第183話 武闘派として歩んだ職務経歴
こんにちは。
ジャスト2週間ぶりの最新話投稿となります。
今回は主人公の略歴を振り返る総集編となります。
何卒よろしくお願いいたします。
俺の名前は樋口誇太郎。
「改めまして、皆様こんにちは。フィガロ盟主のご紹介に与りました、樋口誇太郎と申します」
多種族を相手に自身の身の上を告げようとする、元はぐれ者の現世界人だ。
眼前にいる来賓の方々は、この世界で高い功績を打ち立てたネームバリューの高い方々ばかりだ。圧迫面接とは比較にならないプレッシャーが俺に降り注ぐ。
だけど、フィガロとソフィーから向けられる眼差しを感じているうちに……緊張感は自然と治まった。
後は、ただ単に自分が歩んできた道のりを告げていけばいいだけだ。
「僭越ながら、今日に至るまでの私の戦闘経歴について語らせていただきます」
それこそ、就職面接で自己紹介するようにな。
「事の始まりは、夏の半ば辺りに遡ります」
新たに俺を知ることになる人達の為に、俺は丁寧に足跡を語り始める。
*
子供の頃から、俺には夢があった。
それは、創作物で見た「かっこいいキャラクターみたいになりたい」という夢だ。
恐らく皆、誰しもあることだろう。漫画やアニメはもちろん、実写ドラマの中でも多かれ少なかれそういう人物を見たことある人はいるはずだ。
俺はその気持ちが昔から人一倍強かった。
だが現実はそうはいかない。想像以上の現実と社会の厳しさを知り、理想のかっこいい人物から遠ざかっていく毎日を味わう羽目になった。
幾度も転職と退職を繰り返し、精神をすり減らす度に……俺は何の為に生きているのか分からなくなっていった。
結果、現実世界――現世界の生き方に馴染めなくなった俺は、身投げを決行した。
これで全部終わる、そう思い死ぬはずだった俺の人生は――。
「お? ようやく目ェ覚ましたか」
この方との運命的な出会いにより、大きく変わることとなる。
身投げした俺を助けてくれた方は他でもない。
サキュバスロードのフェリシア様だ。
「しかし、異界の天気は面白ェもんだな。人間が降ってくる天気なんてよ」
フェリシア様は不思議な魔人だった。
今思えば、身体術で見たのだろう、俺の記憶を一通り……それこそ、迂闊に言えない「女性のおならに興奮する」という性癖まで知っても尚、馬鹿にしてこなかった。
それどころか、その異常性癖に答えようとまでしてくださった。サキュバスの魔王というだけあって、かなり寛容的だったことの衝撃は今でも記憶に強く残っている。
一頻り俺の記憶を見て、フェリシア様はこう仰った。
「お前の記憶を全て見て、感じたことがあった。今の言動も含めて……お前の本当の声は、『この人生を変えたい。もっともっと楽しく生きて充実させたい』。違うか?」
正にその通りだったよ。
それを踏まえて更にこう続ける。
「脅してるわけじゃない。はっきり言え、お前の心に素直になって。本当はどうしたかったんだ?」
優しい声で尋ねられ、俺は全てを吐露した。
自分の性癖も込みで、創作上のキャラクターみたいな強くてかっこいい人物になりたい、と。
その思いを全て汲んだフェリシア様は、俺にこう提案した。
「この世界を捨てて、一緒に来い! あたしの、部下として!」
まさかのスカウトだった。
見合うわけがない、非力な自分が部下など務まるだろうか。
そんな不安を口にしても、フェリシア様は見込みがあると前置きした上でこう仰った。
「本気で欲を叶えたい奴ほど、色んな欲望を素直に話してくれるんだ。何より、お前がさっき語った時の表情は! 誰よりも生き生きとして、輝いてた!」
もちろん、「頑張れるかどうかは『自分次第』」とも仰ったが、こうまで手を差し伸べられては断る理由などなかった。
「……よろしくお願いします!」
これが……俺が現世界の生活を捨て、生きて別世界に渡った原点だ。
*
渡ってからは、フェリシアの治める島国で修行に明け暮れる毎日だった。
現世界とは違い、別世界ではある程度戦える力がなければ成り立たない。
そこでフェリシア様は、ちゃんと地に足付けて成長できるように二つの能力を与えてくださった。
一つ目はイメージした動きを自動で身体に反映させられる、身体術の「柔軟な肉体」。
二つ目は心に宿す四つの心力を強く爆発させることで様々な付与を得られる心力型魔法術、「感情色」。
この二つの力を駆使して、俺は修行生活に励むことになる。
最初の一ヶ月は、基礎的な体力を身に付ける修行から始まった。ランニングを筆頭に、ダンベルを持ち上げたりスミレが用いる鍛錬用の金棒を持ち上げたりと……力を身に着ける為に、俺は遮二無二邁進した。
その甲斐あって、一ヶ月後には小さな岩を握り潰せるほどに成長できた。
それからは、魔物の討伐という形で実戦経験を積むことになった。
初めはスライム千体の撃破、続けてホーンラビット五十体の野良ゴブリン百体の撃破、そして両手の鎌が鋭い刃と化したカマキリのブレードマンティス討伐。
