第181話 Paradigm shiftへと至る道
こんばんは、今回から新たな試みに挑戦してまいります。
今回から始まる「間章」はこれまでの総集編、並びに始まる展開や匂わせ等をまとめる話になります。
本編ほどの長さには致しません、あっても五~七話程度でまとめていく予定です。
何卒よろしくお願いいたします。
時は更に過ぎ、午前九時半。
フィガロの邸宅からやや離れた所に新造した別邸にて、人魔妖精連合国の今後を決める会合が開かれようとしていた。
連合国と手を取った同盟組織の長が集う為、別邸は厳戒態勢。偉大なる少数派のメンバーが周囲を取り囲むことで睨みを利かせる態勢を敷いている。
別邸は現世界のグランピングで見るような大きなドーム型の造りとなっている。周りは殺風景な白い石造りとなっているが、反面室内は相応の広さとなっており、許可制だが希望者の為に用意された傍聴席もある。
席は既に満席になっており、参加者は会合が始まるのを心待ちにしていた。
その中には、徴兵部隊から追われていた精霊信仰の里出身の少女エヴァンと少年ブラッツの姿もあった。
「いよいよ始まるね、ブラッツ」
「おうよ……っててて」
疼く脇腹の痛みにブラッツは顔をしかめる。徴兵部隊の暗殺者に死の淵に陥る程の重傷を負わされたのだ、完治に至るには時間を要する。にもかかわらず、無理を押してブラッツはここに来たのだ。
「もう……まだ治っていないんだから、病院で寝てた方が良かったでしょ」
「へへ……そうしたかったけどよ、これから来るお方のことを考えりゃあ……黙って寝てんのが勿体なくてな」
心配するエヴァンの言葉を受けつつも、ブラッツの意思は固かった。
すると、背後から興味深そうな表情で黒髪ボブの女性が顔を覗かせる。
「ふーん、怪我押してまで見たい人がいるんだ。どんな人なの?」
声をかけたのはギーア出身の錬金術師、レーア。エヴァン達とは移住する途中で徴兵部隊の追撃を受け、偉大なる少数派に救出された仲だ。
知り合いに尋ねられたことにより心が軽くなったからか、ブラッツは素直に答える。
「俺が楽しみにしてんのは元素精霊をまとめる水の大精霊、ウンディーネのランザ様よぉ! 故郷全員で信仰してた偉大な大精霊様をこの目で拝めんだ、怪我してでも見に行くのが漢ってもんだぜ!」
「確かに私もランザ様のことは信仰してるけど……無理は駄目だからね、ブラッツ」
苦笑交じりに窘めるエヴァンだが、彼女の脳内はあることの懸念で一杯だった。
それは他でもない、里の安否である。自分達が隣国に移住しようとしたことが徴兵部隊にバレたのだ、多かれ少なかれ里がその責任を追及されることは免れないだろう。
連合国に入国して早一週間弱、エヴァンは里がどうなったか気になって仕方なかった。できれば無事であってほしいという、一縷の望みを願いながらだ。
「そっかぁ……ブラッツ君は大精霊様が目当てなんだね。憧れの存在がいるってことはいいことだ、おじさんも心が躍るよ」
「そういうベアディおじさんは目当ての人いたりする?」
レーアの隣に座る中年錬金術師のベアディは、短くため息を付いて告げる。
「俺はドワーフの里族長、プリーニオ殿かな。今でこそ錬金術や『魔導機構文明』のおかげで大成したギーアだけど、そのルーツはドワーフの技術から来ているからね。ギーア建国時も協力してくれたから、感謝の挨拶も兼ねて会っておきたい」
「流石おじさん、ギーア建国に携わった当事者の一人だけあるね。コメントの説得力が重く感じるよ」
ベテランのオーラを感じさせるベアディのコメントに、レーアは感慨深げに相槌を打った。
徴兵部隊に関わった者達からやや離れた席には、オーガの里の奪還でスミレ達と邂逅した武闘派小隊――魔食布教会が座っている。
その中でもワルデンは朝飯を食べてこなかったのか、或いは足りなかったのかオーガの里で作られたおにぎりと焼き鳥を数個頬張っていた。
「はぐっ、むぐっ……待ち時間が退屈だど」
「こら、ワルデン。慌てて食べると喉を詰まらせますわよ?」
穏やかに注意するリーダーのフリーデだが――。
