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Refrain - 再起は精霊とともに -  作者: 青黄緑
『大精霊の谷』編
34/43

33. 聖域に沈む


アイクは地を蹴り、悲愁の英雄へとその刃を向ける。

その誇りを守らんとするために。


だが、フーリヒは巨大な大剣をまるで手足の一部かのように自在に、舞うように華麗に剣閃を走らせ、その刃を受け流す。


「くそ、何でその大剣をそうも軽々と振り回せるんだ。」


攻撃をいなされたアイクが振り返ると、すでにフーリヒは追撃を加えようと切先を後ろへ流しているのが見えた。

そして次の瞬間にはその切先をアイクへと向けて放った。


「させるかよ!」


その横薙ぎの一閃を受けたのは、背後から飛び上がってきたレントだ。


「重い……!」

その衝撃にレントは体制を崩し、そこへフーリヒの蹴りが飛んでくる。

レントは地を転がり、頬に付いた傷を拭う。


「大丈夫かレント!」

「ああ。しかし、人間一人を相手にしているとは思えない強さだ。」


アイクが駆け寄り、レントの隙を埋める。

二人の見据える先には息一つ切らすことなく佇む『英雄』の姿がある。

先ほど零れ落ちた涙はもう見えない。


「リゼ!さっきの話は本当なのか?魔力が揺らいでいるっていうのは。」

「うん。今はもう見えないけど、魔力の揺らぎが確かに見えた。あの瞬間は明らかに動きが鈍ってた!」


レントが立ち上がり、リゼへと問う。

リゼが感じた魔力の揺らぎ。

もしその点と点が繋がるのなら、そこに勝機を見出せるかもしれない。


「僕も、彼の涙を見た。もしそれがその魔力の揺らぎと関係あるのなら、きっと何かトリガーがあるはずだ。」


フーリヒはゆっくりと剣を構え、そして瞬く間に距離を詰める。


「しまった!」

天にかざした大剣は、アイクへと振り下ろされる。

その刹那ーーー。


再び響き渡る神竜の咆哮。

それに呼応するように、フーリヒの剣筋が一瞬だけ乱れる。


大剣は空を切り地を割った。

三人は同時に、状況を理解した。


「揺らいだ……。もしかして、神竜の咆哮と、フーリヒ様の魔力が共鳴してる……?」

「そうか、二人はまだ繋がってるんだ……。あいつが嘆けば、彼もまた嘆く。だったら、その隙を叩くしかない!」


三人は即座に行動を開始する。


リゼはこの戦闘中、何度か設置式魔法陣を試みてはいるものの、ことごとくが失敗に終わっている。


(やっぱりダメ。術式を重ねる間に土台から崩れていく。今はまだ使えない……。でも、やれることは、ある!)


「二人とも、私の前を開けて!一撃、牽制する!」


アイクとレントが左右に開け、リゼの視界にフーリヒが現れる。

詠唱で術式を編み、魔法陣を出現させる。


聖域の魔力の恩恵を最大限に活用して、砲撃を放つ。


フーリヒは先ほどの咆哮の影響が残っており、動きはまだ硬い。

それでも、上へと飛び上がりその攻撃を躱すが、リゼの攻撃はこれで終わりではない。


「修行も、全く無駄だったわけじゃないんだからね!」


リゼは向けていた杖を、飛び上がった先へと向け直す。

すると、その攻撃は向きを変え、フーリヒへと向かってゆく。


「術式条件の上書き。指向性を追尾へと書き換えた。その攻撃は当たるか、魔力が散るまで消えない。」


背後から迫る光の奔流。

フーリヒは空中で身を捻るが、咆哮による魔力の乱れが彼の反応を致命的に遅らせる。


「今だ!」

アイクとレントが、それぞれ左右から地を蹴った。

だが、戦士としての戦闘本能は、すでに主の元へと帰っていた。


魔法を、二振りの剣戟を空中で華麗に躱し、その大剣は二人の剣士へと狙いを定める。


「……まずい!」


横薙ぎ一閃。

アイクとレントの胴体は真っ二つに泣き別れるーーーと思われた時、今までで最も大きな、悲哀に満ちた慟哭が聞こえた。


その悲しき嗚咽とも言える慟哭は、フーリヒの魂へと刻み込まれ、致命的な隙を与えた。


最後にして最大の好機。

二人は力を振り絞り、信念を剣に乗せ、振るった。


英雄の剣が上がるより早く、二人の刃がその鎧を、その呪縛を貫く。


――その瞬間、世界は静寂に包まれた。


崩れ落ちるフーリヒの兜から、かつての伝説が、一人の男としての顔を見せる。

彼は小さく、慈しむように頷くと、灰となって空へと還っていった。


「……やった、のか?」

「それよりも急ごう。ライラの方へ加勢しに行かないと!」


勝利の余韻に浸る間もなく、三人は走り出す。

遠くに見える、ライラの灰緑色の髪。

その背中を目指して。


急いで向かった先にあった光景は、巨大な竜の姿とそれに立ち向かうライラ。

周囲の地は割れ、岩は砕かれ、木々は焼き払われている。

その光景に三人には緊張と同時に、ライラと再会した安堵に包まれる。


「ライラさん!」

リゼが喜びの声をあげ、三人の姿を捉えたライラの瞳が、ふわりと和らいだ。

刺々しい警戒心が解け、慈しむような、優しい師の顔。


その直後だった。


メチャリ、と重く湿った音が、聖域の静寂を切り裂いた。


彼女の胸を突き破り、黒い魔槍がせり出す。

「あ、が……。」


ライラの口から、言葉の代わりに熱い鮮血が溢れ、地面をを赤く染めてゆく。

糸が切れた人形のように崩れ落ちる体。


「あはは!見てよ、あの顔。希望が絶望に変わる瞬間の表情……。たまらないね!」


岩陰から現れた研究者が、壊れた玩具を見るような目で笑う。

ライラの指先から転がり落ちた杖は、主の血溜まりに浸かり、光を失った。


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