27話 計画
退院した時ぶりに、俺は乱れる呼吸とお土産を片手に、両親と面会の受付へ。
かじかむ手をこすりながら7階のエレベーターホールを出ると、すでにピリピリとした空気ができあがっていた。
「正都くん。そしてお父様もお母様も今日は本当にありがとうございます」
「いつも正都がお世話になっております。父親の松本大輔です。こちらが妻の葵です」
親同士はすでに打ち解け、すっかり和やかなように見える。
しかし俺は会話が聞こえないぐらい、自分の心臓の音しか聞こえていない。
案内された会議室で、俺たちは医者と看護師2人を合わせて8人で机を囲んだ。
頭痛で限界を迎えそうな俺に、13時半ちょうど。医者が静かに口を開いた。
「それでは伊達陽菜子さんの外出について、審議を開始いたしたいと思います。まず確認いたします。陽菜子さんの外出について、ご両親揃って賛成ということでよろしいですか?」
「はい」
「そして松本くんのご両親も、陽菜子さんの症状を知っている。その上で本日参加していただいてる。そう認識してよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
眩暈がするほどの緊張の中、医者は彼女について丁寧に説明を始めた。
発症して以来症状は安定しているが、病自体は未知の領域であること。
外出することで新たな症状が出るかもしれないし、万が一があった時にすぐ対応ができないこと。
病院の上層部から命の保障ができないことを踏まえ、医療関係者が同行できないこと。
何も起きなかった場合でも、眠りにつくその瞬間に倒れると怪我をする可能性があること。
外出することで考えられるリスクを、医者は淡々と語った。
そして何度も「命の保障ができない」ことを念押しされた。
「外出することで起きる全てに、私たち両親が責任を持ちます」
直樹さんは医者の目を見て、きっぱりと言い切った。
医者は大きなため息をついたが「わかった」と口にした。
こうしてようやく外出についての話し合いが始まった。
いや、話し合いというよりは、直樹さんの綿密な計画案が発表されたに近い。
まずは外出日について。
第一候補は12月24日金曜日。
これは平日であることと、準備期間を考慮した時期を考えた結果だ。
クリスマスイブなのは懸念点だが、それ以降は年末に向けてどこも混雑するし病院も忙しい。
俺が終業式だから午前授業なのも良い。
病院サイドも、年末年始は医療従事者が限られること。
医療機関が通常より少なくなり、受診者が集中して病院が混雑すること。
よって通常時に比べ対応が困難であることを理由に、24日が妥当だと判断。
こうしてクリスマスイブのお出かけが決定した。
次に行き先について。
直樹さんは押上のソラマチを推した。
ショッピングモールとしてコンパクトなことと、駐車場が同じ建物内にあること。
混雑してもフロアが一直線で、経路を確認しやすいというのが良いのではないかと提案した。
病院から近いショッピングモールは限られている。
駐車場が別棟になっているモールよりはマシ。
下見をすることを条件に、病院はこの提案をのんだ。
夢に見たショッピングモールは、ソラマチとなった。
最後に1番重要な時間について。
計算された薄暮の時間から、おおよそ起床時間は16時33分。眠りに落ちるのが18時2分。
彼女が16時35分から18時ちょうどに動くと仮定して、話を進めることになった。
まずソラマチの駐車場に、16時20分到着を目標に病院を出発。
救急車や介護タクシーの移動も検討されたが、特殊なケース。加えて責任を親サイドが取るので、彼女の家の車で移動することになった。
そこからうまくいけば、俺と彼女は16時40分に駐車場を出発。
17時55分を目安に車に戻ることを直樹さんは提案した。
しかし、医者は17時45分には車にいるべきだと主張。
15分も短くなるのは受け入れられないという直樹さん。
話し合いの末、17時半以降は車椅子で移動するという折衷案に双方が合意した。
1時間半に及んだ話し合い。
俺も、俺の親も、口は出さないものの真剣に話を聞いた。
最終的に医者が作成した書面に、彼女と俺の両親がサイン。
直樹さんが作成した、俺を訴えないという書面に俺の親がサインをして、この場はお開きとなった。
「本当に本日はありがとうございます。正都くんとご両親のおかげでここまで来ることができました」
「いえいえ、子どもたちにとって最善な時間を過ごせるようにと思います。これは正都の希望でもありますし、協力できることは限られていますがよろしくお願いします」
「本当に、本当にありがとうございます」
「では、お先に失礼します。正都、しっかり計画立ててこいよ」
「うん、ありがとう」
先に車に戻ると言う両親を見送り、俺は彼女の両親と当日の動きを具体的に計画することになった。
ソラマチのショッピングエリアは1から4階。
1時間で見ることができる場所なんて限られている。
ざっくりとした計画を立て、次の金曜日に下見に行く約束をした。
彼女の両親に感謝を伝え、会議室から彼女の部屋へと足を運んだ。
そして抑えきれない喜びを、日記に綴った。
『11月30日火曜日』- - - - - - - - - -
この日記を読んでる時は、修学旅行終わってるよね。
青春は謳歌してきましたか(r ˙꒳˙ r)
まだお出かけについて詳しいことは決まってないけど、お母さんと作戦会議をしています☆
『12月4日土曜日』- - - - - - - - - -
無事クリスマスイブのお出かけ決まったよ!