「いや、お嬢。ツッコミ所違うだろ」
「別邸内の食事は控えなよ!」
見当違いだろと言わんばかりのエメットとルチナのツッコミが炸裂する。理由は他でもない、静謐な別邸の中でワルデンが食事する姿が行儀悪く見えたからに他ならない。
現に、冷ややかな眼差しで魔食布教会を見るエルフの姿も確認できるほどだ。
すると――。
「あの……その串焼き、私ももらっていい……?」
「んむ?」
儚げな声色でワルデンに話しかける女性が現れる。
ワルデンに声をかけた女性の正体は、ライムグリーンの長髪を携えたエルフだった。髪色に合わせたような深緑の作務衣を着込むその姿は、旅館の従業員のようにも見える。
「ワルデン、分けてあげなさい。求める方に分け与えてこそ、食の魅力は広められますわ」
「むう……一人で食いたかったけど、分かったど」
「いや、だから別邸で食うのを止めろって――」
「ありがとう、頂くね……」
「いや、アンタもさらりと受け取んな!」
周囲のマナーを気にするエメットを余所に、エルフ女性はワルデンから受け取った焼き鳥を口にする。
その瞬間、儚げな印象から一変――。
「~~~~~~っ! 美味しい……っ!!」
声にならぬ喜びの反応と共に、オアシスを見つけたかのような幸福に満ちた表情を見せるのだった。
「流石オーガ流バーベキューの鶏肉焼き……独特のスパイスもあって、香ばしい風味がたまらない……!」
仰々しく語ってはいるが、エルフ女性が称賛しているのはあくまで焼き鳥のことである。
とはいえ、彼女の食レポは耳にしたものの食欲を促しかねないクオリティだった。
じっくりと焼き鳥を噛み締めるエルフ女性の服装に目を通しながら、フリーデが口を開く。
「あなたは、連合国にある温泉宿の従業員さんでしょうか?」
「あ……うん、そうだよ。私はメリッサ、大昔からリオーネ……じゃないな、今は連合国か。連合国にある温泉旅館で働いていたエルフだよ。まあ……源泉潰れてからは、女将さんと一緒にここを離れて、ラッフィナート本国に長期間移住してたんだ……。でも、そんな時に……」
「最近の故郷が人材募集宣言で盛り上がってるから戻ってきた……と。そう見立ててよろしいかしら?」
フリーデの推察に、メリッサは無言で頷いた。
「今日は女将さんが会議に出るから……私もここにいようと思って。女将さん、何百年もの間……ずっと再開できるの心待ちにしてたから」
「何百年……俺等からすりゃあ、途方もねぇ年月だぜ」
メリッサの言葉に宿る想いを前に、エメットも人間ならではの観点でしみじみと呟いた。
「そういうあなた達は、魔獣食で有名な魔食布教会……だよね?」
「あら、私たちのことをご存知ですの?」
「結構有名だよ。だってあれでしょ、未知の料理を求めてアロガンシア帝国のスウィーツヴァンパイアの所に行ったって。いくら料理の為とはいえ、わざわざ敵国にまで向かうなんて……すごい行動力だよね」
「ふふっ、お褒めに預かりましてよ」
くすっと微笑むフリーデに続き、エメット達も誇らしげに返す。
「何たって、それが俺等の生き甲斐だからな」
「誰も食ったことねぇメシが食えんならどこでも行くど」
「まあ……たまに死にかけることもあるけどね。この間のオーガの里だって、フリーデ危なかったし」
最後に口にしたルチナの一言に、フリーデの顔が僅かに曇る。
それは他でもない。彼女の故郷を薬物漬けにした怨敵、暴王の嘲笑に属するリカード・ドイヒゲーエンを仕留め損ねたからだ。
だが、生きていればまた仕留める機会は訪れよう。そう思うことにし、フリーデは半ば無理矢理平静を装った。
「まあ、オーガの里の件に関しては……最終的にスミレさん達のおかげで奪還は果たせましたから。当初の目的としては問題ありませんわ。ただ、私と致しましては……今日ここにいるのは、一人気になる方がいらっしゃいましてね」
「誰が気になるの?」
相手が気になるメリッサに、フリーデは会場に視線を移して告げる。
「スミレさんの上司であり、連合国の自警団である偉大なる少数派リーダー……樋口誇太郎様でしてよ」
*
