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黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
33.王が首を刎ねられた後の記録

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33-1.

*****


 この国は波乱に見舞われているようだ。

 長らく王を務めた男が敵国にさらわれ、敵国の法に従い斬首の刑に処されたのだという。


 ゆえに当該国家は緊張状態であるわけだが、そこまでさばさばしているというわけではなかった。

 界隈は剣呑な雰囲気であるものの、帯刀しての入国を咎められるようなことはなかった、混乱の最中ゆえだろう、温いのだ。


 宿の食堂で晩飯を済ませたのである。

 客が全部掃けたら酒を出す――バーをやるらしく、いいなと思い、デモンはそのときを待った。


 そのうち、そろそろ21時頃だという段になって、バーが開店した。

 琥珀色の強い酒にミルクを足してもらって、デモンはそれをずずっと口にする。

 みみっちく、また子どもっぽいメニューかもしれないが、デモン・イーブルはこれが好きなのだ。


「もうこの国は亡びるんじゃないのか? よそ者に凌辱されるだけなんじゃあないのか?」


 デモンがそう口にすると、「そこまではされないだろうさ」と宿の主人――初老と思しき白髪の男は言った。「ウチの国は奴さんらを野蛮人だと罵ってやまないが、実際のところ、そこまで常識知らずな連中じゃない」ということらしい。何をもっての判断かは知らないが、とりあえずはそういうことらしい。


「だったらむしろ一方でだ、自ららの王が首を斬られたというのに、なぜに立ち上がらないのかね?」

「意気込みを持てというほうが無理というものなんだ。それくらい、力量に差があるんだ」

「この国家の、かつての王の名は?」

「タシロ王だ」

「おぉ、いかにも首を刎ねられてしまいそうな名だな」


 ミルクのカクテルをデモンは口にすると、嘲り笑うように「ふん」と鼻を鳴らした。


(かたき)を討とうとするニンゲンはいるさ」

「それは聞かされたつもりだ」

「ああ、三人組で、我が国の有史以来、最強のパーティーとされている」

「興味深いな」デモンは唸った。「パーティーとはなんだ?」


 剣士に弓使いに魔法使い――という答えだった。


 なるほど。

 近距離遠距離互いの強みを生かし、弱みを補えるような構成というわけだ。


「それぞれに名前はあるのかね?」

「名前? くだんの三人のか?」

「ああ、そうに決まっている」


 剣士はアユトというらしい。

 弓使いはグリッツというらしい。

 中でも大魔法使いというのはヴィクトリアらしい。


「連中が、タシロ王の汚名をすすごうと?」

「そうすることは、それほどおかしなことなのかね」

「復讐を果たしたところで当人は生き返ったりしないのだから、いっぽうから観察すると、ある種、無意味と言える」

「それでも彼らはやるさ。わしらにとってタシロ王はそれだけ偉大だったんだよ」

「盲目的であるように映る。ゆえに愚かだとしか評価のしようがない」

「それでもわしは彼らのことを誇りに思う」


 どうやらわかりあえないようだ。

 死人には口を利く権利すらもないのだから、何が正しいのかはわからないが。


「それでも、会ってみようとは思う」

「三人にか? それはやめてもらいたいな」

「ほぅ、ご老体、どうしてかね?」

「あんたが何かしゃべれば、彼らに迷いが生じるかもしれない」

「わたしが何をしゃべるというんだ? だいいち、わたしごときになんの影響力があると?」

「とにかくだ、あんたは引っ掻き回しそうな気がするんだよ」


 ふむ。

 それはそうかもしれないが。


 しかし――。


「わたしがなんらか物申したところで覚悟が揺らぐようなら、そいつらはそれまでのニンゲンなんだろうさ」


 否定はできないと感じたのだろう。

 主人は口を真一文字に結び、黙り込んだのだった。


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