何するかはまだざっくりとしか決まってないけど、伊達のリクエストのクレープは絶対に行きます☆
↑
何食べるか考えといてね。
それから、修学旅行のお土産を買ってきました( ̄^ ̄)ゞ
順番に紹介します。
1.見守。厳島神社で買ったお守りです。
2.大阪城のフィギュア。ガチャガチャをしたら、なんと金色が出てきました(ラッキー)
3.もみじまんじゅう(広島名物です)
4.お好み焼き味のおせんべい(大人気と書いてあったポップを信じて買いました)
ぜひ伊達も修学旅行を楽しんでください(*'ω'*)
『12月5日月曜日』- - - - - - - - - -
私の夢を叶えてくれてありがとう。
まさか夢が叶うと思ってなかったから、正直どうしたらいいのかわからず困っています( ˙▿˙ )
でも、食べたいクレープは決まってます(*'ω'*)
それから大量のおみやげをありがとう!
特に大阪城が気にいりました☆
金色ってかっこいいよね!
おまんじゅうとおせんべいは大切に食べます(*^^)v
かわいいお守りもありがとう♡
どこにつけるか考え中です(^^ゞ
『12月10日金曜日』- - - - - - - - - -
ちなみに俺も食べるクレープは決まっています(*^^)v
伊達は、いちごとバナナとアイスのクレープだよね?
↑
知ってる(笑)
食べ物は賞味期限に気をつけてね(´・ω・`)
今日はこれから直樹さんと下見に行きます!
先にお出かけしてごめんなさい(笑)
『12月13日月曜日』- - - - - - - - - -
なぜ私の食べたいクレープがバレているのでしょうか(+_+)
正都くんはチョコバナナと予想しました!
↑
正解のはず!
この日記を書きながらもみじまんじゅうを食べています。
↑
賞味期限なんて考えてなかった(汗)
お父さんがお出かけ楽しかったと自慢してきました(泣)
でも、下見してくれてありがとう!
当日楽しみにしています( *¯ ³¯*)
『12月17日金曜日』- - - - - - - - - -
伊達が前に自分で言ってたよ(笑)
俺のクレープは当日発表したいと思います(*^^)v
俺は自分用に買ったもみじまんじゅうが、もうなくなりそうです☆
下見はしたけど、緊張してます( ¯꒳¯ )
気持ちを紛らわせるために、ぜひわがままでも何でも言ってください。
↑
かっこつけた自分が恥ずかしい(汗)
思春期なので許してください(笑)
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横で眠る彼女を、俺は組んだ足に肘をついて見入った。
白い肌に、ほんの少し伸びた髪。
初めて来た時よりも明らかに賑やかになったこの部屋は、俺と彼女で足した色が溢れている。
そしてなぜかわからないけど、ここにいると、彼女を見ていると、なんだか心が温かくなる。
こんな感情は彼女と出会うまで知らなかった。
高校生のくせに「自分は普通だ」なんて達観していたことが恥ずかしい。
小さな世界を、見ただけでわかりきったつもりになっていた。
だから今、せめて俺の中の普通の一部を、彼女と過ごしたいと思った。
――それがたった1時間半だけだとしても。




