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Refrain - 再起は精霊とともに -  作者: 青黄緑
『大精霊の谷』編
27/43

26. 師弟の初陣


「みんな、ちゃんと準備はしてきた?」

約束の三日後、四人は王都の街門前に集合した。


荷物の重みを確かめながら、ライラは朝日を浴びる街門を見上げた。


魔術師団時代、遠征といえば常に緊張と責任を伴うものだった。

それは今も変わらない。

だが、今のライラの隣には、軽口を叩き合う若い三人がいる。


(一人じゃないっていうのは……こういう感じ、だったかな。)


三年前、南の空を見上げて立ち尽くしていた自分に教えてあげたい。

今の私の周りには、こんなにも騒がしく、愛おしい時間が流れているのだと。


精霊たちの温もりがピアスを通して伝わってくる。

後悔は消えないし、悲しみも完全には癒えない。

それでも、これから始まる旅が「過去を精算するための苦行」ではなく、「未来を知るための冒険」であることを祝福しているようだった。


「はい!食料、路銀もバッチリです!」

「僕とレントも確認したから大丈夫だよ。リゼに任せてると遠足の準備になってしまうからね。」

アイクとレントが苦笑いをし、リゼがそれを見て不満そうな反応をする。


微笑ましいやりとりではあるが、ライラは少し真剣な表情に変わる。


「せっかくの遠征だし楽しむなと言うつもりはないけど、緊張感は忘れちゃダメだよ。

道中には魔獣も出るし、アイクたちはギルドの依頼もしっかりやらないとだからね。」


三人も分かっていることだとは思うが、あえて伝える。

今はこうして笑っているが、このメンバーが揃うと否が応にも迷宮での悲劇が思い出される。

あんな後悔は二度としたくはない。

そのために出来ることなら、多少嫌なことであってもちゃんと伝えなければいけない。


「分かっていますライラさん。俺もあの時のような失態は二度と起こしません。必ず、です。」


レントはライラの言葉の意図をちゃんと汲み取ってくれたようだ。

その目にはあの時のような慢心はなく、その言葉は力強い決意に満ちている。


(変わったね、レント。)


「じゃあ、行こうか。」

ライラの合図とともに、四人は『大精霊の谷』へと向けて出発した。


ーーーーー


出発から二時間ほど。

これまでは家屋などの建造物がちらほら見られたが、王都から離れるにつれてその数は減ってきている。

道もそれに比例して少しずつ険しいものになってきた。


「それで、目的の『大精霊の谷』って、具体的にはどこにあるの?」

アイクがライラに尋ねる。

その横顔にはうっすらと汗が滲んで見える。


「私も行ったことはないんだけど、リルオール王国とエルフェリオン王国の国境の南側あたりかな。

休みなしで移動してだいたい一日かからないぐらいだろうから、どこかで野営することになると思う。あとさ。」


ライラは少しだけ気になっていたことをアイクに聞いてみる。


「こんな数日かけての遠征、よくリアーナが承諾したよね。絶対に行かせないと思ってたよ。」


弟のためにギルドを半壊させた人だ。

心配が行き過ぎて今頃は発狂しているのではないだろうか。

容易にその姿が想像できる。


「ああー、かなり騒いではいたよ。でもギルドの依頼もあるし、ちゃんと黙らせてきた。」


リアーナを『黙らせる』ことができる人間なんてアイク以外にはいないだろう。

ライラにも出来ないし、騎士団長であっても出来ないだろう。

『黙らされた』リアーナを想像すると、なかなか面白かった。


「そうだ。そのギルドから依頼されている魔獣はどのへんにいるの?」

「丁度この先にある鉱山付近にいるそうです。

そのせいで採掘作業が進められないと、ギルドに依頼がありました。」

レントが隣でその返答を引き継ぐ。


「なるほどね。確かに、あのあたりから向こうは魔獣が出るだろうからね。戦いの前にどこかで休んでいく?」


アイクだけではなく、レントとリゼにも少し疲れが見える。

ここまで休みなしで来たのだから当然だろう。

ライラも全く疲労がないと言えば嘘になる。


「いや、大丈夫。状況次第ではあるけど、少しでも早く討伐しないとだからね。休息はその後にするよ。」


(アイクらしいね。こういうところはリアーナとよく似てる。)


頼もしい返答をしたアイクの少し後ろ、リゼをふと見てみると、険しい顔をして何やらぶつぶつと独り言を呟いている。


「リゼ、どうしたの?」

「あ、すみません。この前教えてもらった設置式の魔法陣のことを考えてて。

この準備の間にも練習したんですけど、もともとある術式に条件を組み込む感覚がなかなか上手く掴めなくて。」


そう話している最中にも、リゼは考え込むように手を頬にあて、言い終わるとそのまま、また一人でぶつぶつと呟きはじめる。


「私の感覚の話をすると、になるけど、『組み込む』よりも『重ねる』と思った方が私は分かりやすいかな。

頭の中で完成形をイメージして、そこに向かって『重ねて』いく感じかな。

ほんとに感覚の話なんだけどね。」


「『組み込む』じゃなくて『重ねる』……。うん、なんだかしっくりくる感じがします!」


ライラはその反応を見て感心した。


魔術は他の戦闘方法とは違って、魔力を使い『無』から『有』を作り出す技術である。

そこに大事なことは、立体的な『感覚』を掴むこと。

術式の理解度の高いリゼは、やはりその部分が長けていると改めて感じる。


「見えてきたよ。」

アイクがそう言って示した先には、炭鉱夫たちが集まっていた。

一刻も早く魔獣討伐をして欲しいと、首を長くして待っていたのだろう。


アイクが代表者と思われる炭鉱夫と話をして、戻ってきた。


「この先の採掘場の入り口付近、そこに魔獣たちがいるみたいだ。」

「魔獣『たち』ってことは、一体じゃないんだね。」

「うん。今確認出来ているだけで最低でも五体はいるって言っていた。」


全員に緊張が走る。

ライラを含め、全員の脳裏には迷宮の記憶が蘇る。

しかし、硬くなっているわけではなく、ほどよい緊張感を持てている、そういう印象だった。


「あれだね。」

採掘場へ向かうと、すでに三体の魔獣が陣取っていた。

例えるならば犬だが、その大きさは人一人よりも大きい。


前衛にはアイクとレント、後衛にはライラとリゼ。

各々が剣を、杖を構える。


恐怖、緊張、気迫……様々な感情が場に渦巻いていて、それはライラも同じ。

だが、精霊たちに背中を押されるように、師として言葉をかける。


「……みんな、行くよ。今回は私も戦闘に参加するからね。それと、リゼ。」


ライラがリゼへと話しかけ、リゼは視線だけをライラに向ける。


「設置式魔法陣を使った戦い方、よく見ててね。」


師弟四人の臨時パーティの初陣の火蓋は、ライラたちを見つけた魔獣の雄叫びによって切って落とされた。


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