第182話 振り返る、問い詰める
こんばんは。
今回と次回に分けて、初めて拙作に触れる方向けに作中の出来事をざっくり振り返る話になっていきます。
今回は世界観全体の出来事、並びにそれを踏まえてどう向かっていくかを語ってまいります。
何卒よろしくお願いいたします。
連合国と同盟を結んだ多種族とエルフ達が一堂に会する。
「それではフィガロ盟主、よろしくお願いいたします」
「ああ。おおきにな、オダリスちゃん」
発言のバトンをオダリスから受け継ぎ、いよいよ連合国の方針を決める会議が始まる。
「ほな、始める前に……現在の世界情勢と僕等の立ち位置について改めて確認してまいります」
軽い咳払いと共に前置きし、フィガロは語り始める。
「アロガンシア帝国の魔帝王――ディオスの投げかけた『ある問いかけ』により……泥沼の戦争が始まって早五百年。その間、数百年に渡って一進一退の攻防を続けてまいりましたが、帝国の強さは依然として強まるばかりや」
フィガロの言葉に来賓と傍聴席が歯痒そうに頷く。
特に最年長者であろう、老齢の男性エルフであるピオは一層厳しめに顔をしかめている。
「我々エルフやドワーフと言った長命種族はともかく……人間や獣人の多くは、生まれた時から既に戦乱の時代に振り回されることを余儀なくさせられた。そして……膨大な犠牲もまた、この五百年のうちに積み重ねられてきた。これは全種族共通……じゃな」
「仰る通りです、ピオ教授」
ピオの意見に相槌を打ち、フィガロは続ける。
「長期化する戦争が進むにつれ、帝国は次第に『死こそが幸福だ』という価値観で統一しようと動き始めた。厭世的な価値観が蔓延し始め、帝国の価値観が染まろうとした三十年前……ある奇跡が起きた。エルフの皆様方や一部の人間さんはご存知やろ?」
フィガロの問いかけに、傍聴席がざわめく。
とりわけエルフを始めとする長命種族や、三十年以上前の出来事を知る者達の反応は早かった。
「まさか……」
地元エルフの一人が漏らした声を皮切りに、会場のざわめきは一層増す。
それを踏まえて、フィガロは満を持して告げる。
「その男ン名は……刃雨斬彦。当時のツーガントがやっとの思いで現世界から召喚した、初代現人神や」
フィガロが口にした男の名に、会場はそれぞれの反応を示す。
「やっぱりそうだ!」
「刃雨斬彦!」
「帝国をギリギリまで追い詰めた、あの緑軍服の現世界人!」
エルフ達が興奮に満ちた反応を見せる一方――。
「斬彦……ねぇ。個人的には、あまりいい印象湧かないかな」
ギーア出身のベアディは複雑な面持ちで独り言ちる。
そんな中、若い世代であるレーア達は――。
「おじさんがそんな顔するなんて珍しいね。私達は名前くらいしか聞いたことないけど、ブラッツ君達はどう?」
「そりゃあもう、勇者育成プロジェクトの一環でしつこく聞かされたから聞き慣れちまってるぜ! な、エヴァン?」
「うん……でも、どれくらい凄いのかって聞かれても……あまりピンとこないかな」
比較的薄い反応を示す。
そして、誇太郎は記憶に新しい現人神の本名に眉を顰める。
――刃雨斬彦……フェリシア様の元彼だった男、か。
にわかに信じがたい告白に誇太郎は心が未だに追い付いていない。
しかし、今は会議が始まったばかり。余計な思考を頭の隅へと追いやり、フィガロの語りに耳を向け直す。
「彼の人心掌握術は神業レベルやった。バラバラやったラッフィナートとツーガントの心を一つにまとめ、『打倒帝国』の意志の下……アロガンシア帝国を後一歩まで追い詰めた。せやけど……その手前で、斬彦は討たれてもうた」
悲痛に語るフィガロの発言に呼応するように、エルフ達は表情を曇らせる。
そんな中、誇太郎は神妙な面持ちで耽る。
――その真実はフェリシア様曰く、ギーア建国に携わったメンバーが背後から殺したかららしいが……フィガロ達は知らないのかな。
