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Refrain - 再起は精霊とともに -  作者: 青黄緑
『魔都突入』編
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44. 魔都パスクール


「まず、迷宮での出来事とエルフェリオン王国襲撃がその『研究者』―――ラズベントだったか。の画策だったということはすでに共有している事実だが、その認識で進めても良いだろうか?」


 その確認事項に対して異論の声はあがらない。参加者を見渡し一つ息を吐くと、リアーナはその静寂を肯定と受け取り、再び調査資料へと目を落とし、話を続ける。


「この両件に共通している内容は襲撃に魔獣が利用されているということだ。そして、迷宮でのラズベントの『魔獣を研究している』という発言、それから察するに―――」

「まどろっこしいな、リアーナ。これからどうするか、それをちゃっちゃと話せよ。」


 そう言ってリアーナの話に割って入ったのはギルドマスターのキョウだ。

 燃えるような赤毛を一つにまとめ上げ、それよりも更に灼熱の紅い目を鋭く周囲に向けている。彼の背後の壁には彼の武器であろう大斧が立てかけられており、その存在感がさらに彼の圧を鋭くしている。

 会議の始まりから言葉こそ発していなかったものの、誰よりも強い威圧感をその身体から放っていた。


「物事には順序というものがあるだろう。」

「順序も何も、今からどこに行ってどいつをぶっ飛ばしてリゼを連れ戻すのか、それさえ分かりゃあ問題ないだろうが。」


 キョウは腕を組みリアーナを睨みつけ、有無を言わさない雰囲気を醸し出していている。

 キョウは元々は一冒険者であったが、その強さでギルドマスターにまでなった生え抜きだ。そのキョウを相手に真っ向から反論できる者はこの場ではリアーナぐらいで、ライラでさえも躊躇してしまうほどだった。


「その為の情報共有だろう。今回はお前が単身乗り込む訳では無いのだ。」

「別に俺は一人でも行ってやるよ。」

「そういう訳にはいかないだろう。どのように救出するのか、作戦は必要だ。それに、今のお前には立場もあるんだ。」

「ああ、そうだな。今の俺にはギルドマスターっていう立場がある。だからこそだろうが……!うちの大事な冒険者が拉致られたんだぞ。それを……リゼをすぐにでも助けに行かなきゃならねぇ。こんなとこでちまちま話し合いしてる場合じゃねぇだろうが!」


 キョウは机を叩き、身を乗り出す。その威圧感はこの会議室ごと吹き飛ばしてしまうのではないかと錯覚してしまうほどに強烈なものだった。

 周囲の面々にも緊張感が走る。


「……お前の気持ちも分かるさ。私とて同じ状況になった時に冷静でいられるか、その自信はない。だからこそ、冷静な立場でいられる者が必要だ。今回に関してはただ救出に駆けつければいい、そう出来ない複雑な理由と事情があるのだ。……まずは話を聞け。」


 キョウとリアーナがお互いを睨み合う。キョウの凄みも相当なものだが、リアーナも負けてはいない。

 二人の纏う空気がぶつかり合い、会議室全体が震えているようだった。


 どれぐらいの間睨み合っていただろうか。

 キョウが「はぁ」と一つため息をつき「続けてくれ」と言って背もたれへともたれかかる。

 途端に空気が和らいだ。


 アイクとレントが安堵の表情を浮かべ、ライラもひとまず胸を撫で下ろす。


「ありがとう、キョウ。では、続きを話そうか。迷宮とエルフェリオン王国の襲撃に共通していることが、魔獣によるものということだ。ラズベントの迷宮での発言の『魔獣の研究をしている』ということについて、それをするのに最適な環境は何か、ということを解析班と協議をしたのだが―――」


 ここまで言うと、リアーナは地図を取り出した。

 そこにはリルオール王国を中心とし、周辺諸国も記されている。

 皆の注目が地図へと集まる。


「大きく2つの条件が必要だという結論に至った。まず一つは単純に敷地の広さ。そしてもう一つは、一定以上の魔力の濃度だ。この二つの条件を満たす場所が二箇所、候補としてあがった。」


 リアーナがまず示した場所は、初めてラズベントと遭遇した迷宮だった。


「まず一つはリルオール王国西部のミラルド迷宮。以前探索計画が実施され、ラズベントが現れたところだ。ここの調査は完了しており、今では使用している痕跡はない。そしてもう一箇所だが―――」


 そう言ってリアーナが地図の別の場所を指し示した。


「ここだ。ガリオン山脈にあるパスクール遺跡。神話時代に栄えたとされる都市の遺跡だ。」


 指し示された場所を聞き、一同は驚きを隠せない。先程まで鋭い目つきを崩さなかったキョウでさえ困惑の色が見える。

 リアーナの言っていた複雑な事情と理由を、それぞれが理解し始めていた。


 「しかしそこは……人が足を踏み入れることができるような状態では無いのでは。」


 紺色の長髪を靡かせる、キョウとはある意味正反対と言える女性がこの会議で初めて口を開く。サブマスターのレインだった。

 理知的な表情をさらに際立たせるような銀の眼鏡の奥から、今の発言の意味を問うような目がリアーナに向けられている。

 ライラもその意見には同意だ。なぜならあそこは―――


「そうだ。みんなも知っての通りだとは思うが、あそこは今は魔獣の巣窟となっている。通称『魔都パスクール』。だが蛇の道は蛇。そういう環境だからこそそういった研究をするには最適なのではないかというのが、解析班と私の出した結論だ。」

「……。」

 

 レインは顎に手を当て何かを考えている。確かに理屈は通っている。むしろ、それしか考えられないようにも思う。


(でも、その問題以上にあそこは……。)


 恐らくライラの感じているもう一つの懸念はこの場にいる全員の共通認識だろう。


「目的地がここだとして、一番の問題がある。ガリオン山脈は隣接するリガイア帝国との国境に位置しており、『魔都パスクール』は、現在リルオール王国と和平不可侵条約を結んでいる、このリガイア帝国の領土であることだ。」

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