26話 始まり
修学旅行当日。
5時にかけたうるさい目覚ましでなんとか起床。
制服に着替えて家を出たのが5時50分。
6時に角のコンビニで健と待ち合わせ。
電車に乗り東京駅へ。陽仁と合流。
4時間駄弁り倒し、到着前に駅弁をかき込む。
男の青春なんてこんなものだ。
これは旅行じゃない。修学旅行である。
つまり広島平和記念資料館で校外学習をしたり、クラスごとに集合写真を撮ったりしなくてはならない。
ホテルに到着すると、解放された陽キャが騒ぎだす。もちろん、健も陽仁も。
騒がしい夕食を終え、俺はホテルの売店でもみじ饅頭を買った。
そのあとは隣の部屋のやつが持ってきた人狼大会。
ちなみに3回も人狼になってしまったが、3回とも勝った。嘘をつくことが上手くなったのだろうか。
しかし22時半になると、先生から就寝の声掛けで中断。
早すぎるとブーイングの嵐だったが、病院の21時就寝よりマシだと思った。
翌日はクラスごとにバスで移動し、宮島に行った。
基本的には班行動で、厳島神社を参拝した後はお守りを買うことになった。
俺は彼女に1つ買った。
そして陽仁が絵馬を描こうと言うので、6人並んで願い事を書いた。
――伊達陽菜子が幸せな生活を続けられますように。
健と陽仁に見られないようにと注意したが、うっかり竹田さんに見られてしまった。
「ねぇ、それってプレゼントあげた子?」
「よ、よくわかったね」
「いいじゃん、隠さなくても。あ、でも山一くんと益子くんには内緒のがいっか。うるさそうだし」
コソコソ話しかけてきた竹田さんは、チラッと書いた絵馬を見せてくれた。
――私の大切な人の大切なものが奪われませんように。
「ポエミーかな」
「いや、すごくいい願いだと思う」
「私たちの秘密ね。ほら、ささっと結んじゃお」
お昼は有名なあなごめしを食べ、再び新幹線に乗り新大阪駅へ移動。
ホテルで一息ついてから、夕方には道頓堀で班行動。
お土産を買い、お好み焼きを食べた。
ホテルに戻ってからシャワーを浴びると、昨日に引き続きカードゲームやボードゲーム大会が開催。
トランプやUNOに始まり、流行りのパズル合わせ、宝石集め、進化したマルバツゲーム。
これらの大会は就寝時間5分前まで続いた。
次の日の朝、起きた時には健も陽仁も準備万端。
俺が寝坊したのかと思ったが、携帯を見れば朝食まで30分もある。
本日の行き先は遊園地。
「なんでそんなテンション低いの?」
と2人に聞かれたが、テンションが高いのはそちらである。同じ班の女の子2人も、1日遊び尽くす日だと言って朝食会場で大盛り上がり。
さらには計画を確認し合っている4人。
「松本くんは行ったことある?」
「いや、初めて。竹田さんは?」
「私は年2回は」
「結構行ってるね。だから落ち着いてるの?」
「おばあちゃん家が大阪なんだよね」
「あー、ね」
「そういう松本くんは昂ったりしないんだね」
「楽しみではあるけど……、あれほどじゃないかな」
高校生の若さゆえなのか、1日歩き回り4人に振り回された。
結果18時半の退園に文句を垂れる男子は俺が、女子は竹田さんが引きずるようにしてホテルへ戻った。
その後は想像つくだろう。
俺は1人漫画を読むことになった。
修学旅行最終日。
バスで大阪城まで行き、添乗員さんの説明を聞きながら内堀・石垣沿いを散策。
天守前で集合写真を撮り、自由時間となった。
健と陽仁はソフトクリームを食べると言い俺を置いて行った。
なので、ガチャガチャを回しに行くという竹田さんについていくことにした。
「私のお父さんと弟がさ、歴史オタクなんだよね」
「オタクなんだ」
「うん。特に弟はまだ小学生なんだけどさ、お城の立体パズルとかやってる」
「それはガチ勢だね」
「だからお城のガチャガチャ絶対やってきてねって、見てよこれ」
竹田さんのリュックから出てきたのは、大量の100円玉が詰まった巾着。
「欲しいやつが出るまで、時間が許す限り回してこいって言われてんの」
「さすがにそれはヤバいね」
「松本くんは?何か欲しいのあるの?」
「俺は大阪城のミニチュアだったらなんでも」