数さえこなせば何とかなるスライムはともかく、ホーンラビット辺りの突進とブレードマンティスの容易に命を刈り取る刃の強さは、当時を振り返るとかなりギリギリだった。それでも柔軟な肉体に浮かべたイメージと剣術を駆使し、何とか乗り越えてみせた。
そして、こいつ等を倒した後に向かえる最終課題。言わば成長具合を確かめる戦いに入る。
最終課題Ⅰで相手取ったのは、上位スライムのグライム。今でこそ、偉大なる少数派の仲間だが当時は農作物を荒らしたり、スライムの泉に近づいた人に襲い掛かる生活を脅かす存在だった。
普通に考えれば討伐一択だろう。だけど俺は、「捕獲する選択肢」を提案した。
理由は二つ。
一つは戦力拡充の為。グライムは五属性の魔法術を扱える極めて希少なスライムだ。それを討伐で片付けてしまうのは勿体ない。
そして二つ目、初めて遭遇した際に何かを伝えようとしていたからだ。当時のグライムは人間の言葉を話せず、口パクで何かを伝えようと必死だった。それは間違いなく、住民の生活を脅かす理由を伝えたかったんだろうと当時の俺は察した。
その二つを踏まえ、俺は討伐から捕獲へと切り替えて戦闘に臨んだ。
とはいえ、戦いは容易じゃなかった。実際、グライムと初邂逅した時は完膚なきまでに返り討ちに遭った。最終課題までに色々戦いを積んだが、それを含めても五属性を臨機応変にこなす戦闘スタイルは今でも驚異的と言える。
それでも、俺は全力を尽くして戦い抜いた。最後は、俺が氷属性でグライムを内側から完全に止めるまで耐えきるか、グライムがその前に俺をノックアウトさせるかのデスマッチへと突入。
五分間に渡り鋼鉄のような氷の腕で何度も殴られながらも、俺は最後まで耐えきって勝ち抜いた。
今振り返っても思うが、我ながらよく耐えきったと思う。戦い終わった直後に意識失ったし、正直ギリギリな戦いだったな。
続けて最終課題Ⅱ。
野良ゴブリン五百体とそのボスである暴君ゴブリンの討伐。グライム戦とは違い、全員討滅する戦いだ。
この戦いは、多対一とそのボスをどう攻略するかが問われた。
これに関しては、その前の実戦経験で千体以上の魔物との戦いを経験したことが活かされた。
五百体のゴブリン相手でも、俺からすれば脅威に値しなかった。最後のボス戦で感情色が暴走しかけるも、比較的容易に乗り越えられたと思う。尤も、|その暴走しかけた力と向き合う必要も出てきたが。
そして最終課題Ⅲ、龍人族の砦攻城戦。
これは先ほどまでの最終課題と違い、当時対立していた龍人族のエルネストの軍勢と真正面からぶつかる総力戦となった。
今振り返っても理解できる。この最終課題こそ、あらゆる面で俺を武闘派として確立させた戦いだったと。
その理由は他でもない。魔王軍の戦闘部隊隊長として、どういった作戦を立てるかという戦略性を求められたからだ。
当時の俺は戦闘一辺倒だったからか、慣れない戦略の立て方に四苦八苦だった。情報収集、敵勢力の侵入からの引き込み、更には劣勢を覆す為に離間計を仕掛けたりと、思い付く限りの策略は実行したと思う。
作戦立案の原点は、この戦いで培えたと今なら言えるだろうな。
そんな一進一退の策謀を乗り越え、総力戦当日。仲間達の無事と勝利を願いながら、俺は龍人族の砦が陥落するのを待っていた。
だが、戦いの終盤で急展開が起きる。しびれを切らした龍人族の大将――エルネストが本陣を急襲してきたのだ。結果、俺は本陣を移す形で味方を逃がし、エルネストとの戦闘を強いられることとなった。
最上位魔人たるエルネストの力は絶大そのもの。
パワー、スピードは言わずもがな。特筆すべきは、自身の鱗を自由自在に操る身体術の鱗操。鱗で切れ味抜群の大剣を作るのはもちろん、その鱗をバラバラにして鏃のように自由自在に操ることもできてしまう。
言うまでもなく、圧倒的格上の存在。だけど、俺は諦める選択肢も逃げる選択肢もなかった。
理由は簡単だ。拾ってくれたフェリシア様に報いる為に、そして何より……戦闘部隊隊長として胸を張れる人間になれるよう、挑まねばならなかったからだ。
だが、気持ちだけで勝てるほど甘くはない。実力差を埋めることは難しく、俺は死の淵にまで追い込まれた。
だけど、これで良かった。無傷で勝とうとした甘えが、より一層俺の覚悟を固めさせた。そしてここで初めて、感情色の力を活かし始める。
「素直」、「忍耐」、「激怒」、そして「根性」。四つの心力を随時爆発させ、俺は懸命にエルネストに食らい付く。
勝つまで絶対に諦めない、不屈の根性を燃やしながら。そうして足搔くうちに、俺はやっとエルネストの弱点を掴むことに成功した。
それは、龍人族が持つ鱗の中でたった一枚だけ逆さになった鱗……逆鱗。人間で例えるなら、複数の神経が一極集中する急所の鱗だ。
そこを穿ち抜き、俺はエルネストを激痛に沈めた。だけど、俺も限界だった。弱点一つ見つけるだけで、かなり体力と心力を消耗したからな。
お互い体力が残りわずかな中、最後はどうしたかって?