侃々諤々と意見交換を交わす傍聴席を前に、一足先に議長席に座るフィガロは興味深げにつぶやく。
「人材募集宣言から一週間弱……。短い間の中で、色んな人材が入国してきとるね」
「それでも、昨日ツーガントが正式に鎖国宣言した以上……そこからの募集は厳しくなった。偶然とはいえ、オーガの里を味方にしようと考えたあなたの案に乗って正解だったわね、フィガロ」
傍に座るソフィーの意見に対し――。
「いやいや、運が良かっただけの話やって」
フィガロは苦笑交じりにかぶりを振った。
「大事なんはこっからやで、ソフィーちゃん。ドワーフに元素精霊、そしてオーガの里と僕がスカウトしたエルフの大御所さん達相手に……連合国の方針を示さなあかんもの」
「……そうね。わざわざ来てもらった族長の為にも、下手なプレゼンはできないわ」
「心配は無用です。お二方の方針は優秀なドラゴンメイドの私から見ても最善手ですので、そこまで緊張しなくても大丈夫です」
緊張感MAXのフィガロ達にしれっと混ざる形で、ドラゴンメイドのオダリスが自身の意見を告げる。
「いや君、何でここにおるん!?」
「おはようございます、フィガロ様。本日の会議の司会進行役です」
「初耳なんやけど!?」
「たった今申し上げましたから」
オダリスは無表情でピースサインを決めるシュールな姿を披露する。
「屋敷の掃除はどないしたん?」
「私の影分身が担っております」
「それは、あなたの魔法術かしら?」
「はい、ソフィー様。私の魔法術の一つです。私の分身を最大七体ほど作り出せる、家事に便利な能力です。遠慮なくお褒めください」
「いや、確かに優秀だけれども……コタロウの護衛に付かなくていいの? 彼が主ではなくて?」
「ご心配なく。ご主人様の護衛はスミレ様に任せております、良好な信頼関係も築かれておりますので適任かと」
「抜かりないわね……」
「当然です。私、優秀ですので」
再度ピースサインを飛ばすオダリスに、フィガロがツッコミを飛ばす。
「だとしても、何で司会進行やっとるん!?」
「暇でしたので」
「退屈しのぎ感覚でやってええ役目ちゃうぞ!?」
「思った以上に自由なメイドね……」
「ご心配なく、ソフィー様。私、優秀ですから」
「そういうのは自分で言うものではないのだけれど……」
「あ、そろそろ来賓の方々が入場致しますので黙っていただけますか」
「何やねん、君は……」
フィガロの呆れの色が混ざったツッコミを尻目に、オダリスは演台へと移動する。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、人魔妖精連合国の方針会議を開会致します。本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。私、本日の司会進行役を務めます……ドラゴンメイドのオダリスと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「おお……何や、ちゃんとしっかりできるやんけ」
「私達に見せたフランクな態度は、一番近い関係者だから……なのかしら」
オダリスの真面目な進行に関心と驚きを隠せないフィガロとソフィー。
そんな二人の反応を尻目に、オダリスは自身の役目を淡々とこなす。
「それでは、ご来賓の皆様が入場されます。皆様、盛大な拍手でお迎えくださいませ」
オダリスのアナウンスを合図に、来賓を迎える扉が開かれる。
「初めに入場されるのはこの方。ラッフィナート本国の魔術大学元理事長にして、習得難度極位級の『時空転移学』を解読したスキル研究学の権威――ピオ教授、ご入場です!」
扉から現れたのは、滝のような白ひげを携えた老齢の男性エルフ。大魔法使いを思わせるダークモスグリーンのローブを着こなす姿は、魔術大学の元理事長という肩書に恥じぬ貫禄を醸し出している。
「ふっ……儂がスキル研究学の権威、ピオ・マーゴである」
エルフの中でも地位の高い存在が出てきた影響か――。
「ピオ教授!?」
「嘘だろ!」
「いきなりとんでもねえビッグネームじゃないか!」