その後5分間、竹田さんはガチャガチャを回し続けた。
俺は恩を返すように、ひたすら開ける係をお手伝いし、それをエコバッグに入れた。
ちなみに俺は、1回で金色の大阪城が出たので大満足。
お昼は駅前ホテルで仕出し弁当。
健と陽仁はまだまだ元気いっぱいに盛り上がっており、女の子2人はお疲れなのか黙々とお弁当を口にしている。
「女子って夜何したの?」
「健、そんなこと聞くなよ」
デリカシーのない健と、常識のある陽仁。しかし女子2人は優しかった。
「私たちはカードゲームしながら女子会」
「マジで?結局男子も女子も変わんないのな」
「ちなみに男子は誰が強かったの?」
「「健以外」」
「おい!バラすなよ」
「女子は?」
「愛佳がマジで激強だった」
「暗記系からパズル系?揃える系まで総なめだった」
竹田さんは本当になんでもできるらしい。
帰りの新幹線に乗るまでは、テンションの高かった2人。
道頓堀のコンビニで夜用にと言って買ったのに、結局ほとんど残ったお菓子を3人で食べた。
しかし新幹線が出発して30分で電池切れ。
俺は1人時間になった。
「ねぇ、松本くん。そっちの人たち寝た?」
「健と陽仁?寝てるけど」
「こちらも同じく」
「竹田さんは寝ないの?」
「眠くないんだよね」
「お菓子、食べる?」
「え、いいの?やった」
「道頓堀で2人が大量に同じ買ってたからね」
「そういえばコンビニ寄ってたね。え、いいの?山一くんと益子くんのお金なんじゃ」
「いいのいいの。1人1000円って徴収されてるから」
「それじゃあありがたくいただきます」
通路を挟んで隣り合わせの俺と竹田さんは、楽しかった修学旅行の話をした。
何が1番面白かったとか、お土産は何を買ったのかとか。
「松本くんはさ、なんか最近明るくなったよね」
「俺もともと暗かったっけ?」
「ごめんごめん、そういう意味じゃ。でもなんかこう、真面目でクールなイメージというか」
「俺も動物園で話すまで竹田さんのことそう思ってた」
「私は結構明るいタイプだよ。恋愛はしないけど、放課後青春したいタイプというか」
「青春か」
「前に高校生みんな恋愛してるわけじゃない!って話したじゃん?」
「あー、話したね」
「私も変わらずそう思うけどさ、松本くんは好きな子できた?」
「え?」
「プレゼントあげたい子が好きな子か聞いた時は違うって言ってたし、どうかなって思ってたけど」
「まあ」
「今はその子のこと好き?」
「……どうだろ。嫌いなわけじゃないし、友達としては好きだけど。その、付き合ううんぬんのイメージがつかないんだよね」
「友達以上恋人未満ってやつか」
「ああ、それだ」
「下世話な話かもだけどさ、そういうのって心躍る?」
「えっと、どうだろう。俺の頭が固かったんだなっていうのは思ったけど……。竹田さんは好きな人できたの?」
「それがまったくもってかけらもない」
「なんだそれ」
「私本が好きでめっちゃ読むんだけどね?松本くんがさ、今読んでる主人公の男の子に重なって見えたんだ」
「その男の子は恋してるの?」
「うん、純愛」
「がっつりだね」
「よかったら今度貸してあげるよ」
「じゃあ借りようかな」
東京駅に着いたのは18時過ぎ。
陽仁とは東京駅で解散し、まだうつらうつらしている健を引っ張りながら帰宅。
「あー、楽しかった。正都もそう思うだろ?」
「まあな。っていうか今?」
「寒くて目が覚めたんだよ」
「あっそ」
「あーあ、もう進路決めなきゃだな。いよいよ受験生か」
「そうだな」
「俺は頭がいいし?それを無駄にしないような大人になるぞ!」
「何それ。でもまあ、あるものを無駄にしないっていうのはそうかもね」
「正都は?進路決まってんの?」
「これにしようかな的なのはあるけど……まだ決め切れてないかな」
「ま、俺たちは幼馴染だし。勉強ならいつでも教えるぜ」
「ほんと、お前はムカつくことに頭いいもんな」
健と別れ帰宅後、彼女へのお土産を綺麗な紙袋にまとめた。
こんなに買う予定ではなかったけど、彼女は笑ってくれるだろうか。
――俺はこの夜、緊張で眠れなかった。




