9話
7話のところが抜けていたので新しく追加しました。
本当に申し訳ございません
寂寥感のある酒場に外からの光が薄く差し込んでいる。
しかし午後2時を過ぎたくらいにしては光量が乏しいと感じるくらいだ。
それは都市の天気が原因だった。
酒場に取りつけられている窓に目をやるとその窓が水滴で濡れているのが分かる。
そして静かな酒場の屋根を無数の雫が絶え間なく打ちつけ、扉の正方形の窓から見えている、道を行きかう人々は頭上に傘を差している。
今日は、久し振りの雨だ。
さあっ、という雨とパラパラと窓に雨が打ちつける音の中で、俺は酒場にある椅子に座って欠伸をしながら本を読んでいた。
今日は本当ならダンジョンへ潜るはずなのだが、雨の中を1時間歩いてダンジョンへ行くなどというめんどくさいことをしたくなかったので、今日は休みにしよう、と予定を変更してこうしてくつろいでいるのだが。
………暇だ。
あまりにも暇すぎる。やることがない。
酒場は夜8時からなので6時くらいから準備を始めれば余裕で間に合うので今からやるべきことではないし、そろそろこの本も読み終わりそうだ。
まぁもっとも雨の中でこんな都市の端の酒場に来る客なんていないとは思うが。
俺は、この本を読み終わったら何をしようかなぁ、寝ちゃおうかなぁ、でも今寝ると夜寝られなくなるんだよなぁなどと、のんびりと考えていた。
◆
結局、こうなってしまうのだ。
休もうと思っていても体はダンジョンへ赴こうとする。その時に丁度諮ったかのように、まるで休むなと言うように雨脚が弱まったので来てしまった。
じめじめとした空気に汗ばみながら俺は歩を進める。背中には少し膨らんだバックパックを背負い、手には血塗られたダガーを握りしめている。
俺は今さっき倒したスケルトンからドロップした白骨を手に取る。
見た目は普通の骨に見えるが、何故か魔力が付与されており、そこそこ耐久性があるので武器や防具として大量生産されている。
大量生産が可能なので見習いの鍛冶師などの練習素材となることが多く、そしてその作られた武器や防具は安いため、初心者の冒険者などが買う。
熟練者の鍛冶師ともなると、これを使って武器や防具を作ることでその日の調子を測るらしい。
ここは33層、最下層だ。32層が突破され、1週間程しか経っていない攻略したてほやほやの階層。
この層ではスケルトンとワイトが出てくるらしい。
この2体が集まるとホラー感がもの凄く出るな。
そんなことを考えながら前に進む。この階層はそのホラー感を助長するように、どこかおどろおどろしく感じさせる造りになっている。
見た感じ33層は迷路型で、部屋が無いらしい。
基本的に狭い道しかないので1人で攻略している俺にとっては、前後からモンスターに挟まれたら厳しいだろう。
パーティだったらむしろ戦いやすいかもしれない。
そう思いながら通路の角を曲がる。すると目の前にスケルトンがいた。
「うぉあ?!」
咄嗟に抜剣をして構える。スケルトンも俺を敵だと認識したのか、身体の向きを変え、俺と真正面に対峙する格好になった。
スケルトンは白骨死体が動いているようなもので、あまり力は強くない。
ただその分俊敏性があり、手数が多く、近づかれると厄介なモンスターだ。
突然の会敵に飛び跳ねた鼓動を抑えているとスケルトンが動き出した。両手を前に出し、首元へ飛び掛かってくる。
俺はそれを左へずれることで躱し、首をダガーで斬りつける。
ガコッという鈍い音とともにスケルトンの首が半分ばかり断たれる。しかし、スケルトンは死者なので痛みを感じないようで、すぐに後ろへ跳んで俺と距離をとった。
しかし、俺がそれを見逃すはずもなく。
