再転移編2:元事務職員、知り合いに会う
さて、久しぶりの日本で何をしたものか。
そういえば、勤め先の社長は社員旅行でわざわざパチンコに行っていたな。観光したり食べ歩きしたり、その土地ならではのことをやればいいのにと思うも、そういえば俺も修学旅行先のゲーセンで自由時間を消費していた過去があるので強く非難できない。
スマホを見ると、地図アプリも正常に機能している。パケット代はどこに請求されるのかとか、位置情報の受信は特に何かの契約をする必要はなかったよなと、色々考えつつ、
「転移の手配が終わったらどこか特定の場所に向かう必要はあるのかな」
「いえ、自動的に転移が始まるので不要です。周囲が巻き込まれることもなく、目撃者の記憶には残らないようにしますので、そうした心配はなさらずとも」
そういえば。
俺はもともとこちらの人間で、向こうの世界に帰らない選択肢もありえるのに、再転移前提で話が進んでいる。
まぁ、俺が向こうに帰らないなんてことはないが。あくまで里帰りだ。
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地図アプリをもとに来たのはラーメン屋。30年くらい営業している老舗。
時刻的には昼下がり。昼休みなく営業している、何度か通っていた店だ。俺が転移して数年経っているので、店員は俺の顔を覚えていないとは思うが、ただ声をかけられてはしまった。
「お客さん、子連れですか?」
同行している女神の端末。
見た目は小学生低学年。
幼いが女神をベースにしているからか見た目は整っている。
そんな彼女を連れている、くたびれたリーマン。
そりゃ事案か心配しなくもない。
「そうなんです。お父さんが美味しいごはんに連れて行ってくれるって」
「そうなんだ、良かったね。じゃあお父さん、食券買ったらそっちのテーブル席使ってください」
あざとさを感じさせなくもない可愛い声と態度で応える端末に、若い女性店員は快く応対する。
「財布の現金はそのまま使えます。あと、私は醤油ラーメン味玉つきでお願いしますね」
「お、おう」
こそっと注意ばかりか注文までつけてきやがる。本当に産まれたてなのかどうか怪しいな。女神の意思が強く反映された個体なのか、何なら意識だけは女神本人かもしれないな。
まぁいい。
俺は塩ラーメン、チャーシューと白髪ネギトッピング。ついでに白米も。
久しぶりに食べると美味いな。向こうでも似たような料理はあるが、こちらの方がジャンキーさを感じさせる。
女神の端末は一人前をあっさり食べ終えている。とても美味そうに食べてたな。造られたばかりの筈なのに妙に俗っぽい。
「で、これからどうなさるのですか?」
食べ終えて若い店員に見送られた後、端末の問いに少し考える。
里帰りだとしても突然だったのだ。昨日まで家族と普通に過ごしていた。そんな中での急な出来事に、プランなどある筈もない。
あるとして、かつて自分が関わっていたものの確認くらいか。会社を遠くから覗く、育った土地の変化を見る、あとは俺自身はこちらで天涯孤独だったので両親の墓参り。
墓参りは良いかもしれない。何なら誰かが気を利かせてこちらでの俺の亡骸を火葬して、俺の両親の墓に骨壷が入っているかもしれない。
そうだな、墓参りが良いかもしれない。
となると、清澄白河か。ここからだと、そう遠くはない。電車で乗り継いで30ふんくらいか。
「さすがにそのスマホで交通系ICのアプリを起動させても有効化されないので、現金で切符を買うことを推奨します」
だろうな。
久しぶりの電車は既視感ありつつも新鮮味がある。こうなると久々に車も運転してみたいところだが、勘を取り戻すのに時間がかかるし、免許とか面倒なことになりそうなので却下しておこうか。
さてと。
地下鉄で清澄白河に降り立ったが、微妙に建物が入れ替わっているな。よく把握していないが、都市計画がどうたら、が影響しているのだろうか。
とはいえ、都市的でありつつも牧歌的でもある空気には懐かしさを感じる。特に花を用意するわけでもなく、のんびりと向かっていると。
「・・・松本か?」
俺を呼び止めるような声。
振り向くと、見知った顔があった。怪訝な顔をしているのは、俺がこちらでは死んでいることを知っているからかもしれない。
「寺田か」
小中学の同期。
俺がこちらで生きているときも20年くらいは会っていなかっただろうか。面影はあってもそんなに時間が経っているのに、何となく分かってしまうものだ。
「いや、久しぶりというか、お前脳卒中で死んだと聞いたぞ。いやいや、えっ、しかも何で子連れなんだ?子供は居ないって聞いた筈だが」
困惑しているようだが、さて、何と答えたら良いものか。この少し恰幅のよい中年・・・寺田の名前を呼んだので誤魔化しは悪手だろう。
「あぁ、1日だけ蘇ったんだよ。こっちは、あの世での俺の娘だ」
「はぁ?」
我ながら変な説明だな。
まぁ奴は暇そうだし、近くに公園があるし、少し話をするとでもしようか。




