。それに見晴らしも、抜群に素敵だ。
360度見渡す限り、視界を遮るモノは何も無い。
山並みから察するに、ここはどうやら日本国内のようだ。
つまり、そんな場所はこの世に一つだけ。
ここは……富士山頂だ。
残雪がチラホラ見える。
季節は初夏だろうか?
登山客が見当たらないが……?
アタシがそこまで考えた時、山麓を登って来る、一団が見えた。
近くで良く見ると、先頭を行く男は、チョンマゲを結っている。
どうやらソレは、コスプレでは無いようだ。
一行はアタシの横を通り過ぎた。お互いに、軽く会釈をして挨拶する。万里の長城の時と違って、トラブルにならないのは、やはり国内だからなのだろう。さっきはアウェイだったから、仕方無いわよね?
アタシは改めて、自分の国はホッとする場所だと、実感した。まあ基本的に、何時の時代も、山登りする者に悪人は居ない、と言う認識なのかも知れないが……。(インバウンドの問題が起きるのは、まだまだ遠い未来の話だ)
それに、その一行は、まずは自分たちの重要な目的を果たすために、アタシのような、おかしな風体の(つまり富士山頂でセーラー服を着た)女の事など、構って居られなかったのかも知れない。
その団体のメンバーは、お金持ちの老夫婦と、近習の者たち、と言った風情だった。召使いが運んで来た荷物を解き、中から御節料理を入れるような、黒い漆塗りの箱を出し、ソレを、うやうやしく老人たちに渡した。
アタシはその様子を見て、直ぐに、彼等が何者なのか、察する事が出来たのだった。




