25話 俺たちの夢
直樹さんは初めて真剣な顔をした。
俺はそれを見て下を向いた。
「ここからが本題なんだ」
「はい?」
「君は陽菜子の夢を2度も叶えようとしてくれただろ」
「あ、それは……すみませんでした」
「陽菜子はアメリカに行くと言っている。ここまできたら、親も陽菜子の決意についていくしかない」
「……はい」
「お医者さんにも看護師さんにも、保護者として正都くんに忠告することを勧められたよ」
「すみません……」
「で、こう思ったんだ」
「……何、ですか?」
「僕たちで陽菜子の夢を叶えることはできないだろうかって」
「……ん?」
「君が連絡くれた通りのことを僕たちも思ってる。アメリカに行ったらどうなるかわからない。これが最後のチャンスなんだと」
「はい」
「陽菜子の夢はただ外に行きたいんじゃない。友達と普通のお出かけをしたいって言ってるんだ。その意味がわかるかい?」
「えっと……」
「正都くんしかいないんだ。陽菜子の友達はたった1人だからね」
「……俺は、陽菜子さんの夢を叶えたいです。でもそれは陽菜子さんのためだけだとは言えません」
「それはどういう意味かな」
「俺の夢なんです。俺は俺の夢を叶えるために、直樹さんに連絡したんです」
俺のバカみたいな発言に、直樹さんは優しく笑った。
「もし陽菜子が外に出られると言ったら、正都くんは陽菜子とお出かけしてくれるかい?」
「――え?」
直樹さんが言っていることをすぐには理解できなかった。
彼女が外に出られる?いや、それはできない。
でも俺はそれをお願いしに来たわけで……。
「12月の夜、陽菜子が起きていられる時間はだいたい16時半から18時」
「な、直樹さん?」
「移動の時間を考えても、16時45分から17時45分まで1時間はあると思うんだ」
「でも、どうやって……」
「寝ている間に移動すればいいじゃないか」
「……え?」
「陽菜子が寝ている間に車で移動して、眠る時間までに車に戻ってくれば1時間は確保できると思う」
「そんなこと……許されるんですか?」
2人で出かけたい。
なんとか叶えてもらおうと動いていたけど、その手段が俺には思い浮かばなかった。
寝ている間の移動。
考えなかったわけじゃない。
ただ現実的じゃないと思っていた……。
「もし正都くんがこの話に頷いてくれるなら、僕は陽菜子の外出許可を取るよ」
「ほ、本当に……いいんですか?」
「もちろん病院の外で起きたことの責任は全て取る」
「……許してもらえるんですか?」
「陽菜子と正都くんの夢。それはもう僕たちの夢でもあるからね」
「――ありがとうございます!お願いします!」
「ただ正都くんのご両親にも説明しないといけないんだ。君の行動に一切の訴えをしない。そういう話をしなくてはいけないからね」
「はい」
「ひとまずお家の人にも相談して考えてくれるかな。申し訳ないけど時間がない。だから日曜日の朝10時までに連絡してもらえるかな?」
「わかりました。今日はお話を聞いてくださり本当にありがとうございました」
「こちらこそこんな時間まで引き止めちゃってすまないね。家まで送るよ」
「あの、自転車なので大丈夫です」
「そうか。暗いから気をつけて帰るんだよ」
「はい、本当にありがとうございました」
手袋をつけてハンドルを握りしめる。
全力で自転車を漕ぐ心臓がバクバクしている。
――夢が叶う。
高揚と不安。
最後のチャンスという言葉に、俺は何が何でも全力を尽くして夢を叶えたいと思っていた。
そしてようやくここまで来た。
いざとなって思い出すのはあの日。
去年のクリスマス、彼女が目の前で倒れる姿を忘れたことなんて1度もない。
それでも俺も彼女の親も同じ考え、同じ気持ち。
今このチャンスを逃さないために、腹をくくらないといけない。
――最後のチャンスを掴まなければいけない。
「ただいま」
「おかえり。寒かったでしょ。お風呂入っちゃいな」
「あー、うん。父さんは?」
「まだ帰ってきてないよ」
「わかった」
シャワーを浴びながら考えた。
自分は平凡だと言い訳をしてきた人生。
決断することから逃げ、未来の自分に丸投げする形で、やりたいことも夢もないと口にした。
夏の進路希望調査票。
結局俺は通えそうな大学の名前を、てきとうに3つ書いた。
彼女と出会っても、あの夏の俺は何も変わっていなかった。
一方彼女はどうだ。
