39. 光の照らす先
僕は昔から何も恵まれなかった。
運にも恵まれず、財にも恵まれず、才能にも恵まれず、環境にも恵まれず。
そして今もこうして僕が生み出した存在が僕に斬りかかろうとしている。
なんて恵まれていないんだろう。
僕がこいつを造り出したのだから、僕は親みたいなものなのに。
ーーー親に反抗するなんてダメじゃないか。
そんなことあってはいけない。
許せない許せない許せない許せない。
そんな子供、消えてしまえばいいんだ!!
ーーーーー
魔獣が『研究者』へと斧を振り下ろしたと思った瞬間、「バチン」と音を立てて、魔獣は跡形もなく消え去った。
「あれで倒せるとは思っていなかったが、こうもあっさり対応されるとは。」
「手を止めたらダメだ。頭を回すんだアイク。あいつに空の戦いの邪魔をさせてはいけない。」
アイクとレントが空を見上げる。
衝撃が鳴り響き、空気が燃えている。
そこではまさに神話の1ページのような激しくも神々しい戦いが繰り広げられている。
「危うく我が子に殺されるところだったよ。ひどいことをするじゃないか。」
『研究者』が地上へと降り立ち、何の感情もこもっていない空っぽな声色で言いのける。
「しかし、こんな単純なミスディレクションに引っかかってしまうとは。僕もまだまだということだね。その精霊の魔術効果は味方にだけ適応されるものとばかり思っていたよ。」
相変わらず、感情の欠落したような軽い反応だった。
「……リゼ、大丈夫か?正直、このギリギリの均衡を保てているのは君の力が大きい。」
レントがリゼの前面で剣を構える。
そしてアイクも、レントの隣に並び立つ。
リゼの魔力消費はもう限界に近い。
そして二人も、リゼの状態を感じ取っていた。
「大丈夫。これ以上、誰も不幸にはさせない。」
だがリゼはそんなことでは折れない。
決意とともに、残りの魔力の全てを注ぎ、再び『領域』を出現させる。
誰も口には出さないが、これが最後の攻防になると、その場にいる全員が感じていた。
「行こう。終わらせるんだ……!」
アイクの言葉を皮切りに、アイクとレント、二人の姿が消え去る。
「さあ!君たちの終わりを始めようか!」
渇いた、どす黒い声が領域に響き渡った直後、『研究者』の頭上に消えた二人が現れる。
地上の戦いは最終局面へと突入した。
ーーーーー
迫り来る爆炎の中、地上から立ち昇る三人の覚悟は、心地よい三重奏のようにライラの肉体を通してセラの中へと流れ込む。
(感じるか、ライラ。……かつてのそなたは独りで背負い、独りで失った。だが、今のそなたの背には、こんなにも温かな光が灯っておるぞ。)
三人の魂に呼応するように、三体の精霊達もその輝きを増してゆく。
主を、そして、主が守りたい者達を守る為に。
「いよいよ時間もない。終わらせよう。」
セラは眼前に迫る灼熱の炎へと両腕を真っ直ぐと伸ばした。そして、見えない弓を引くように右手を引き寄せる。
周囲の魔力が左手の指先の魔法陣へと収束し、巨大な矢が形成される。
赤の魔石が光り輝く。次は私の出番だと、そう言っている。
「ルナリーニア。私たちの怒りを、想いを、そなたの力で知らしめるのだ!」
放たれた矢は光の尾を引きながら空気を切り裂き、神竜の炎を掻き消してゆく。
そしてその矢は、その勢いを殺すことなく神竜へと向かってゆく。
神竜は本能的な危機感に咆哮し、漆黒の翼を盾にするが、この聖域という場においての精霊に対してのアドバンテージと、アイク達との魂の共鳴が、その威力を増幅させる。
矢は防いだ翼を貫き、そのまま神竜の肩へと突き刺さる。
だが神竜にもこの世の頂点たる生物の意地がある。その意地は後退りさえも許さない。ライラを鋭く睨みつけると、翼を広げた。
そして、渾身の力で翼を羽ばたかせた。その衝撃は風の刃となってセラへと襲いかかる。
神竜が放った風の刃がセラの頬をかすめ、背後の大気を切り裂く。
その衝撃にライラの細い肉体が震えるが、セラの瞳に宿る紫の炎は消えない。
「お互い、これが最後だな。」
セラが右手を空へと、神竜へと向ける。
そして、今までで最も大きな魔法陣が神竜の頭上へと現れる。
神竜は咄嗟に回避を試みるも、それは青の結界によって阻まれる。
「伝説を相手に一対一で相手にできると思い上がるほど間抜けではない。こちらは、四人がかりだ。」
魔法陣が赤く輝いた後、紫の魔力が付与される。
ルナの攻撃魔法に、セラの重力による加護が与えられたのだ。
「このお伽話の先で、そなたの盟友が待っている。私の盟友は、まだこんなところで光を失う訳にはいかない。」
セラはまだ温かい、ライラの胸に手を当てる。この温もりを、失くしてはいけない。
「みなの願いを聞き入れよ。眠るのだ。」
魔法陣が眩く光る。
その光が照らすのは悲しきお伽話の続きとなるのか、それとも今を生きる者たちの進む先となるのか。




