33-1.
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この国は波乱に見舞われているようだ。
長らく王を務めた男が敵国にさらわれ、敵国の法に従い斬首の刑に処されたのだという。
ゆえに当該国家は緊張状態であるわけだが、そこまでさばさばしているというわけではなかった。
界隈は剣呑な雰囲気であるものの、帯刀しての入国を咎められるようなことはなかった、混乱の最中ゆえだろう、温いのだ。
宿の食堂で晩飯を済ませたのである。
客が全部掃けたら酒を出す――バーをやるらしく、いいなと思い、デモンはそのときを待った。
そのうち、そろそろ21時頃だという段になって、バーが開店した。
琥珀色の強い酒にミルクを足してもらって、デモンはそれをずずっと口にする。
みみっちく、また子どもっぽいメニューかもしれないが、デモン・イーブルはこれが好きなのだ。
「もうこの国は亡びるんじゃないのか? よそ者に凌辱されるだけなんじゃあないのか?」
デモンがそう口にすると、「そこまではされないだろうさ」と宿の主人――初老と思しき白髪の男は言った。「ウチの国は奴さんらを野蛮人だと罵ってやまないが、実際のところ、そこまで常識知らずな連中じゃない」ということらしい。何をもっての判断かは知らないが、とりあえずはそういうことらしい。
「だったらむしろ一方でだ、自ららの王が首を斬られたというのに、なぜに立ち上がらないのかね?」
「意気込みを持てというほうが無理というものなんだ。それくらい、力量に差があるんだ」
「この国家の、かつての王の名は?」
「タシロ王だ」
「おぉ、いかにも首を刎ねられてしまいそうな名だな」
ミルクのカクテルをデモンは口にすると、嘲り笑うように「ふん」と鼻を鳴らした。
「敵を討とうとするニンゲンはいるさ」
「それは聞かされたつもりだ」
「ああ、三人組で、我が国の有史以来、最強のパーティーとされている」
「興味深いな」デモンは唸った。「パーティーとはなんだ?」
剣士に弓使いに魔法使い――という答えだった。
なるほど。
近距離遠距離互いの強みを生かし、弱みを補えるような構成というわけだ。
「それぞれに名前はあるのかね?」
「名前? くだんの三人のか?」
「ああ、そうに決まっている」
剣士はアユトというらしい。
弓使いはグリッツというらしい。
中でも大魔法使いというのはヴィクトリアらしい。
「連中が、タシロ王の汚名をすすごうと?」
「そうすることは、それほどおかしなことなのかね」
「復讐を果たしたところで当人は生き返ったりしないのだから、いっぽうから観察すると、ある種、無意味と言える」
「それでも彼らはやるさ。わしらにとってタシロ王はそれだけ偉大だったんだよ」
「盲目的であるように映る。ゆえに愚かだとしか評価のしようがない」
「それでもわしは彼らのことを誇りに思う」
どうやらわかりあえないようだ。
死人には口を利く権利すらもないのだから、何が正しいのかはわからないが。
「それでも、会ってみようとは思う」
「三人にか? それはやめてもらいたいな」
「ほぅ、ご老体、どうしてかね?」
「あんたが何かしゃべれば、彼らに迷いが生じるかもしれない」
「わたしが何をしゃべるというんだ? だいいち、わたしごときになんの影響力があると?」
「とにかくだ、あんたは引っ掻き回しそうな気がするんだよ」
ふむ。
それはそうかもしれないが。
しかし――。
「わたしがなんらか物申したところで覚悟が揺らぐようなら、そいつらはそれまでのニンゲンなんだろうさ」
否定はできないと感じたのだろう。
主人は口を真一文字に結び、黙り込んだのだった。




