↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪うほど欠けていく俺は、今度こそ居場所を守りたい ~能力も記憶も感情も奪う《万象奪界》の異世界盗賊譚~  作者: 色乃理
第二章 王都潜入

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/40

第1話「王都の光と影」

 王都セグラディンの門は、俺が想像していたよりもずっと狭かった。

 人が通れる場所は、鉄格子に挟まれた細い口だけだった。

 その前で、人が二つに分けられている。

 身分札を持つ者。

 持たない者。

 札を持つ商人は、門番に札を見せ、荷の中身を二つ三つ答えるだけで通される。その横では、札のない老人が膝を震わせたまま、別の列へ押しやられていた。

 「……あの人は?」

 俺が小さく聞くと、ガレウス団長は前を見たまま答えた。

 「身分のねぇ奴だ。王都じゃ、人間扱いされるまでに、まず札が要る」

 「札がないだけで?」

 「だけで、だ」


 胸の奥が、嫌な音を立てた。


 前の世界より、ずっと露骨だった。

 俺たちは地方商人の荷運びを装い、列に並んでいる。身分札は本物だ。――ただし、持ち主は俺たちじゃない。悪徳商人の荷から“借りた”ものだった。

 「これ、本当に通るんですか」

 「本物だからな」

 ガレウス団長が低く言う。

 「王都は札を見て、人を見ねぇ。本物なら、別の顔でも通る」

 「ひどい仕組みだな」

 「だから使える」


 ライラが俺の袖をちょんと引いた。

 「ユイト、眉間すごい。門番に変なことしないでよ?」

 「しねぇよ」

 「じゃあ、能力で順番だけ先に奪って。あたし待つの嫌い」

 「能力を順番抜かしに使うな」

 「便利なのに」

 「そういう能力じゃねぇ」

 小さく言い合った瞬間、門番の視線がこちらへ滑った。

 俺は口を閉じる。

 ガレウス団長が札を差し出した。門番は名前も顔もろくに見ず、蝋印の凹みだけを撫でる。

 「通れ」

 門をくぐった瞬間――鼻の奥に、甘ったるい薬臭さが薄く刺さる。

 「……ユイト?」

 ライラが俺を見る。

 「白い粉の匂いがする」

 「ここでも?」

 「薄い。でも、同じだ」

 廃屋の香炉に染みついていた、あの匂い。

 なのに、石造りの城壁の内側では笑い声が跳ねている。親が子の手を引き、串焼きを分け合い、くだらないことで言い合っていた。

 ああいう光を、俺は二度失っている。

 人を見る前に、その人が何を持っているかを探しかけて――俺は奥歯を噛んだ。

 王都は眩しい。

 けれど、この光は届く場所を選ぶ。

 届かない場所で泣き声が止むころ、正義はようやく走り出す。

 だから俺たちは盗む。


 「うわぁ……でっか……!」

 隣でライラが目を丸くする。

 ガレウス団長は短く言った。

 「浮かれるな。まずは腹と寝床だ。動くのは夜」

 「団長も初めて王都に来たとき、絶対見上げたでしょ」

 「覚えてねぇ」

 「それ、見上げた人の返し」

 「黙って歩け」

 門から離れようとしたところで、検問台の陰から門番のひそめた声が聞こえた。

 「……“潮待ち”か」

 「声を落とせ。水門が開いたら、裏から回す」

 門番たちの前に立つ荷運びの男が、袖の内側から小さな木札を覗かせていた。そこには、波打つ線が二本刻まれている。

 ――潮待ち。

 辺境の廃屋で見つけた帳面の一文が、頭をよぎった。

 『潮が満ちたら運べ』

 「今、“潮待ち”って言ったよね」

 ライラが前を向いたまま囁く。

 「ああ」

 「海、ないのに?」

 「その“潮”なら、心当たりがあるわ」

 レナリア先輩が、ほとんど息だけで言った。

 「王都の地下には、大戦前から残る古い水路が張り巡らされているの。貯水槽の水門が開いている間だけ、水かさが変わる」

 「それを潮って呼ぶんですか」

 「昔の荷役たちは、そう呼んだらしいわ」

 ライラが小さく眉を寄せる。

 「じゃあ、“潮待ち”って……水門が開くのを待ってる?」

 「可能性はある。でも、まだ決めつけない」

 レナリア先輩は門番たちを見たまま答えた。

 ガレウス団長が、眉をひそめた。

 「ただの荷運びの隠語にしちゃ、根が深すぎるな」

 「門番まで知ってる」

 俺が言うと、団長は頷いた。

 「ここが入口だと思うな。もう内側に食い込んでる」


*


 大通りは、昼の光でぎらついていた。

 市場の屋台。焼けた肉の匂い。香辛料。香水。笑い声。