この情報は、まだフィガロ達には公表していない。今ここで余計な混乱を招くわけには行かないと判断した為だ。
フィガロが更に続ける。
「結果……まとまっとった対帝国同盟はまたバラバラになり、ツーガントから分裂するようにギーアが三十年前に建国された。ツーガントは斬彦の勇姿に縋り付くように勇者育成プロジェクトを始めて徴兵を強いるようになり、ラッフィナートは防衛費を増大する為に末端へのリソースを回さんくなった。そしてギーアは、自分達の利益を優先するあまり……自由を履き違えたならず者国家と化した。これが現在の世界情勢や」
「……」
かつての故郷の評価に、ソフィーはやるせなさそうにため息を漏らす。
「……斬彦のおかげで、確かに世界は一つにまとまったように思います。せやけど彼の死後、またバラバラになった現状を見て……僕は思います。ホンマにこれでええと思いますか?」
やや語気を強め、来賓や傍聴席に問うようにフィガロは続ける。
「帝国の脅威は依然変わらない。それどころか、対帝国同盟が元の木阿弥となったことで、世界の厭世観はより一層強まったように僕は思います! それを踏まえた上でもう一度聞きますよ。ラッフィナートも、ツーガントも……そしてギーアも、このままでええと思いますか!?」
魂を込めたフィガロの言葉が、会場内にキーンと響き渡る。
程なくして――。
「……いい訳ないだろ」
傍聴席のエルフがポツリと漏らす。
その言葉は波紋のように会場へ広がり――。
「いい訳ないだろ、こんな世界!」
「あともう少しで戦が終わると思ったのに……私達はいつまで苦しめばいいの!?」
「俺達だって、こんな世界を望んでない!」
「もう、うんざりだ!」
「……どうすればいいんだよ」
瞬く間に、会場は様々な叫びに満たされた。
この悲痛な訴えこそ、民衆の本音である。その事実を誇太郎やソフィー達を含む、来賓一同は噛み締める。
それを踏まえた上で、フィガロは告げる。
「だからこそ、僕等が変えていかなアカンのです」
なだめるように告げたフィガロの言葉に、会場は再度シンと静まり返る。
「僕等人魔妖精連合国が、世界の中心となって本当の意味で帝国に立ち向かう強い力を身に付けななりません! ただし、力を付けるだけでは駄目です。大事なんは……『生きててもええんや』と思えるような、余裕を持たせられる居場所を作ること。しくじっても人生やり直せるような、拠り所を作ることが大事やと僕等は思いました。よって、連合国の掲げる方針は次の通りです!」
席を立ち、会場の奥にまで届かんほどの声量でフィガロは告げる。
「『千年間、多種族が住みたくなる国』! その方針の下、連合国は温泉街の復興を筆頭に邁進してまいります!!」
*
フィガロの掲げた方針と考えは、民衆の声に寄り添った優しいものだった。
生きててもいいのだと思える居場所を作る。人生をやり直せるような拠り所を作る。
五百年もの間、戦争に振り回されたことを思えば誰もが待ち望む願いだろう。
だが、だからこそと言うべきだろう。
「ちょいといいか、盟主殿!」
より具体的な方針を求める意見が出るのは必然だ。それを求めて挙手したのは、ドワーフ族長――プリーニオだ。
「アンタの立派な考えは先週の人材募集宣言でも見てる! そいつは周知の事実だ! だがよ、俺等は改まった意思表明を見にここへ来たわけじゃねえ。俺は……いや、俺と元素精霊は……連合国がアルーシャ財閥と同盟を結んだ前提条件をクリアしてるから、ここに来たまでじゃぜ。本当に聞きたいことはこっからじゃぜ。なあ、ランザよぉ!」
「……妾が問おうとしたことを、先に言われてしもうたわ。しかし、プリーニオの意見通りだ。妾達もソフィーちゃんの力を借りれると判断したからこそ、ここまで足を運んだわけよ。というわけで改めて問おう、フィガロ盟主。汝の語る方針について、詳しく述べるが良い。つまらぬ答えならば、今すぐここで仮同盟を破棄させてもらおう」
