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Refrain - 再起は精霊とともに -  作者: 青黄緑
『大精霊の谷』編
41/43

40. 神話の終焉


聖域の空が、三つの色彩に塗り潰される。


そこには天を覆わんばかりの巨大なの魔法陣。その幾何学模様は怪しくも神秘的な『赤』の魔力を放っている。


そこから直下、神竜を逃がさぬよう地表までを繋ぐのは、レアレリーゼが展開した『青』の円柱状結界。


それは逃げ場を奪う檻であると同時に、これから放たれる膨大なエネルギーを一点に集約させるための『砲身』でもあった。


そして、その二色が混ざり合うかのように、結界内が『紫』の重圧で埋め尽くされて行く。


その空を焼き尽くさんばかりの三色の光の下では、アイク達パーティと『研究者』の熾烈な戦いが繰り広げられていた。


「ほら、攻撃を当ててみなよ!当たらなきゃ意味ないよ!」


『研究者』はリゼの座標移動で縦横無尽に出現するアイクとレントの攻撃を、ひらりと躱し続ける。

先程の魔獣の時のように『研究者』自身を転移させることができれば手札も増えるのだが、それが出来ない。


(あいつ、ネスの魔力を弾いている。というより、魔法そのものに対して対策をしている。)


ネスの魔術である座標移動は、その相手に魔力をマーキングする必要がある。何よりも、この『領域』の中にいる限りはその条件が満たされるはずなのである。

だが、『研究者』は何らかの方法でそれを防いでいる。

そして何よりも予想外だったことが。


(攻撃が、当たらない……!)


今まで見てきた戦い方、というよりも立ち回り方を見るに、直接戦闘は得意ではない印象を持っていたが、少なくとも現状は一撃も攻撃が当たっていない。


「アイク、リゼが……!」

「わかってる。でも今は信じるんだ!」


再びアイクとレントは転移により『研究者』の喉元へ迫るものの、まるで嘲笑うかのように攻撃を躱し、その薄ら笑いはより一層不気味さを増してゆく。


「無駄だよ。君たちの動きは魔力の流れを見ればすべて『計算』できる。予測の範疇を出ない稚拙な連携だね。」


その時、その不適な笑みが三色の光に照らされる。


世界が軋むような音が聖域に響き渡る。

上空、三色の魔力が臨界点を超え、結界という名の砲身では、神話を終わらさんとする終焉の『紫』が一層輝きを増す。


「凄まじい力だ。あれを手にすることができれば……。」


『研究者』はまるで目の前の三人は意に介さないかのように、恍惚とした表情で空を見上げている。


「もうこれ以上その侮辱するような表情で……ライラを苦しめるな!」


アイクが地を蹴り、その悪意を断ち切るため刃を突き立てる。

しかし『研究者』は後ろへ下がり、これを難なく躱わす。


「小細工が通用しないからってやけを起こしたのか?そんな馬鹿正直な攻撃が当たるわけないじゃないか。」


「……キィン。」


剣が鞘から抜かれる。

『研究者』のその背後。躱した先に待っているのは、レントだった。


「その汚い薄ら笑いを、二度と俺たちの前に見せるな!」


剣光一閃。

その断罪の剣閃は悪意の闇を切り裂いたーーーかに思われたが、そこに『研究者』の姿はなく、頭上から不適な声が聞こえた。


「今のは危なかったね。でも残念。努力も工夫も信念も、何一つ僕には届かない。悲しいけどそれが現実なんだよ。」


しかしその言葉を遮るように、魔法が放たれる。今まで『領域』の運用に専念していたリゼが、その悪意を穿たんと。


「正真正銘これが最後。もう、限界みたい。」


リゼの最後の力を振り絞った攻撃だ。

だが、攻撃の行く末を見上げた顔には諦めの色は微塵もない。


「裏をかいたつもりかもしれないけど、そんなバレバレの攻撃が当たるわけないよ。それに、僕には魔法は効かないからね!」


『研究者』が口を開けると、そこには無色透明の魔石が舌の上に見えた。


「魔封石。これがある限り僕には魔法は効かないんだよ!残念だったね!」


魔封石の力により、魔法攻撃に対して無傷が約束されている。その余裕が侮蔑の高笑いとなって聖域へと響いている。

ーーー魔封石の効果は、魔法に対してのみである。


『研究者』へと放たれた魔法が、その眼前で姿を変える。現れたのは、アイクだった。


「なっ……!」


アイクがいたはずの地上に目をやると、そこではリゼの魔法が炸裂していた。


「リゼが言っただろう。これが最後だと!」


ついにその刃が、届く。


ーーーーー


アイクの刃が『研究者』へと届くその刹那。セラは神竜の眼前へと浮かび上がる。


「眠るのだ。その矜持がまだ輝くものである間に。」


突き出した掌を力強く握りしめる。

瞬間、『砲身』の中に凝縮された紫の超重力弾が、音を、光をを置き去りにして放たれた。

逃げ場のない青の檻の中で、流星のような輝きが神竜を呑み込んでゆく。


静寂。


空に展開されていた青の円柱結界が、役目を終えてガラス細工のように砕け散る。

それは同時に、神竜を縛り付けていた唯一の『檻』が消えたことを意味していた。


紫の砲撃に焼かれ、致命傷を負った神竜。

だが、その瞳から命の火は消えていなかった。むしろ、結界が解けた瞬間にその闘志はさらに鋭く、猛烈に燃え上がる。


「……まさしく伝説、だな。」


セラが呟いた瞬間、神竜は残された全ての生命を、その喉元に凝縮させた。


それは咆哮ではない。


全てを無に帰す、純白の熱線。

結界を維持していた魔力の反動で、回避の術を失ったライラの肉体へと、死の光が肉薄する。


「ライラの物語を、ここで終わらせはしない……!」


砕け散った結界の残滓を強引に集束させ、セラは目の前に三重の障壁を築く。

だが、神竜の執念はそれを容易く紙のように引き裂いていく。


障壁が砕かれるたび、血が蒸発するような熱気と凄まじい衝撃が全身の骨を軋ませた。


「神竜よ、そなたの神話を穢させはしない……!」


その祈りは三色の輝きとなって、熱線をかき消した。


ーーー神竜の瞳から濁りが剥がれ落ちる。

光の粒子となって消えゆく巨躯。その最後の一瞬、神竜は金色の瞳で自分を呪いから解き放ってくれた少女を、静かに見届けた。


勝利と引き換えに、支えを失ったライラの体は、重力に従い地上へと真っ逆さまに墜ちていった。


そして、そのお伽話の結末を見届けるもう一つの影が、聖域の侵食を加速させる。


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