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Refrain - 再起は精霊とともに -  作者: 青黄緑
『魔都突入』編
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45. 魔女の作戦


 リガイア帝国。リルオール王国の北側に隣接する軍事国家であり、領土拡大のため周辺諸国への侵攻を繰り返しており、リルオール王国もその標的となった。

 ライラの村を焼き払ったのもこのリガイア帝国であり、その戦火の中でライラはセラと契約した。


(まさかこんなところでまた帝国の名前を聞くことになるなんて思ってなかったな。)


 今は眠りについているセラ。ライラにとって始まりの精霊である彼女との出会いはかけがえのないものだが、それで全てがチャラになるわけではない。

 当時の痛みは消えることなくライラの中に残り続けている。


「10年前の侵攻の際に和平不可侵条約を帝国とは結んだが、それは建前で現状は冷戦状態だ。お互いに関わらず、一定の距離を保つことでこの均衡は成り立っている。」

「下手に刺激を与えれば戦争の火種になりかねない……ということですね。」


 リアーナの言葉をレインが引き継ぐ。リアーナは頷き、そして参加者を見渡す。

 先走りがちなキョウからも反論が無いところを見ると、彼もこの状況を重く受け止めているようだ。


「帝国側に事情を説明して、正式に調査に赴くというのはダメなんですか?」


 質問をしたのはレントだった。その声からはは焦る気持ちが滲み出ており、連れ去られた仲間を早く連れ戻したいという想いが溢れ出ている。ただ―――


「帝国側に、おたくの国に悪党がいるから調べさせてくれって言うのか?向こうからしたらそんな怪しい申し出はないだろうな。それこそ戦争になりかねねぇ。」


 キョウがレントへと言い放つ。だが彼とてレントのその気持ちを踏み躙りたいわけではない。言葉こそきついが、その声色は諭すような含みを持っていた。

 

「それに、『正式に』ということは国として手続きをせねばならん。国王陛下の承認をもらうのは、正直難しいだろうな。……冷たいことを言うが、国という立場から見た時に、冒険者一人のためにそんなリスクを犯すことは……ない。」


 リアーナが悔しさを滲ませたように言った。そう言う彼女の手は拳を強く握り、震えていた。

 みな同じ気持ちなのだ。リゼを、助けたい。


「じゃあ、リゼを助けることは―――」

「早合点をするな、アイク。私が一言でも出来ない、やらないと言ったか?」


 アイクを見るその目は弟を見る姉のそれではなく、かといって魔術師団長のものでもない。揺るぎない決意を孕んだ眼差しだった。


「でもどうやって……。」


 俯くアイクを見つめ、リアーナは静かに目を閉じ、大きく深呼吸をした。そして、話し始めた。


「……これから私の話すことは他言無用でお願いしたい。」


 目を開き、ゆっくりと周りを見渡す。誰からも反応はなく、リアーナの言葉の続きを待っていた。


「リガイア帝国『魔都』パスクールへと潜入し、リゼ・ミストレイルを救出する。そしてこれは、帝国側は当然だが、王国側にも知られてはいけない。」

「ちょ、ちょっと、待ってください!」


 話に割って入ったのはレインで、先程までの落ち着いた振る舞いとは裏腹に、今は眼鏡がずれているのも気付かないほど取り乱している。


「そんなこともし帝国に知られたらスパイ容疑で極刑すらあり得ます。そもそも、戦争になり得るそういうリスクは回避するという前提ではありませんでしたか?」

「ああ、その通りだ。よってこれは国としての『任務』で動くわけではない。なので、国軍側の人間は、私以外この話し合いのことは知らない。」


 リアーナの決意は固いようで、その言葉にも表情にも一切の迷いはない。レインは目を見開き、そして、諦めたようにため息をつく。

 リアーナは立ち上がり、話を続ける。

 

「時間が惜しい、話を進めるぞ。では人選だが、まずはキョウ。お前には来て欲しい。」

「ああ、行くなと言われても俺は行くぞ。」


 キョウの返答にリアーナは深く頷き、そして、ライラの方へと向き直る。


「それと、ライラ。お前にもお願いしたいと思っている。この話し合いの間、一言も喋っていなかったが、何か思うところでもあるのか?」

「思うところというか……私はこの話し合いがどういう結論になったとしても、行くつもりだった。弟子の危機に、師である私が何もしないなんて、そんなことは出来ないから。」


 ライラは魔術師団を抜けて以来、あまり深く人とは関わって来なかった。大切な人が出来るということは、それを失う痛みも大きく、深くなるからだ。

 だがそんなライラが、弟子と呼び、自身を師と自覚するだけの大切な存在が出来た。

 

 その変化を感じてなのか、リアーナの表情にはどこか安心の色が見えた気がした。


「ありがとう、よろしく頼むぞ。」

「姉さん、それなら僕たちも―――」


 アイクが同行を志願する。仲間が連れ去られたのだから当然のことだが、それに対してのリアーナの返答は残酷で、アイクが言い終わるよりも早く、鋭く、返された。

 

「ダメだ、アイク。お前たちが今回の作戦に同行することは承諾できない。」


 その答えにアイクは驚き、姉を見返す。

 今のリアーナは弟を溺愛する姉ではなく、リルオール王国最高戦力の一角として目の前の冒険者の実力を見定める、『不落の魔女』リアーナ・メルフィスの姿だった。


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