⑫ ロンドン塔
次の場所は何だか、雨模様だった。
いや、霧か?それに辺りが薄暗くて、時刻もよく分からない。人通りが無いから、恐らく深夜なのだろう。
目が慣れて来ると、何か黒々とした大きな建物が見えて来た。反対側には大きな川が流れているようだ。
アタシがそこまで解った時、突然、頭上で大きな音が鳴り響いた。
それは、聞き覚えのあるメロディだった。
ああ、確か"ウェストミンスターの鐘"だ。
そしてその後に、ゴーン、ゴーンという重低音が鳴り響いた。つまりここは、午前2時のロンドンか。
目の前にそびえる建物は、ロンドン塔という訳だ。
すると霧の中に、人影が見えて来た。
ソレは、だんだんこちらに近づいて来る。
やがて、人影の様子がはっきりして来た。
どうやら、女性のようだ。
ただ、来ている衣装が何だか、古めかしいな。
まるで中世のお姫様のような……?
まさか、こんな夜更けにコスプレか?
髪の色はブルネットだ。顔も見えた。
でも顔色が悪いぞ、いくらなんでも白すぎる。
まるで生気を感じない顔だ。
まさか、アレは……!?
「あら、珍しいお客様ね。こんな時刻に、私のところに来るなんて」
出し抜けに、その女がキレイな英語で喋りかけて来た。
何故かソプラノなのに、陰鬱な雰囲気の声だった。
「寂しかったのよ。さあ、私と朝まで、語り合いましょう?」
「あ、あなたは、もしや……アン・ブーリン?」
アタシは震える声で、その女に尋ねた。
「……そうよ。アナタ、異国の方とお見受けするのに、よくご存じなのね?」
「え、ええ、ソレはもう、有名ですから……」
アタシは震えが収まらなかった。
「証拠をお見せしましょうか?」
「いえいえ、ご無理なさらずに……」
アタシは、とても嫌な予感がした。
すると、その女は、自分の頭に手をやり、首から切れた頭を、両手で持ち上げて見せたのだ!嫌な予感が的中した。
「コレで、どうかしら?」
その女は、そのままの状態で笑顔になった。
アタシは物理学者だ。だから幽霊などという、非科学的なモノなど、認める訳には行かないのだ。行かないのだが……では、目の前に居るコレは何なのだろうか?何とか幽霊を、既存の物理学で説明できないだろうか?
半ば現実逃避しながら、アタシは自問自答した。
そして、かろうじて、一つの推論を導き出したのである!