プリーニオに続くように、元素精霊族長――ウンディーネのランザも問い詰める。
二人の寸鉄人を刺す指摘に会場の空気が悪くなりかけたその時――。
「皆様、ご静粛に願います」
司会進行役であるオダリスが、待ったをかけるのだった。
「プリーニオ様とランザ様のご指摘に関しては、連合国財務大臣でありアルーシャ財閥当主でもあるソフィー様がお答えいたします。では、ソフィー様。よろしくお願いいたします」
「分かったわ」
オダリスの声を受け、フィガロと入れ替わる形でソフィーが席を立つ。
「改めましてこんにちは。連合国財務大臣兼アルーシャ財閥十一代目当主のソフィー・アルーシャです。ここからは、ランザ様のご質問にお答えする形で方針を発表してまいります」
カーテシーを交えた前置きと共に、ソフィーが語り始める。
「先ず、最優先事項がございます。それは……世界的にも無視できないほどに、連合国の価値を高めることです」
「連合国の価値を高める、じゃと!?」
「ほぉ……より詳しく聞かせてもらおうか」
ソフィーの言葉にオウム返しに驚くプリーニオを尻目に、ランザは興味深そうに口角を上げる。
「この地で盛んだった温泉街の復興を果たす為に、先ずは冬季三ヶ月の間に……スクアッシュタートルが吐いた岩の影響で潰れた源泉があります。その岩を破壊し、源泉を再生させることで……イラーリア様が運営していた萌葱亭の再開を目指します。これが連合国の価値を高める、第一フェーズです」
「おおっ、萌葱亭の再開を!!」
「ってことは、国策の一環でサポートしてくれるのか!?」
地元エルフ達が驚嘆の声を上げる中――。
「マジで!? 本当にそこまでお世話になっていいのかい、ソフィーさんとやら!」
当の若女将エルフのイラーリアもまた、驚きと喜びに満ちた反応を見せる。
彼女の問いに対するソフィーの答えは穏やかなものだった。
「構いませんわ、イラーリア様。あなたのホスピタリティ精神は、遠く離れた我が財閥領でも評判でしたもの。皆に慕われていた文化は復興させるべきです、遠慮なく頼ってください」
「ありがたいなぁ……何て太っ腹なんだい! 心置きなく頑張れるじゃないの!!」
エネルギッシュに気合を入れるイラーリアの笑顔に、ソフィーも思わず心が温かくなった。
緊張が少しほぐれた感覚と共に、ソフィーは続ける。
「第二フェーズは萌葱亭の再開を足掛かりに、数多く存在したかつての温泉街の復興と人材募集を目指します。それに連なる工芸品店や飲食店も徐々に増やし、憩いの場としてより発展させていきます。もちろん、これだけでは足りません。復興に伴う人口増加を見越した、一般層向けや富裕層向けへのベッドタウンの建築も同様に進めてまいります」
「簡単に言ってくれるが、出来ると断言できる理由はあるのかね?」
「勿論です」
目を細めるランザに一言前置きし、更なる詳細をソフィーは告げる。
「連合国の魅力は温泉のみに限りません。エルフの皆様が築き上げた豊かな自然との共生文化、魔獣季で得られる魔食文化の食材、オーガの里の皆様が作り上げた『米』に『蕎麦』と言った独自の穀物など、長引く戦渦の影に埋もれた地域文化が沢山ございます。温泉街の復興と組み合わせれば、更なる魅力を上げることが見込めます」
「……なるほど。俺達の食文化も引っ張ってくるのか、すごい発想だな」
まさか自分達が取り上げられると思わなかったのか、クロッカスは思わず感嘆の声を漏らす。
また、魔食の名が出た瞬間にこの者達も反応を示す。
「あら、魔食文化も視野に入れてくださるのね」
「オイオイ、これぁとんでもねえことになんぞ」
「オデは美味ェもん食えんなら何でもいいど!」
「アンタはもう食べんのやめなさい、ワルデン!」