 「ユイト、上!」

 「え?」

 頭上を、小さな荷籠が音もなく滑っていく。建物の間に張られた銀色の導線を、魔石の光に引かれるように進み、二階の窓へ商品を届けていた。

 「何だ、あれ」

 「荷物運ぶやつでしょ」

 「見れば分かる。どう動いてんだよ」

 「知らない。でも便利」

 「雑だな」

 道の端では、頬と手の甲に細かな鱗を持つ亜人の薬草商が、葉へ指先をかざしている。淡い緑の光が走ると、萎れていた薬草がゆっくり起き上がった。

 向かいでは、腕に短い毛の生えた亜人の男が、人間なら二人がかりの木箱を肩に担いで歩いている。子どもが太い尻尾に触ろうとして、母親に慌てて止められていた。

 さらに奥では、小柄で肩幅の広い職人が、赤く光る石板の上で鉄鍋を熱している。薪も炭もないのに、油がぱちぱち弾けていた。

 「……すげぇ」

 「ユイト、口開いてる」

 「開いてねぇ」

 「開いてた。王都、初めてだもんね」

 「こんなの、今まで見たことない」

 名前くらいしか知らなかった種族も、仕組みの分からない道具も、ここでは当たり前みたいに暮らしの中へ混ざっている。

 前の世界にも大きな街はあった。

 けれど、これは違う。

 俺の知らなかったこの世界が、目の前で一気に広がっていく。

 ライラも目を輝かせていたが、すぐに別のものを見つけた。


 「ユイト、ほら見て! 絶対うまいやつ!」

 「お前は世界の広さより食い物かよ」

 「食べ物も世界の一部ですー」

 菓子屋の屋台では、魔石板の熱を受けた蜜が泡立っている。店主が細い棒を回すと、黄金色の蜜が幾重にも巻きつき、花の形へ変わった。

 「待て、いまは――」

 俺が止める前に、ライラは大柄で口数の少ない団員――ヴィンクの背後へ回り込んでいた。

 「ヴィンク、ヴィンク。ねぇねぇ」

 「……なんだ」

 「うっかり財布、拠点に置いてきた“かもしれない”んだけど」

 「置いてきたのか」

 「うん。置いてきた。たぶん。だから――お願い、一本だけ」

 ライラが両手を合わせる。

 ヴィンクは無言で俺を一瞥した。

 王都の門前で、ライラは俺の財布をひったくるように回収し、ヴィンクへ押し付けていた。

 ――ユイト、すぐ迷子になるから。

 とか言いながら。

 「お前、さっき自分でヴィンクに俺の財布預けただろ」

 「それはそれ。これはこれ」

 「何が違うんだよ」

 「管理者がヴィンクになった」

 「勝手に管理者変えるな」

 ヴィンクが諦めたように俺の財布から銅貨を放ると、ライラは勝利の笑みで蜜菓子を受け取った。

 「んん〜……王都、最高……」

 「ガレウス団長に聞かれたら怒られるぞ」

 「聞こえない聞こえない。はい、ユイトも一口」

 「俺の金なんだけど」

 「だから一口あげてるんじゃん」


 渋々受け取り、一口かじってライラへ返す。

 甘い。熱い。

 ――その普通が、胸にちくりと刺さった。

 「これ、銅貨二枚か」

 俺が何気なく呟くと、ヴィンクが眉を動かした。

 「村なら、粥を三日は食える」

 「……え」

 「王都じゃ、甘い菓子ひと口だ。場所が変われば、腹の価値も変わる」

 ライラが蜜菓子を見下ろし、少しだけ口を尖らせた。

 「……じゃあ、ちゃんと味わう」

 「急に素直だな」

 「銅貨二枚分だから」

 「俺のな」

 ライラはもう一口かじってから、ヴィンクへ串を向けた。

 「ヴィンクも食べる?」

 「いらん」

 「遠慮しなくていいのに」

 「そもそもユイトの金だろ」

 「細かいなあ」

 「細かくねぇ」

 俺も口を挟んだ。

 「お前、人の金で買っといて何でそんな偉そうなんだよ」

 「ちゃんとユイトにも一口あげたじゃん」

 「一口で恩を売るな!」


 ライラがけらけら笑う。

 そのまま、今度はレナリア先輩の前へ串を差し出した。

 「レナリア先輩も食べる?」

 「いらないわ」

 「さっきから見てたじゃん」

 「見てない」

 「じゃあ、これは?」


 蜜菓子を目の前で揺らす。

 レナリア先輩は少しだけ黙ってから、小さな一欠片を取った。

 「……甘い」

 「好きなんだ」

 「嫌いじゃないだけ」

 「じゃ、次はレナリア先輩のお金で買お」

 「調子に乗らない」


 ライラが声を上げて笑った。

 レナリア先輩が甘いものを食べるところなんて、初めて見た。


*


 大通りを外れると、王都の表情はあっさり変わった。

 石畳は欠け、排水溝の臭いが濃くなる。声が減り、視線だけが増えた。

 薬臭さも、少し濃い。