アメリカに行くと彼女は決断した。自分のためだけじゃない。
今いる同じ病気の人のためだけでもない。
まだ生まれていない人のためにも、彼女は命を捧げると言っている。
俺は時間のありがたみも、命の大切さも無視して、それが普通だと思っていた。
――こんな自分が、彼女の友達だと胸を張って言えるのか。
俺の16分の3を生きる彼女に、俺は遅れをとっている。
彼女の背中はとても遠い。
でも、今なら間に合うかもしれない。
不甲斐ない自分とここで決別する。
「正都、ご飯だってさ」
「今日の角煮はお母さんの力作です!」
「――あのさ、ご飯の前に聞いて欲しいことがあるんだけど」
俺は彼女の隣を歩きたい。
だから、16分の1歩を踏み出した。
「お前のことだ。それなりの誠意と準備をするつもりなんだろ?」
俺はつまらない人間だと思っていた。
今も本当はそうなのかもしれない。
でも、両親は俺のことを信じてくれていた。
まずは誠意に応えなければならない。
『11月23日月曜日』- - - - - - - - - -
お医者さんにおでかけの話を聞きました。
お父さんとお母さんから、1日早いクリスマスプレゼントって言われました。
正都くんはお出かけ怖くないですか?
私といて怖くないですか?
嫌ならこの話を断ってください。
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予想通りの反応。
優しい彼女のことだから、絶対に俺のことを考えてくれるってわかっていた。
私がいて怖くないかと聞くような優しい女の子。
そして彼女はもう来ないと言い、本当に来なかったあの日。
彼女の顔を見て、笑いながら返事を書いた。
『11月27日金曜日』- - - - - - - - - -
俺がお出かけしたいです。
なぜなら、お出かけをすることが俺の夢でもあるからです。
俺はこのクリスマスプレゼントを受け取ります。
伊達はどうする?
伊達が怖ければ断ってください。
まだ何ができるかはわかりません。
それでも青春が欲しいなら、一緒に楽しみませんか?
精一杯のお誘いです(恥)
いよいよ来週は修学旅行です。
4日に来られないから、明日も来るね!
良い返事期待してます(*^^)v
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書いていて彼女に申し訳なくなったのは、返事の内容がほぼ脅迫だと書き終わってから気がついたからだ。
しかし自覚しても強引でも、このチャンスを絶対に逃したくなかった。
そんな俺に、彼女の両親は味方してくれた。
『11月28日土曜日』- - - - - - - - - -
現在朝の5:50です(笑)
お母さんから男の子が勇気を出してデートに誘ってるのに、それを簡単に断るのは女子高生としてどうなの?と言われました。
↑
確かに?
お父さんは友達の夢を一緒に叶えるのが青春だと言っていました。
↑
そうなのかも?
結論。
これが私に訪れたミサンガの幸運だと思いました。
ぜひ青春を一緒に楽しみましょう!
正都くんが修学旅行に行っている間に、みんなでお出かけ計画を立てておくから期待しといてください(*^^)v
私たちの青春の前に、正都くんの青春謳歌してこいよ(*'ω'*)
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喜びのあまり勢いよく立ち上がったら、机に肘をぶつけた。
でも、そんな痛みを感じる間もなくガッツポーズをしてしまう自分がいる。
もしも彼女が起きていたら、ハイタッチまでしたいぐらいだ。
いや、実際は恥ずかしくてそんなことできないけど。
彼女の言う通り、まずは俺の青春を楽しもう。
『11月28日土曜日』- - - - - - - - - -
俺は無自覚にデートに誘っていました。
振られなくてよかったです(笑)
来週末に俺の親も来て正式決定するって、陽菜子ちゃんのお父さんが言っていました。
↑
人生で1番緊張しています(汗)
修学旅行のお裾分けと、お土産楽しみにしといてね(*^^)v
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「期待、していいからな」
眠る彼女にそう宣言して俺は部屋を後にした。