会場のエルフ達は驚嘆を隠せない。
一方のソフィーも意外そうな表情でフィガロに問う。
「まさか本当に呼び込めたなんて。検討程度で終わらなかったのね、フィガロ」
「ダヴィデさんが知り合いやったもんでね。彼の協力無くしてスカウト出来ひんかったよ」
かなりギリギリの交渉だったのか、フィガロは深いため息を付いた。
様々な反応が飛び交う会議室の中、オダリスは進行を続ける。
「続きまして、ギーア建国を支えたドワーフの里から来てくださいました……ドワーフの里族長――プリーニオ様。ご入場です!」
ピオが着席すると同時に、逆立った金髪と派手なサングラスをかけたファンキーなドワーフが入場する。
「ムッホホホ、この時を待っとったぜ。ギーア建国以来の革命の匂いがしやがる、テンションうなぎ上りじゃぜ!」
ピオ程ではない老齢の風貌ながらも、プリーニオの表情は少年の如く輝いていた。
そして彼が入場するや否や――。
「うおおおおおっ、族長おおおおっ!」
「大親方のご到着、待っとりましたぜ!!」
先に連合国入りしたドワーフ達の歓声が上がる。
同時に傍聴席のベアディもまた、歓喜に打ち震えた反応を見せる。
「プリーニオ殿……本物だ。三十年振りだ、やっと会えた……!」
「良かったね、おじさん!」
傍にいるレーアも親しき仲間の願いが叶ったことにより、顔がほころんだ。
「続いてご入場されるのは、ハーピータイムズ編集長兼ハーピー一族族長。フェデッラ様、ご入場です!」
比較的シンプルな紹介と共に、フェデッラが姿を現す。ワカケホンセイインコのハーピーであるからか、髪色と羽の明るい緑色が映える。
「さて、どう盛り上げていこうかしら。会場の皆は……うん、ちゃんとしっかり役目を果たしてるわね」
入場すると同時、フェデッラは邸内にいる仲間に目を向ける。ハーピー達は各々で会議の様子をメモしたり、配信魔道具で録画している。記者としての本分を果たす姿を目にしたフェデッラは、満足気に妖艶な笑みを浮かべて着席する。
「続いてのご入場はこの方。先日ギーアのマフィアである暴王の嘲笑の脅威にさらされるも、屈することなく我等が自警団偉大なる少数派と共に里を守り切った新進気鋭の族長。オーガの里族長クロッカス様、ご入場です!」
オダリスがクロッカスの名を呼ぶ。がしかし、当の本人は渋い表情を浮かべ扉の前で愚痴る。
「紹介は悪くないが……もう少しスミレのことをアピールしてほしかったな」
「そんな風に言わないで、パパ。私はあくまで助けに来ただけだから」
「とは言うがなスミレ……父としてはもっと愛娘の活躍を知ってほしい訳だよ。里全体の価値観を変えてくれたという意味でも、お前の活躍は大きいんだからな」
「もう分かったってば。ほら、あまり待たせるのも良くないから行ってあげて」
「ああ」
娘に一言告げて向かうと思いきや、クロッカスは最後に誇太郎に視線を向ける。
「スミレのことを助けていただき……誠にありがとうございます、コタロウ殿。今後とも、よろしくお願いいたします!」
「色々積もるお話はございますが、こちらこそよろしくお願いします」
誇太郎とそう言い交わし、クロッカスは会議場へと足を踏み出していった。
「……いいお父さんだな、スミレ」
「ええ。最後まで里を渡さなかった、立派な父よ」
感慨深げにクロッカスを眺めていた時だった。
「……全く浮かれないでいただきたい。たかが里を一つ奪還した程度の実績、大精霊ランザ様ならば造作もない。その程度で浮かれているようでは帝国に立ち向かうことは愚か、連合国すら救うこと叶わんぞ」
誇太郎達に厳しめの指摘を告げたのは、水色を基調とした僧侶を思わせる服装の青年だった。眼鏡をかけ、誇太郎と同じ黒髪。そして七三に分けた前髪は日本人のそれだ。
そう、眼前の僧侶風の男は誇太郎と同じ現世界人――御手洗澄人だ。
数日前、元素精霊の里から連合国に訪れた精霊神官である。
そんな格式高い存在の彼に対し、誇太郎は不快感を露わにして御手洗を睨む。