 宿を探す途中、白い看板を掲げた宿へ入ろうとしたところで、若い受付係に止められた。

 「荷運びの方は裏へ。正面口はお客様用です」

 「……あたしたち、客じゃないの?」

 ライラの眉が跳ねる。

 俺は門で使った身分札を取り出した。

 「荷物を届けに来たんじゃない。泊まりたいんだ」

 受付は札に目を落とし、それから俺たちの服を見た。

 笑顔は変わらなかった。

 「荷運びの方は、裏口からお願いします」

 「同じこと二回言った」

 俺がさらに言い返そうとすると、ガレウス団長が手で止めた。

 「やめとけ」

 「でも――」

 「慣れろ。王家、貴族、騎士、市民、札のない者。王都は人を上から順に並べる」

 団長は宿の白い壁を見上げた。

 「俺たちは、その並びのどこにもいねぇ」

 「盗賊だから?」

 ライラが聞く。

 「それもある。だが、札があっても服と仕事で分けられる。ここはそういう都だ」


 通りの角から、掠れた声がした。

 「……もう……ない……」

 虚ろな青年が壁にもたれていた。

 指先の近くに砕けた小瓶。白い粉の痕。


 「これ……」

 ライラの声から軽さが消える。

 レナリア先輩が膝をつき、青年の顔を覗いた。

 「依存症ね。魔力の流れも乱れてる……心を削られてる」

 「さっきの匂い、この人から?」

 「ええ。かなり濃い」

 青年の胸が上下するたび、俺の掌がむずむずした。

 《万象奪界》は、触れて初めて、相手から何を奪えるかが分かる。

 それでも、考えてしまう。

 もし、記憶が奪えるものとして現れたなら。

 奪った記憶の中に、売人へつながるものが残っているかもしれない。

 誰から買ったのか。

 どこで受け取ったのか。

 “潮待ち”が何を待つ印なのか。

 答えに近づけるかもしれない。

 俺は青年の胸へ手を伸ばしかけて――止めた。

 奪うまで、中身は分からない。

 答えが得られなくても、こいつの記憶だけは消える。

 手を引っ込める。

 けれど、もしこの青年が誰かを傷つけていたら。

 そのときも、“奪わない”を選べるのか。

 レナリア先輩が青年の首元へ指を添え、魔力の波を確かめた。

 「ヴィンク。この先に施療院がある。そこまで運んで。費用は団の取り分から出すわ」

 「……分かった」

 ヴィンクが青年を背負う。

 ガレウス団長はその背中を見て、低く言った。

 「治るかは分からねぇ。それでも、ここで捨てる理由にはならん」


*


 「……ユイト」

 ライラが俺の袖を引き、そのまま手を取った。

 「手、冷たくなってる」

 「……何考えてたか、分かるのか」

 「だいたいね」

 「便利だな、お前」

 「長い付き合いですから」

 裏通りの向こうから、車輪の音が近づいてきた。

 荷車が一台、人気のない路地へ滑り込んでいく。

 布で包んだ木箱。縄の結びは妙に丁寧で、布から覗く箱の端には雑な炭書きの印があった。

 波みたいな線と、短い文字。

 ――潮待ち。


 「まただ」

 俺が呟く。

 「箱、見える?」

 ライラが声を落とした。

 「やってみる」

 俺は《穿界視》の焦点を、木箱の内側だけへ絞った。

 板越しに何かの輪郭が浮かび――すぐに滲む。


 「……見づらい」

 「何かある?」

 「内張りから魔力が出てる。木の裏に札みたいなのが貼ってある。でも、その周りだけ輪郭が散る」

 「中身を隠してる?」

 「たぶん。中までは読めない。……でも、変なのは箱だけじゃない」

 「どこ?」

 「あの男の足」

 引き手の男は、割れた石畳や段差を避けているだけじゃなかった。

 見た目には何の傷もない場所で、荷車の進路を半歩だけずらしている。

 俺は焦点を車輪の先へ落とした。

 石畳の下に、古い排水路が走っていた。


 「下に水路がある」

 「見えるの?」

 「そこだけなら」

 「で、あの人は?」

 「一度も下を見てない。それなのに、水路の上に差しかかる半歩前だけ進路を変えてる」

 荷車がその上を通れば、車輪の音が変わる。荷が重ければ、古い石が沈むこともあるかもしれない。

 「道を覚えてるだけじゃない?」

 「かもしれない」

 俺は男の足運びから目を離さない。

 「能力か、才能かも分からない。でも、地面の下まで読んでるように見える」

 俺が踏み出しかけたとき、ガレウス団長の声が飛んだ。

 「追うな」

 「でも、団長――」

 「今ここで慌てて追えば、向こうに気づかれる。まず宿を取れ」

 「見失います」