低い体勢でスケルトンへ飛び込み、足をバネのように使って跳ね上がり、骨盤の辺りを斬りつける。
勢いのついた斬りつけはスケルトンの腐りかけた骨を断つには十分だったらしく、上半身と下半身で真っ二つになる。
そしてスケルトンはダンジョンへと溶け始め、また骨が残った。
また骨か。
スケルトンを倒す度に骨が出てくるので正直困る。1時間ばかりダンジョンに潜っているが、もう30本に達しようかというほどで既にバックパックははちきれそうになっている。
これ以上戦うとバックパックがキツイしそろそろ時間が迫っていると思い、来た道を帰り始めた。
入り口に戻り、マスケティア一族の役人が佇んでいる姿が見え始めた時、その後ろから誰かが階段から降りてきた。
それは数人のパーティて編成されているらしく、朗らかな笑い声が聞こえてくる。
俺はそのパーティを注視していると、その中に見知った顔がいることが分かった。
俺はそのことに少なからず驚き、足を止めてしまった。
すると相手は俺に気付いたのか、仲間に何か声を掛けた後、俺に駆け寄ってきた。
「ようアルク!」
「ヒース……?なんで33層にいるんだ?」
「ふふん、聞いて驚くなよ?」
そこでヒースは一拍置いて息を吸う。
「俺達は、とうとう33階層まで来れるようになったのだ!」
「……………え?」
そんなことはありえ無い。先週ヒースは俺の所へ30層のマップを買いに来たばかりだ。それが1週間でこの33層に進出してくるとは。
「何があったんだ?」
単純に疑問を表した俺にヒースは食い気味に答える。
「俺達のギルドに腕の立つ奴が入ってきたんだよ!」
「そうだったのか」
素っ気ない俺の返答だが、大分驚いていた。パーティのレベルを2階層分も底上げできる冒険者がヒースのギルドに入ったというのだ。それだけでもかなり凄い。
ヒースの所属するギルドは残念だが余り力は無い。今までは精々ヒースが30層まで到達している程度だったのだ。
それなのに凄腕の冒険者が入ってくるのはとんでもない酔狂な奴か、それとも。
俺は、ヒースにのみ聞こえるように囁く。
「まさか、騙したのか?」
「人聞きの悪いこと言うなよ……勿論自分から入りたいって言ってきた奴だ」
「随分な物好きもいたもんだ」
そう言って俺は新しく入ったと思われる人物を見やる。
その人はまだパーティのメンバーと打ち解けていないのか、おどおどした感じで一番後ろに立っていた。
体格が大きく、背に身体がすっぽりと収まりそうな盾を背負っている。
俺は、その人を見て再度驚いた。
その人が見知った、そして、知り合いに関わりのある人物だったからだ。
俺は動揺しつつヒースへとまた声を掛ける。
「盾役か?」
「あぁ、こいつがいるお陰で俺達が存分に狩ることができる」
「そうか、そいつは良かったな」
俺は返した言葉が少し強張っていることに気付く。だがヒースは気づかなかったのか、おうよ、とヒースは俺にはにかんだ。しかし俺はそれどころでは無く緊張していた。
俺は動揺を悟られないようにヒースへ声を掛ける。
「じゃあ俺はもう帰るわ。気をつけろよ」
「あぁ、分かってるよ」
そして俺はワープで地上へと飛んだ。
◆
地上へ戻ると、俺は一目散にある場所へと向かった。事の真偽を確かめるためだ。
東にあり、やや西よりに位置する目的地は、幸いダンジョンから近く、すぐに到達することができた。
ギルド、サイレントケットだ。
都市のギルドの中でも力があり、階層主の討伐も何度も行っているギルド。
そしてそのギルドのリーダーは、アナベル。
そしてヒース達のギルドに入った奴とは、サイレントケットにいた、アナベルの側近とでも言うべき存在の人物。
ペングイン討伐の時に、俺に尋常ではない睨みを効かせてきた、盾役パーティーの一員だった。