スミレが接触した武闘派小隊、フリーデをリーダーとした魔食布教会である。魔獣を狩り続け、それらを食す魔食文化を広める活動をしてきた彼女等からすれば、渡りに船と見込むのは当然だ。
会場の熱が再燃し始める中、ソフィーは煽るように次のフェーズを説明する。
「そして第三フェーズ、ここが一区切りとなる大事な所です。温泉街の源泉を潰した元凶である巨大亀、『スクアッシュタートル』の討伐を一区切りの目標に定めます」
スクアッシュタートルの名が出た瞬間――。
「スクアッシュタートル!?」
「亀竜と恐れられた、あの巨大魔獣の……討伐!?」
「できるのか!?」
「というか、そもそも起きるのか!? だってあいつは今、休眠中だろ!」
傍聴席から様々な意見が飛ぶ。
それに対し、ソフィーは最後に出た意見への回答を述べる。
「確かに現在は休眠中です。しかし、ツーガントの遊牧民族――ノマドに属すビーストテイマー曰く……来年の魔獣季で確実に目覚めることが発覚しました」
「の、ノマドが……!?」
「魔食布教会に並ぶ、魔獣専門の狩人の意見だ。信憑性は高いかも……」
動揺と納得の声が会場に広がる中、ソフィーが気を引き締めるように告げる。
「だからこそ、我々は来年までに力を付けねばなりません。温泉の源泉を再生させ、憩いの場の地盤を固め……もう二度と温泉街を廃れさせない為にスクアッシュタートルを討伐せねばなりません。それが、向こう一年の連合国の方針になります」
確固たる意志で怒涛の勢いで方針を告げるソフィー。
向こう一年とはいえ、彼女の語った内容は中々にスケールの大きい話だった。特に最後に告げたスクアッシュタートルの討伐は、大昔の連合国を廃れさせた因縁の元凶でもある。
それは文字通り、連合国の存亡がかかったハイリスクハイリターンな賭けに等しい方針。
傍聴席の反応は――。
「スクアッシュタートルの討伐……」
「ちょっと予想外だったね……」
動揺する声を始め――。
「だけど、大昔の因縁にケリを付けるチャンスだ」
「やってやるさ……温泉街を取り戻すなら、何だってな!」
意欲的な姿勢を見せる者もいる。
一方で――。
「でも……本当にできるのかな。たった一年で、こんな怒涛の計画……」
萌葱亭の従業員エルフ、メリッサのように懐疑的な意見も出る。
そして、彼女の声にシンクロするように――。
「ソフィーさん……流石にちょーっと背伸びし過ぎやしないかな? 私の旅館だけならまだしも、たった一年で色々詰め込み過ぎじゃない?」
先ほどまで前向きだったイラーリアからも同じ声が上がる。
それに対しソフィーはこう答える。
「第二フェーズに関しましては仰る通り、一年を目標に考えておりません。数年、数十年単位と言った長期的目標で見積もる必要はございます」
「だろう? だったら企画倒れじゃ――」
「しかしながら……少なくとも第一、第三フェーズに関しましては問題ございません」
「どうしてそう言えるんだい?」
「簡単な理由ですよ」
首を傾げるイラーリアに、ソフィーは確信めいた表情で告げる。
「ここに集った来賓の皆様は、他の追随を許さないプロフェッショナルです。人材不足さえ解消できれば、後は破竹の勢いで発展させられる確証がございます。それを見越して私とフィガロ盟主は皆様にお声がけ致しましたから」
ソフィーがそう告げると同時――。
「……っ! なるほど、そういうことでしたのね!」
「お嬢も気付いたか! 全く、ソフィー様も随分先を見てやがるぜ……」
魔食布教会のフリーデとエメットが、何かに気付き声を上げる。
「フリーデ、急に立ち上がってどうしたど?」
「何が分かったのよ?」
ピンと来ないワルデンとルチナの二人に、フリーデは柄にもなく興奮気味に告げる。
「お二人とも、そしてメリッサさん。ここに集った来賓の方々を今一度見てみなさいまし! ソフィー様の仰る『プロフェッショナル』の意味が理解できるはずですわ! ワルデン、ここに集まった方々の種族を言ってみなさいまし」