 「だから覚えろ」

 団長は、荷車の消えた路地を一度だけ見た。

 「夜に戻る。同じ道を、今度はこっちの手順で見る」

 ライラが俺を横目で見る。

 「ほら。追いかけない」

 「分かってる」

 「足、前に出てたけど」

 「……戻した」

 「えらい」

 「子ども扱いすんな」


 半歩ずれる。

 下を見ずに、地面の下を避ける。

 あの足運びだけは、もう見間違えない。


*


 宿へ戻り、裏口から入った。

 荷運び用にあてがわれた狭い部屋で、俺たちは外の音を聞きながら夜を待つ。

 ガレウス団長は窓から路地の人の流れを確認し、施療院から戻ったヴィンクは黙って荷を整えていた。

 レナリア先輩は、王都の古い地図を机に広げている。

 「さっきの荷車、この辺りを通った」

 俺は地図の一点を指した。

 「下に排水路があった」

 レナリア先輩の指が、その先をなぞる。

 「なら、この古い水路と繋がってる可能性があるわね」

 「どこまで続いてる?」

 ライラが地図を覗き込む。

 「途中から記録がないの。大戦前の区画だから、埋まってる場所もある」

 「じゃあ、地図だけじゃ追えない」

 「ああ」

 ガレウス団長が腕を組んだ。

 団長の目が俺へ向く。

 「早く答えが欲しい顔してるな」

 「……そんな顔してます?」

 「してる」

 ライラが即答した。

 「すっごく」

 「お前に聞いてない」

 「早いほうがいいんでしょ?」


 部屋に小さな笑いがこぼれる。

 ガレウス団長が地図を指で叩く。

 「覚えとけ。早く辿り着くことと、正しく辿り着くことは別だ」

 「……はい」


 夕暮れが街の白い壁を赤く染め、やがて光が沈んだ。


*


 夜。

 宿の屋根に闇が降りると、王都の街灯が、通りの端から順に灯り始めた。

 石畳の継ぎ目を、青い光が通りの端から端へ走っていく。


 「うわ……」

 ライラが窓へ寄る。

 「見て、あっちまで光ってる」

 俺も窓の外へ目を向ける。

 「街灯まで魔力で繋がってるのか」

 「すごいでしょ」

 なぜかライラが胸を張った。

 「お前が威張るなよ」


 一つ灯る。

 その光を受けて、次が灯る。

 王都の大通りが、地上を流れる星の川みたいに浮かび上がった。

 そして空には、本物の星が昇っている。

 青白く大きな星と、その斜め下に寄り添う小さな赤金色の星。

 昇り始めは離れて見える二つの光が、夜が深くなるにつれて少しずつ近づいていく。


 「……綺麗」

 窓辺で、ライラが呟いた。

 いつもの軽さがない声だった。


 「ずっと一緒に昇るのかな」

 「さあな」

 「夢がない」

 「星に聞けよ」

 「聞こえないから、ユイトに聞いてんの」

 「俺にも聞こえねぇよ」

 ライラはしばらく二つの星を眺めていた。

 「じゃあ、明日も見よ」

 「明日ならわかるのかよ」

 「わかんなかったら、明後日も」


 顔を向けると、思ったより近い場所にライラがいた。

 肩が触れるほどではない。

 けれど、少し動けば触れてしまう距離だった。

 俺は空へ視線を戻す。

 二つの星は、同じ色でも、同じ大きさでもない。

 それでも、同じ夜を進んでいた。


 綺麗だと思った。

 こんな世界を、もっと見てみたいとも。

 けれど、その美しさの下には、別の匂いが流れている。

 甘ったるい薬臭さが、夜風に薄く溶けていた。

 潮待ちの印。

 門番の密談。

 水門で水位が変わる古い水路。

 輪郭を散らす木箱。

 地面の下を読むように歩く運び屋。

 断片は、まだ繋がり切っていない。

 でも、今夜なら続きを見られる。


 「ユイト」

 ライラが振り返った。

 「夜に出るなら、勝手に先に行かないで」

 「……勝手には行かないよ」

 「うん。行くならあたしも行くからね」

 「分かってる」

 「ほんとに?」

 「ほんとに」


 ライラは少しだけ笑う。

 「王都で迷子になったら、回収するの大変でしょ」

 「俺を何だと思ってる」

 「放っておくと、変な顔で裏路地に消える人」

 「またそれかよ」

 「だって治ってないし」


 言い返しかけて、やめた。

 王都の夜風が、どこかから甘い香を運ぶ。

 俺たちは窓の外を見た。

 今夜、王都の影へ踏み込む。

 ただし、焦って飛び込むんじゃない。


 見失わないために。

 奪うべきものを、間違えないために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。