再転移編3:元事務職員、生きていて良かった。
俺は寺田。
訳あって平日昼間に暇をしている中年男だ。
同じ都内でも久しく来ることのなかった地元を散策していると、幽霊に遭ってしまった。
松本五郎。
小中学の同期だが、掴みどころのない飄々とした人物で、特に友達という訳ではないが、その存在は気になってはいた。
とはいえ、やはり具体的に何かをしたわけではなく、高校や大学に進学して、大手商社で働いていると思い出すこともなかった。
アイツが死んだと聞いて、驚いた。
家族は居なかったんだな。葬儀は会社中心で厳かに執り行われ、俺たちのような同級生には「亡くなった」という報告だけ。
それも、俺にとっては日常的に入ってくる雑多な情報のひとつとしてすぐに気にしなくなった。
それが5年前のこと。
「異世界転生?」
その幽霊は奇妙なことを言う。
「魂が輪廻したわけじゃないから異世界転移、が正しいけど、まぁ定義はどうでもいいんだ。転移先の世界で楽しく過ごしてたけど、何故か戻っちゃってね。今は向こう側に帰る準備をお偉いさんにやってもらってて、その間に暇をすることになったんでこっちに遊びに来た、と言うところなんだわ」
何だそのラノベは。
曰く、脳卒中で死んだことは確かで、死んだけど蘇って(ついでに若返って)異世界に行くことになったという。
魔法が使えたりするんだろうか。
「こっちでは使えないみたいだなぁ。向こうだと魔力を込めて身体能力を上げることができるんだけど、こっちではそういうのも出来ないみたいだ」
松本の隣にいる、芸能人に居そうな見目整った幼女はお目付け役みたいなものらしい。
が、特に何かを訂正したり話を遮ることもない。こういうことを俺が聞いて良いのだろうか。
というのも。
俺は某大手商社のとある部署の課長職と、その商社の執行役員の立場にある。
その部署が、表向きはともかく、やろうとしていることが「異世界の観測」なのだ。これは政府からの依頼でもあり、重要なミッションとして位置付けられている。
神隠し。
どうにも説明の付かない行方不明事件は昔から数多ある。逆に、何もないところから得体のしれない生き物が出現したケースもある。
生き物に限らず物質であることも。日本でも紀元前から特定の家系がそうしたオーパーツのようなものの管理を行っていて、それは別に日本に限ったことではない。
が、どこもその異世界に関する糸口が何も見つけられていないのが実情で、民間かつ大規模ネットワークと資金源を持つ俺の商社も協力を求められているところだが、やはり何も分からない。
そんな中での、まさかのサンプル。
俺の事情を簡単に伝えると、
「そうした情報が開示されないのは、こちらの管理者の一存によるものですね」
幼女が話し出す。
うちの生意気ざかりが始まった娘と同年代くらいに見えるが、話し方は大人のそれ。
曰く、確かに異世界は数々あるが、異世界を繋ぐことは世界の存続に大きなリスクを生む。だが、様々な世界が存在している以上、どうしても干渉は起こってしまう。
神隠しはその一環だが、例えば俺がその干渉で異世界に行ってしまえば、向こうの環境に適応できず、異形化や精神崩壊などの異常を来す。
それを開示している異世界と、していない異世界がある。こちらの世界は後者で、それは世界を管理している意思の方針による。
「ここまで喋って、私がこちらの管理者から何かしらの制限やクレームが無いことから、これくらいの情報は開示してよいと判断しているか、些事だと放置されているのでしょう。私が申し上げたことは世界の真実ですが」
証明が非常に困難。
松本とこの少女を拘束し、情報を引き出すことも選択肢になりえるが、恐らくは悪手だろうし、そういうことをしたくはない。
まぁ。
俺がやっていることに深く関係しそうなことではあったが、それはともかくとして。
「生きていたのであれば、それは良かった」
立場を忘れ、心からそう思えた。