「んー? えーとだど、ドワーフ……元素精霊……オーガに、ハーピー……」
「え……あ、ああっ! フリーデ、やっと分かった! そういうことなのね!?」
ワルデンがハーピーの名を口にした辺りで、ルチナもまた気付く。
その反応は魔食布教会から始まり、やがて傍聴席一帯に連鎖反応のように広がっていく。
会場の反応に呼応するように、ソフィーは口を開く。
「お気づきの方も沢山いらっしゃるかもしれませんが、改めて申し上げます」
そして、ソフィーは満を持して告げる。
「スキル研究学の権威であるピオ教授、鍛冶を始め魔導工学や機械工学に富んだドワーフ族長のプリーニオ様、属性攻撃型のうち自然文明を形成する『四元素』を操り……それのを応用することで魔導インフラを構築することが可能な元素精霊のランザ様、先程述べた『米』や『蕎麦』と言った独自の穀物の食糧生産体制を持つオーガの里族長のクロッカス様、世界にその新聞の名を知らない人はいない『ハーピータイムズ』編集長であるフェデッラ様、そして……多くのエルフの方々に親しまれた萌葱亭女将のイラーリア様。以上の皆様は、各専門分野でネームバリューの高い功績を打ち立てたプロフェッショナルです。その皆様が今、こうして一堂に会しております! このメンバーならば、より一層連合国の価値を上げられると私は確信しております!」
ソフィーが力強く告げた瞬間、会場の反応は点が線になったような納得感一色となった。
「あ、だからか! だからここまで自信持って言えるんだ!」
「ドワーフは建築も長けてるし、今も新築ラッシュだから……これからもっと盛り上がりそうだね」
「そこにオーガの里の食文化が加わるのか……何か、初めての感覚で面白そうだな!」
「いや、それもそうだけど注目すべきなのはウンディーネのランザ殿だって!」
「源泉さえ復活させれば、インフラ整備も一気に進むかもよ!」
錚々たるメンバーに、地元エルフ達の反応も好感触だ。
そんな中――。
「ッザーッハッハッハ! こいつは恐れ入った、妾達の才能も買ってくれて嬉しい限りだよ! ソフィーちゃああんっ!!」
元素精霊族長ランザは豪快に笑いながらソフィーを称賛する。
と思ったのも束の間。突如、ランザ目の色を変えて声のトーンを落とす。
「ただ……それなら一つ聞きたい」
「……何でしょうか?」
ぴくりと眉をひそめるソフィーに、ランザはある人物を指差して告げる。
「あそこにいる気取った服装の現世界人……あやつは一体何者かね? 司会のドラゴンメイド曰く連合国の自警団らしいが、どうにも彼女の説明だけじゃあ強さが伝わりにくくてね。我々と同等の、それこそスクアッシュタートルの討伐に敵うような武闘派としての価値はあるのかねぇ?」
「……」
ランザが指摘した人物は他でもない、誇太郎だった。
軽く見定めるランザの意見が飛ぶも、誇太郎は表情を揺らがせず沈黙する。
「それに関しては、今からフィガロ盟主がお話する内容を聞けば手の平を返されますよ。というわけでフィガロ盟主、よろしくお願いしますわね」
「え、僕なん!?」
キラーパスやろと突っ込みかけるフィガロだったが、ソフィーの無言の圧力により渋々受け取ることとなった。
「えー、ソフィー殿に代わり僕がお答えします。ですがその前に……もう一つだけ、昔話につきおうてもらえますか?」
「何じゃい、回りくどいねぇ」
「まぁまぁ、ランザ様……一先ずお話だけでも聞いてみましょうぞ。拙僧もあの男がこの世界で何をしよったのか、気になっておりました故」
従者である御手洗になだめられながら、ランザはフィガロの話に耳を傾けることにした。
「先程現人神についてお話しましたが、実は彼と肩を並べたもう一人の立役者がおるっちゅう話……皆はご存知やろか?」
「立役者……?」
先の現人神とは打って変わって、会場の反応は薄い。