決まってるだろう、最後まで全力でぶつかり合った。
ここまで来れば最早関係ない、最後まで悔いなく闘い抜いてやろうという想いがエルネストと共鳴した。
そして、決着の時。
突進してくるエルネストに対し、俺は勢いを利用した背負い投げを決める。そして倒れた所で二つの刃を目と首筋に突き付け、勝利をもぎ取ったんだ。
こうして、俺の武闘派の根幹は築かれたんだ。
それから程なくして、この世界でやりたいことができる出来事が訪れることとなる。
*
龍人族攻城戦の翌日。
俺はフェリシア様付き添いの下、同盟相手であるエルフ中心の国――ラッフィナートに出向くこととなった。
戦乱渦巻く本土の情勢は依然として芳しくない。帝国との戦禍は長く続き、いつ本格的に攻められてもおかしくない程に追い詰められている。その応援として武力提供すべく、俺は女王ノエミ陛下の下へと向かうことになったというのが当初の予定。
だが、程なくして陛下の息子であるフィガロと出会うことで事態は予期せぬ方向へ舵を切る。
フィガロとの模擬戦を経て実力を見せつけた後、俺は彼の頼みに巻き込まれる形でリオーネ……現在の連合国をギーアの奴隷商から解放する戦いに参加することになったのだ。
トントン拍子で進む展開に付いていくだけで精一杯だったが、だからこそ事前に戦闘経験を積んでいてよかったと今なら断言できる。
現に、作戦立案はかなりやりやすかった。龍人族の攻城戦で培った経験は、正にここで活かすことができたからだ。
だが……救えなかった命があったことも、俺の記憶に強烈に刻まれている。
地元エルフを含む奴隷の解放も兼ねた戦いだったが、捕らわれていた帝国魔人の奴隷は助けられなかった。
何故なら彼女等は、「死が幸福である」という帝国の思想の下に従って互いに自決に走ったからだ。
ことが全て終わった後に、俺はフィガロに問い詰めた。
「何で黙ってたんだ!?」
それに対しフィガロは――。
「仮に教えたとしても、帝国魔人だけは救うことだけは絶対にできひんかったと思う。『死が幸福』って価値観を幼少期から叩き込まれてる以上、助けたとしても本当の意味で救うのは難しいで」
残酷な答えを突き付けてきた。
だからこそ、フィガロは変えたかったんだ。この世界に満ちる、「命を軽視する厭世的な価値観」を。
その為にリオーネを人魔妖精連合国と改めて独立し、明るい未来を示せる新時代を作ろうとしたんだ。
俺もこの考えに賛同せずにはいられなかった。
理由は他でもない。
国やお偉方の押し付ける価値観によって個々人の人生が破壊されることは、何があっても許されちゃいけない。ブラック企業で死人同然の人生を送っていた自分だからこそ、その考えは一層強くなった。
そして、俺は決意する。
連合国から世界の厭世的な価値観を誰もが幸せを追求できる明るいものに変えていこう。
これが俺のやりたいこととして確立することとなった。
*
その後、本土からフェリシア様の島国に戻った俺は出向メンバーを募ることになる。
魔獣季という過酷な季節を利用し、戦い抜いた選抜メンバーを連れていくという形で。
ちなみに魔獣季とは、越冬に向けて魔獣達が活発に動く季節のことを意味する。もちろん、熊のような猛獣タイプの魔獣も動き始める為、一年で一番命懸けの季節と言っても過言じゃない。
だからこそ、本土に連れていく選抜にはピッタリだった。
誰かの幸せを守る為に倫理観を踏み越えられる武闘派を選抜するにはな。
攻城戦や先のリオーネ奪還戦で部隊を動かしつつ、俺は志望してきた仲間達の実力を見定めていった。
そうして無事乗り越えて集ったメンバーは、総勢二十二名。
いずれも世界を変えたいと願って立ち上がってくれた、選りすぐりの精鋭達だ。
だが、世界の価値観を変えるとなればただ戦うだけでは意味がない。
弱きを助け強きを挫く任侠の心を忘れるべからず。
地元民との交流を忘れるな。
以上の二つを遵守した上で、自分なりの幸せを見つけ出してほしい。
この三つのルールを掲げ、俺は偉大なる少数派と名付けた部隊を率い、本土へと赴いた。