「うっせーぞ、御手洗。オーガの里奪還した直後に移住に来たかと思ったら、地元エルフの皆さんに精霊信仰布教しに来やがって。俺はな、そういう価値観押し付けてくる奴が一番嫌いなんだよ」
「押しつけではない、布教だ。エルフの皆様方には必要ないだろうが、特殊能力持ちが少ないツーガントやギーア出身の人間ともならば話は変わろう。拙僧は力を求める者に一生モノの絆を布教しているだけに過ぎんのだ」
「完全に胡散臭い宗教構文!」
「胡散臭くなどない、これは大精霊ランザ様のお導きだ。貴様等こそ余計なトラブルを招いて足を引っ張るなよ」
「そのトラブル対応の為に偉大なる少数派がいるんです!」
「何だと、このカツカレー頭」
「どういうディスり方!? カツカレーのどこが悪いんだよ!?」
「悪くないがカレー頭にぶっかけんぞ、貴様」
「何だコイツ!?」
正に売り言葉に買い言葉、誇太郎と御手洗の言い争いがエスカレートする。
だが、会議の始まりは最早目前――。
「喧嘩しないで、コタロウ!」
「貴様もじゃぞ、スミト。ちったぁ落ち着かんかい!」
スミレが誇太郎を、そして御手洗を水のように青い体に覆われた女性が止めに入る。
それと同時――。
「続いてご入場される方はこの方です」
オダリスが次の入場者を指名しようとしていた。
それを見計らうように、御手洗を止めた青い女性が無邪気に手を取る。
「ほーら、次は妾達の出番じゃぞ。フィガロ坊とソフィーちゃんに我等の存在を見せつけようじゃあないか!」
「はっ……拙僧としたことが何と不甲斐ない! 申し訳ございません、ランザ様!」
「ランザ……ということは、あなたが御手洗の言ってた……」
ハッと気づく誇太郎に、ランザはくるりと視線を向ける。
「ああ、初めまして……と言った所かな? まあ、詳しくは会議の時に話そうじゃあないか。特に……汝には聞きたいことがあるのでね」
「俺に? それは一体……」
「言ったろ? 会議の時に話そう、と。今は入場させてくれたまえ」
妖艶なランザの微笑みに、誇太郎は背筋が凍り付く。そしてこれ以上の進行を止めるのも良くないと感じ、誇太郎は素直に促すこととした。
「さあ行くぞ、スミト! ッザーッハッハッハ!!」
「はい、喜んでえええええっ!!!」
妙にテンションの高い二人を前に、誇太郎はポツリとつぶやく。
「本当に何だアイツ等……」
誇太郎がぼやく傍ら、入場してきたランザの紹介文をオダリスが読み上げる。
「数多くの精霊をまとめる聖地、元素精霊の里から来てくださいました。元素精霊族長の大精霊、ウンディーネのランザ様! ご入場です!」
会場に踏み入れると同時――。
「ッザーッハッハッハ! 待っとったぞ~、ソフィーちゃあああんっ!!」
ランザは高らかに笑いながら、ソフィーの名を呼ぶ。
それに対しソフィーは――。
「……お久しぶりです、ランザ様」
一人静かに座ったまま会釈する。
「ささ、ランザ様! こちらへどうぞ!」
御手洗の案内の下、ランザは自身の座席へと移動する。
その様子を眺めていた精霊信仰の里出身のブラッツとエヴァンは、傍聴席にてひそひそと話し合う。
「あ、あれがランザ様……だよな、エヴァン?」
「うん……何か、里長から聞いた話と随分違うよね。何ていうか……テンションが高過ぎるというか」
「でもよぉ、外見は里で見た姿とおんなじだろ! あの海みてーな青い肌、川みてーな水色の髪! そしてエヴァンと同じ真っ白の精霊服を着込んでる!! どっからどーみてもランザ様だぜ! やっと生でお会いできたぜえええっ!!!」
「ちょっと、興奮するとまた傷開くよ!?」
暑苦しく感動するブラッツに、エヴァンは慌てて止めるのだった。
そして紹介はいよいよ終盤に近付き、オダリスのアナウンスにも力が入る。
「さて、皆様。ご入場されるご来賓も、残すところお二方となりました。そのうちの一名は、旧リオーネ時代のエルフの皆様方ならば誰もがご存知……あの若女将です」
「若女将……?」
「って、まさかっ!!」
地元エルフ達がざわめくと同時、一人の若々しい女性エルフが湯かき棒を背負って颯爽と会場に現れる。