その反応を踏まえて、フィガロは続ける。
「その人は魔帝王の娘やった。ディオスに言われるがまま、娘とは名ばかりの奴隷同然の人生を送る中……現人神もとい刃雨との出会いを経て、帝国に抗うことを決めた。せやけど、刃雨討たれてからは心を閉ざすようにどこかへと姿を消してしもうた影の立役者。僕等はその魔人をこう呼んどる」
一呼吸おいて、フィガロはその答えを告げる。
「反逆のサキュバス、と」
「っ!」
「……オイ、フィガロ坊。まさか、ソイツは……」
反逆のサキュバスという言葉が出た瞬間、ランザを含めた長命種族達の目の色が一気に変わる。
それと同時、フィガロの視線は誇太郎に向けられていた。
対して誇太郎は、無言でゆっくりと頷く。覚悟を決めた面持ちで、強かに。
それを見たフィガロは、誇太郎への敬意を持った上で会場に答えを告げる。
「フェリシア・グランデ・アロガンシア。僕等対帝国同盟が知る中で、母上もといラッフィナート女王ノエミ陛下と同等の力を持つ……極位級魔人のサキュバスや」
フィガロが言い終えると同時、会場のエルフが一斉にざわめく。
「極位級魔人のサキュバス!?」
「あれって都市伝説じゃなかったの!?」
「噂は本当だったのか……」
動揺一色の会場を尻目に、ランザは鋭い目で更なる問いを投げる。
「そやつの名は知っとるぞ。むしろ、魔帝王の娘である以上余計な混乱を招かんように秘匿しとったはずだろ。なぜ、今になって開示した?」
「そんなん決まっとるでしょう、ランザ殿」
ランザの眼差しに答えるように、フィガロは再度満を持して告げる。
「あなたが気になっとるその現世界人――樋口誇太郎こそ、反逆のサキュバスたるフェリシアが次の現人神になれると見込んだ男やからですよ」
ランザに告げたフィガロの言葉は、傍聴席に今日一番の衝撃をもたらす。
「あの男が……反逆のサキュバスが見込んだ男、だって!?」
「ちょっと待って、頭が追い付かないって!」
「ここまでの方針だけでも嬉しいやら驚きやらで一杯なのに……」
衝撃情報の羅列についていけない意見がある一方で――。
「でも、何となく分かったわ」
「ああ。リオーネ奪還戦の時の禍風のショウジの撃破、そして先週迫ってきた徴兵部隊のエラードを退けたって話も頷ける」
「道理で強い訳だよ……」
誇太郎の戦いを間近で見た者は、彼の強さに合点がいった様子を示していた。
だが、当のランザは――。
「……まーだ強さがイマイチ掴めんなぁ」
どこか煮え切らない反応を見せる。
その様子を見ていたソフィーは疑問符を浮かべる。
――それにしてもランザ殿、やけにコタロウに対して刺々しいわね。まるで目の敵にしているような感じ……悪い予想に傾かないといいのだけど……。
どこか不吉な予感を感じながら。
そんな中、フィガロはランザにこう答える。
「……でしょうね、僕が説明しても彼の凄さは伝わりにくいでしょう。ですんで、ここからはご本人に説明していただきます」
フィガロが言い終えるタイミングで、誇太郎はスッと起立する。
それと同時、傍聴席と来賓一同の視線が誇太郎に集中する。
圧迫面接などとは比べ物にならない程のプレッシャーに、心臓の鼓動が一気に白熱する。
その鼓動を落ち着かせたのは、フィガロとソフィーの穏やかな眼差しだった。
――緊張せんでええ。君は君のまま、アピールすればええだけや。
――大丈夫よ。あなたなら、ここにいる方々に唯一無二の価値を示せるわ。
アイコンタクトで伝えてきた二人の視線に、誇太郎は静かに頷いた。
――かたじけない、二人とも。
そして、誇太郎はゆっくりと口を開く。
「改めまして、皆様こんにちは。樋口誇太郎と申します」
歩んできた成長の軌跡を振り返るように、誇太郎は自身の略歴を語り始める。
いかがでしたでしょうか?
次回は、主人公である誇太郎の軌跡を振り返ってまいります。
何卒よろしくお願いいたします。