とまあ、ここまでざっと振り返ってみたけれど……現世界から移り住んで、俺自身の意識も大きく変わったかもしれない。
フェリシア様の下で頑張っていた時は、拾ってくれた恩に報いたいフェリシア様の侍として頑張っていた。
だが、本土の惨状を知って……連合国で自分達はどうあらねばならないのかを考えた。
その結果、次のように落ち着いた。
フェリシア様への忠誠心はそのままに、侍から任侠を意識した極道のスタンスへと移行する。
地元民と絆を深め、誰もが幸せを求めやすい新時代を創り上げる。
その一心で、俺はこれからも戦い続けるんだ。
*
「……以上が、私の略歴となります」
短くため息を付き、俺は自身の経歴を語り終えた。
本当は他にも言いたいことはたくさんあるんだが、会議の尺の都合を考えたら全部話す余裕はない。
大事なのは、俺の力量を知りたいランザ殿含め会場にいる人達に自己アピールすることだ。長くなったけど、それなりに伝えられたのではないかと思いたい。
俺の経歴を聞き終えた会場の反応は分かりやすかった。
「今の話聞いた感じだと……現世界から来て一年も経ってない人が、龍人族を倒すレベルの力を手にした……ってことだよね?」
「は!? それってヤバくないか!?」
「百年単位で生きるエルフですら互角に持ち込めればいい方なのに……」
特に、こういった動揺のリアクションは如実だった。
まあこの仕組みは、心力型魔法術の感情色の一つ、素直の影響で成長速度が倍化していたから猛烈なスピードで成長できた……ってのが真実だが、今は置いておこう。
さて、俺の強さを知りたがってた張本人……ウンディーネのランザ殿はどう評価してくれるかな。
「……なーるほど、確かに腕は立ちそうだ。ソフィーちゃんとフィガロ坊が目を付けんのも頷けるよ」
ランザ殿の相槌に、集まる来賓の方々も納得した様子で頷いた。
特にオーガの里の族長でスミレのお父さん、クロッカス殿は俺の話に食い入るように耳を傾けていた。恐らく来賓の方々の中では一番理解を示してくれたんではなかろうか。
ただ……なぜだろうか。ランザ殿は言葉では納得した旨を口にしているが、声色と目付きは未だに穏やかではない。
会場に入る前もそうだ。
――汝には聞きたいことがあるのでね。
妙に含みのある言い方で、改めて聞きたいことがある様子を匂わせていた。
俺の実力は示したのに、何が不服なのだろうか。
そう思った矢先――。
「だが……それ程の腕前を持っているからこそ、尋ねずにはいられなくなった!」
遂に、ランザ殿が真意を口にする。
「問おう、樋口誇太郎。汝は何故、精霊信仰の里の民を救けに行かなかった!!」
「……っ!!」
それは、この会議で一番聞かれたくなかった内容だった。
ランザ殿が言いたいのは、彼女と親交の深いツーガントの集落の一つ――精霊信仰の里が滅ぼされた件について聞きたかったんだろう。
この件は救けに行かなかったというよりも、救けに行けば余計な火種を持ち込みかねないことを加味して見逃さざるを得なかったというべきかな。
仲間の髑髏兵士――カラヴェラ曰く、里の生き残りがツーガントの徴兵部隊に追われていた以上、既に目を付けられて滅ぼされていると目星を付けていた。
徴兵部隊は徴兵に従わなければ容赦なく粛正する過激さがある。下手に目を付けられれば危険な目に合うのは避けられない。それを危惧したカラヴェラはこれ以上のトラブルを持ち込まない為にも、連合国に逃げ延びた若者二人を囲い、敢えて里の救出を諦めざるを得なかった。
それに対し俺は、「連合国に降りかかる火の粉を振り払った」という偉大なる少数派の本分を果たしたことを称え、カラヴェラの責任を預かることにした。
だが、これは見方によっては責任を問われても仕方ない話だ。
「さあ、答えてもらおうか。自警団のリーダー様よ」
穏やかに進むはずだった会場の空気は一気に凍てつき、重苦しい物に変わっちまったんだ。
いかがでしたでしょうか?
まさかの展開で締めくくられた今回のお話。
次回は泥沼の討論になるかもしれません。
何卒よろしくお願いいたします。