「世界が誇る老舗温泉旅館、『萌葱亭』若女将――イラーリア様、ご入場です! 本日は故郷を復興させるために戻ってきてくれました!」
「みんな、お待たせ! 奴隷商から逃げる為とはいえ、何百年も留守にしてしまって本当にごめんよ!! 全力で復興させていくから、それで償わせておくれ!!」
炎の揺らめきを思わせるオレンジのポニーテールを携えた、赤い法被と青緑の着物を纏うイラーリア。その姿は正に温泉宿を担う女将と言って相応しい出で立ちだ。
彼女と萌葱亭は地元エルフ達に非常に愛されていた。かつてギーアの奴隷商がリオーネ時代の連合国を乗っ取る寸前、住民総出でイラーリアと従業員一同をラッフィナート本国へと避難させたという話もある程だ。
そしてラッフィナート本国に移った後もイラーリアは温泉事業を成功させ、多くのエルフ達を癒した。明るい人柄とホスピタリティ精神溢れる姿は本国でもたちまち人気を博し、女王ノエミからも表彰されるほどの功績を成し遂げた。
そんな若女将が戻ってきたのだ――。
「来たぜ、イラーリアさん!」
「おかえりなさい!」
「あなたの帰りを待ってましたああああっ!!」
地元エルフ達から歓声が上がるのは必然と言えよう。
そして傍聴席にいる従業員のメリッサも、敬愛する若女将の姿に胸をギュッと握りしめる。
「ああ……女将さん、輝いてるなぁ。私なんかとは大違いだよ……」
「あら、卑下することはないでしょう? あなたも女将さんと同じくらい、整った顔立ちをしていましてよ?」
フリーデがさり気なくフォローを入れると――。
「うん……私に取り柄があるとしたら、顔の良さしかないから……」
「どっちだよ!?」
「自虐するか自画自賛するかどっちかにしてくんない!?」
メリッサは自虐なのか肯定感があるのか、曖昧な言葉を返してきた。その矛盾溢れる返答に、エメットとルチナは思わず突っ込まずにはいられなかった。
そんな会場の盛り上がりが最高潮になる中、扉の前で誇太郎は固唾を飲む。
「凄い歓声だな……どれくらい慕われてたか伝わってくるよ」
「何言ってるの? あなただって三ヶ月前に奪還作戦に貢献したでしょ、胸張ればいいじゃない」
「……それもそうか」
スミレの言葉に頷いた瞬間――。
「さあ皆様、最後に入場されるご来賓はこちら!」
オダリスのアナウンスが響き渡る。
「ほら、出番よ。行きましょう、コタロウ!」
「ああ、いざ行こうか」
満を持して誇太郎とスミレは会場に足を踏み入れる。
そして主の姿を確認したオダリスもまた、忌憚なく最後の紹介文を告げる。
「フィガロ盟主主導の元に行われた『リオーネ奪還戦』にて、悪辣な殺人鬼である切鎌性餌の討伐、並びに連合国に迫ったツーガントの徴兵部隊副団長エラードの撃退。有名な武闘派を倒すという目覚ましい功績を残した、自警団偉大なる少数派リーダー! 樋口誇太郎様、ご入場です!!」
「できればスミレも褒めてほしかったんだがな……」
部下の活躍を割愛するオダリスに誇太郎は思わず苦笑する。同時にドレスコードとして用意したグレーのストライプスーツと漆黒のインバネスコートに着られてる感じもあったからか、誇太郎は内心「対等に語り合えるだろうか」と不安になっていた。
だが、その後ろ向きな考えは間髪入れず飛んできた地元エルフ達の声により消え去ることとなる。
「三ヶ月前はありがとう!」
「そっちの用事はもう大丈夫なの?」
「今後も活躍期待してるぞー!」
フィガロに負けず劣らずの活躍をした誇太郎を、彼等は間近で見ている。期待の声を上げるのは必然だった。
その姿を前に、誇太郎は褌を締め直す。
「……こりゃあ、頑張んないとな」
この世界に安心できる居場所を提供する、改めて誓い直して誇太郎は席に着く。
そうして全ての来賓が揃ったのを確認し、フィガロが声を張り上げる。
「これより、人魔妖精連合国の方針会議を執り行います! さあ、盛り上げてくで!!」
連合国の趨勢を決める会議の幕は、ここに切って落とされた。
いかがでしたでしょうか?
次回は会議の進行含め、新たに拙作に触れる読者の方の為にも総集編中心のお話になります。
何卒よろしくお願いいたします。




