↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪うほど欠けていく俺は、今度こそ居場所を守りたい ~能力も記憶も感情も奪う《万象奪界》の異世界盗賊譚~  作者: 色乃理
第四章 帰る場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/40

間話「取り戻す者」――カタリナ視点

 意識が戻ったとき、最初に感じたのは、両脇から身体を支える腕だった。足が土の上を擦っている。暗い林の中を、二人の部下に運ばれていた。


 「……降ろせ」

 声を出すと、喉がひどく乾いていた。

 「騎士団長!」

 「意識を取り戻されたのですね」

 「自分で歩ける。降ろせ」

 「しかし――」

 「命令だ」


 二人は顔を見合わせ、近くの木の根元へ私を座らせた。背中が幹へ触れた途端、全身の痛みが一度に押し寄せてくる。肩と胸が熱く、《修羅変生》を無理に使った反動で、腕も脚も鉛のように重かった。


 周囲を見ると、先を行く騎士たちも足を止めていた。先頭の騎士は意識のない仲間を背負い、別の一人は槍を杖代わりに立っている。その鎧には血が付着していた。


 「死者は」

 「いません。全員、生きています」

 短く息を吐いた。


 あれだけの戦いで、誰も殺されていない。

 私を打ち倒すとき、盗賊の頭は刃ではなく大剣の腹を使った。倒れた私をそのまま地面へ落とさずに受け止め、低く言った。

 ――ここまでだ。

 敵に命を拾われた。

 騎士団長として、これほどの屈辱はない。


 「賊は」

 「追ってきていません」

 「馬車はどうした」

 答えはすぐに返ってこなかった。

 それだけで分かる。

 「……見失いました」

 部下が俯く。

 「申し訳ありません」

 「お前たちの責任ではない」


 立ち上がろうとして右膝が揺れ、木の幹へ手をついたが、立ちきれずに腰を下ろした。足元の土へ意識を向ける。

 動け。

 何も起きなかった。

 もう一度、魔力を流す。

 盛り上がれ。

 私の身体を支えろ。

 土は沈黙したままだった。


 以前なら、指をわずかに動かすだけで応え、壁にも、槍にも、押し寄せる波にも変わった。今はその感覚さえなく、空になった場所だけが身体の中にはっきりと残っている。


 黒紫の光。

 左腕へ触れた少年の指。

 そして、何かを引き剥がされた感覚。


 「……私の大地を」

 奪われた。

 十年以上かけて磨いてきた力を。

 何度も人を守ってきた力を。

 あの少年が、たった一度触れただけで。


 「騎士団長。あの少年はいったい……」

 「ユイト」

 戦いの中で、盗賊たちが何度も呼んでいた。

 奪うことを怖がっているように見えた。私から力を奪ったあとも喜んではおらず、こちらを見る顔はむしろ苦しげだった。それでも、仲間を守ろうと私の大地を使った。


 「次に見つけても、殺すな」

 「ですが、騎士団長から能力を奪った者です」

 「だからこそ、生かして捕らえる。奪ったものを返す方法を聞き出す」

 返せるのかは分からない。

 だが、諦めるつもりはなかった。

 「承知しました」

 騎士が頭を下げる。


 その隣で、私の大斧を抱えていた部下が尋ねた。

 「騎士団長。なぜ、あれほど荷台を庇われたのですか」

 周囲の視線が集まった。

 戦いの間、私は荷台へ矢を射ることも、部下を近づけることも許さなかった。

 「城から盗まれた重要なものが積まれていた」

 「帳簿ですか」

 「それ以上は、今のお前たちが知る必要はない」

 部下はなおも何かを聞きたそうにしていたが、やがて頭を下げた。

 「失礼しました」


 幌の奥に、セレナ殿下はいた。一度も私の名を呼ばず、助けを求めることもなかった。私が近づこうとするたび、盗賊たちが前へ立った。

 だが、無理やり閉じ込められていたのなら、あの方は必ず声を上げたはずだ。

 城から連れ去られたのではない。

 自分で、あの馬車へ乗った。

 認めたくない事実が、胸の奥へ沈んでいる。


 ――何を取り戻しに来た。

 盗賊の頭の声が蘇った。

 あの男は、私の目当てが帳簿ではないと気づき、誰を守ろうとしているのかまで見抜いていた。


 セレナ殿下。

 なぜ城を出たのですか。

 なぜ私へ何も告げてくださらなかったのですか。

 なぜ、盗賊と一緒に行くことを選ばれたのですか。


 聞かなければならない。

 王都の外へ出れば安全だとは限らない。

 あの方が自ら選んだ道だとしても、危険の中へ消えていくのを見過ごすことはできない。

 それが本人の意志を無視することになっても。

 守れなかったあとで悔やむよりはいい。


 「騎士団長、今はお休みください。王都へ戻れば、すぐ治療を――」

 「大斧を」

 部下が抱えていた大斧へ手を伸ばす。

 「ですが」

 「渡せ」

 柄を受け取ると腕に痛みが走ったが、離さなかった。刃を土に突き、支えにして立ち上がる。


 大地は、もう応えない。

 それでも、腕は動く。

 脚も動く。

 残った三つの能力も、まだ私の中にある。

 何もかも失ったわけではない。


 今すぐにでも、あの馬車を追いたい。だが、仲間を背負った部下も、槍に身体を預けた部下も、私の命令を待っている。私も斧を支えに立つのがやっとだ。

 まずは、この者たちを全員帰す。追うのは、それからだ。


 「全員、王都へ戻る。負傷者を先に歩かせろ」

 「騎士団長は」

 「最後尾を行く。一人も置いていくな」

 反論を許さず、林の奥へ目を向けた。盗賊たちの灯りはもう見えない。だが、消えたわけではない。この道のどこかを進んでいる。


 黒紫の光を使う少年。

 〈奪還の獅子〉ガレウス。

 そして、セレナ殿下。


 必ず見つける。

 奪われた大地を取り戻す。

 セレナ殿下も、必ず連れ帰る。

 今度は、何一つ奪わせない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。