⑪ トラ・トラ・トラ!
ソレはゼロ戦部隊だった。
それぞれの機体が、魚雷を腹に抱えている。
これが"宣戦布告前の騙し討ち"と悪名高い、真珠湾攻撃の始まりという訳か。
そしてコレこそが、第二次世界大戦の幕開けなのだ。
不意打ちに対してひとたまりも無く、次々に沈められて行くアメリカの戦艦。
今ごろ、攻撃隊長の淵田美津雄中佐が、嬉々として、司令部に向けて、"トラ・トラ・トラ(ワレ奇襲ニ成功セリ)"と暗号無線を打っている事だろう。
まったく、忌まわしい出来事だ。この件が元で、暫くの間、米国では"リメンバー・パールハーバー(真珠湾攻撃を忘れるな)"という気運が高まったのは有名な話だ。
しかしよくもまあ、現在の日米は仲良く出来ているものだ。アタシは時折ソレを不思議に思う。アメリカさんの懐が深いのか、それとも、もっと別の旨味が有るのか……。
それはさて置き、あそこで死んでいく、2000人以上の人間は救えない。
そんな事をすれば、歴史が変わってしまう。
この場でのアタシは、無力だ。
精々これからの世界で、第三次世界大戦を防ぐ事に、注力するしかないのだろう。
苦々しい気持ちを抱いたまま、アタシはまた時空ジャンプをして、その場をあとにした。
次に出た場所は、温暖な気候で、空気が乾いていて、過ごしやすい感じだった。
ただ、とんでもない人混みだ。
それに、どうやら白人が多いようだ。
みんなで、随分遠くの様子を注視している。
アタシもつられて、そっちの方を見てみる。
すると突然、轟音とともに、遠方の地上に炎と煙が広がり、何かが空高く舞い上がって行くのが見えた。
群衆は歓声を上げた。
アレは、アポロ11号か。
つまりここは、フロリダ州ケネディ宇宙センターを望む場所。そして今は、1969年7月20日13時32分と言う訳だ。
まさに"人類の進歩と調和"だな……ああ、コレは大阪万博のスローガンか。アタシは群衆の後ろで、人知れず、そんな"一人乗り突っ込み"をしていた。
アタシは、そもそも物理学者なのだ。
まあ、他人様からは、マッドサイエンティストという、不名誉な称号を頂いているのだが……。
だからこういう、科学技術の結実を実感できる瞬間は、大好きなのだ。
だが、さっきみたいな愚かな戦争行為を起こすのもニンゲン。こんな素敵な景色を見せるのも、またニンゲンなのだ。出来れば、ニンゲンの素敵な一面だけを、伸ばしてやりたいものだ。
そして、ニンゲンの事を野蛮だと言う、アノ犬族と猫族たちを、少しでも見返してやりたい。
その時、直ぐ近くに、あのサン・ジェルマン伯爵と村田京子が居る事も知らずに、アタシは心底そう思っていたのである。(第19巻 参照)




