↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪うほど欠けていく俺は、今度こそ居場所を守りたい ~能力も記憶も感情も奪う《万象奪界》の異世界盗賊譚~  作者: 色乃理
第三章 騎士団の追撃

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/40

第1話「塞がれた逃げ道」

 排水口を抜けてから、初めて足を止めた。


 城壁沿いの暗い水路を離れ、ガレウス団長の先導で炭焼き道の脇の林へ入った。王都で動く前に決めておいた、セドたちとの合流場所だ。

 木々の間に、馬車が一台。荷台には空の木箱と毛布、それに身を隠すための古い幌布が積まれていた。

 二頭の馬はすでにつながれ、炭焼き道へ向けて立っている。轡の金具には、音が鳴らないよう布が巻かれていた。


 御者台のセドが俺たちに気づき、手綱を握り直した。

 「出せます」

 「全員乗れ。すぐ出るぞ」

 団長が答えると、馬のそばにいたルフスが荷台へ回った。ティモンとネストルは道の見張りに出ている。


 聞き慣れたセドの声に、背負い袋の紐を握る手が少し緩んだ。城内ではずっと、次の角から誰が出てくるか分からなかった。

 今、目の前にいるのは待っていてくれた仲間だ。荷台へ乗れば、あとはセドが走らせてくれる。俺は馬車へ歩み寄った。


 セドが、俺たちの後ろにいるセレナを見て、目を丸くした。

 「……団長。なんで女の子が増えてるんです?」

 「セレナだ。城内で取引した。王都の外まで連れ出す約束だった」

 「セレナです。急なことで、ご迷惑をおかけします」

 荷台へ歩み寄りながら、セレナが頭を下げる。

 「いや、迷惑ってわけじゃ……」

 セドは俺たちとセレナを交互に見た。

 ライラが小さく笑う。

 「セド、口開いてる」

 「そりゃ驚くだろ」


 俺が荷台へ背負い袋を上げかけたとき、林の外で枝の折れる音がした。

 全員の手が止まる。

 木々の間から、ティモンが駆け込んできた。

 「団長。騎士だ」

 息を整える暇もなく続ける。

 「炭焼き道を上がってくる。今見えてるのは十人だ」


 レナリア先輩が馬車の脇で目を閉じ、すぐに開いた。

 「道を塞ぐように、横へ広がってる」

 セドが道へ目を凝らす。

 木々の向こうで、月明かりを受けた鎧が動いた。馬車を出そうとしていた、その先だ。

 「くそっ」


 すぐに出発するはずだった。

 けれど今、馬車を走らせれば、騎士たちの目前へ飛び出すことになる。


 団長が手で低く合図した。

 俺は背負い袋を荷台へ押し込み、セレナと一緒に車輪の陰へ身を屈める。

 ヴィンクは林縁の木陰へ移り、鎖槍を構えた。

 煙も灯りも出さずに待っていた馬車が、もう見つかろうとしている。


 足裏には、《地脈感知(グラウンド・センス)》の感覚が残っていた。

 魔力の扱いが雑な俺には、大きな違いを拾うだけで精一杯だ。それでも、城内で奪った力は俺の中にある。

 その代わりに、ライラの叫んだ言葉が抜け落ちていた。

 「ユイト!」

 名前は覚えている。焦った声だったことも。なのに、そのあとがどうしても出てこない。


 「ユイト」

 ライラが俺の袖を軽く引いた。

 「走れる?」

 「ああ」

 「よし。逃げ足は残しといてよね」

 いつもの調子なのに、俺の顔を確かめる目は笑っていない。

 城内で何を叫んだのか、聞きかけて口を閉じた。今はその時間も惜しい。

 「お前もな」

 ライラは短く頷き、木々の向こうへ視線を戻した。


 荷台の背負い袋には、潮待ちの帳簿と偽荷札、納品控えが入っている。

 団長が大剣を抜いた。

 「道を開ける。セド、合図したら馬車を出せ」

 「ああ」

 「これ以上、あの粉で人を壊させねぇ。ベックも助ける。帳簿を持って、全員で抜けるぞ」

 俺は頷き、剣の柄へ手を置いた。


 セレナが車輪の陰から団長を見上げた。

 「わたしは、何をすればいいですか」

 「見つからないことだ」

 団長が馬車を顎で示す。

 セレナは一瞬、戸惑った。

 「でも、王都の外には出ました。約束はもう――」

 「果たした」

 ガレウス団長が遮る。

 「約束は終わってる。だが、ここで置いてったら見殺しと変わらねぇ。隠れてろ」


 セレナが少しだけ目を見開く。

 「……分かりました」

 セレナは自分で荷台へ上がり、空の木箱の間へ身体を入れた。

 ルフスが幌布を掛ける直前、セレナが小さく顔を出す。

 「皆さんも、生きてください」

 それだけ言って、今度こそ姿を隠した。


 林の外で、鎧の擦れる音がした。

 一つじゃない。

 いくつも重なって、近づいてくる。


 馬は走れる。

 だが、逃げる道を開けるには、あの騎士たちを押し退けるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。