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10話

俺は無言でギルドの中へと入っていく。

受付には、いつも応対してくれる女性が鎮座していた。


「こんにちは、アルクさん。今日はどういったご用件でしょうか」


そしていつものように同じ言葉を発した。だがその表情は、何故この時期に来たのかという疑問が窺えた。


「アナベルと話がしたい。会わせてくれ」

「か、(かしこ)まりました」


俺の急いでいる様子にたじろぎながら部屋の奥へと呼びに行った。




暫くして、アナベルが出てきた。その格好は仕事用なのか、黒いスーツを着込んでいた。


「なによ、アルク。私そろそろ帰ろうかと思ったんだけど」


アナベルは気だるそうに言う。


「それで、なに?階層主(ボスモンスター)の部屋を見つけたとか冗談言ったら張り倒すわよ」

「流石に茶化すためにここにはこねぇよ。ある事を確かめに来たんだ」

「ある事?」


アナベルはなんのことだと首を(かし)げる。


「32層の階層主(ボスモンスター)を倒すときにアナベルの近くにいた盾パーティがいただろ?そのパーティの一人がギルトから抜けなかったか?」


それを言うとアナベルは少し固まり、はあっ、と息を吐いた。


「アルクは良く知ってるわね………」

「今回はまぐれだ。そいつに33層で会ったんでな」


するとアナベルは意外に思ったのか、俺の言葉に食い付いた。


「33層?なんでエルーニがそんなとこ行けるのよ?」


どうやらその男はエルーニというらしい。

そして俺は少し悩んだ。この先の情報を売るか売らないか、ということでだ。

情報屋としては売るべきだが付き合いの長いアナベルに押し付けのような売り方をしてもいいのか。


「………そのエルーニはヒースのギルドに今入っているんだ」


結局売ることはしなかった。こんなことだからお人好しって言われるんだろうか。


そしてアナベルも疑問に思ったのか疑問形で返してきた。


「へ?なんでファントムソルジャーなんかに入ったのよ」


なんかって言うななんかって。調べた感じだとあのギルドも頑張ってるんだぞ。

確かにアナベルのサイレントケットに比べたらちょっと弱いけど。


あとファントムギルドというのはヒースの所属するギルドだ。

ギルド長は何を考えていたのかファントムなんて不吉な言葉をつけているが、意味を知ったら名前変えたいとか言いそうだな。


「その反応を見るにそもそもギルドを変えたことを知らなかったみたいだな」

「えぇ、残念だけど何も知らないわ。ただギルドを抜けるときにやりたいことがあるので脱退させて下さいって言ったきり何も消息が掴めなかったから………」

「やりたいこと、か。ギルドを抜けてまで何がしたいんだろうな」

「さぁ……何かしらね」


俺とアナベルの間に沈黙が流れる。

アナベルは何かを考え込んでいる様子で、腕を組んで難しい顔をしている。


そしてアナベルの中で結論が出たのか、腕を元に戻し、紅茶を一口飲んでから俺へと話しかけてきた。


「ねぇ、アルク」

「ん?なんだ?」


アナベルは紅茶をソーサーに置き、俺を見つめながら言った。


 ・・・・・・・

「お姉さんは元気?」








午前中は静かだった酒場には珍しく客が多く入っていた。

俺は一人注文を取り、料理をし、運び、新たな客を席へと案内していた。

滅多にない混雑ぶりなので頭が混乱している。

しかも最初は酒場の前に索敵魔法を掛けていたので頭の中で鳴り続け、頭痛が酷かった。



日が変わり客が一人もいなくなって、もうそろそろ閉店しようかと思った時、唐突に扉が開いた。

酒場の中央の席に上半身を逸らしながら伸びていた俺はすっかり気を抜いてしまた。

酒場に来た人物は苦笑しながら言う。


「珍しい光景だな。アルクの魔法道具で写真を撮っておきたかった」

「今魔力籠めてる途中だから撮れねぇぞ」


入ってきたのはヒースだった。いつもと違う片手剣に盾だ。また買ったのか。


「こんな時間に来るなんて珍しい、というか初めてだな」

「そうだな。本当はもっと早く来たかったんだが珍しく混んでてな、隣の武器屋に行ってたんだ。で、買っちまった」


そう言って剣を腰の鞘から抜き放つ。まだ使われていないのを示唆するように銀色が鮮やかに輝いた。


「……よく金保()つよなぁ」

「大丈夫だ。ギルドの経費で落としてる」

「おい……ギルドの経費をそんなことに使っていいのか」

「問題ないだろ、実質的にダンジョンで稼ぐために必要なものだからダンジョンギルドの査察で引っ掛かることはない」

「ヒースは武具が絡むと頭良くなるよなぁ………」

「そんなに褒めるなって」

「褒めてない」


ヒースは剣を鞘に戻し俺の座っている席の反対側に座った。


俺は座ったまま応対する。


「注文は」 

「取り敢えずもうちょい愛想を良くしてくれ」

「そういう注文じゃない。そして無理だ」

「あっさりと言うなあっさりと」


するとヒースは諦めたのか、普通に料理を注文した。


回鍋肉(ホイコーロー)で」

「………またヒースにしては珍しい料理を選んだな」


いつもヒースは野菜炒めや酒に合うようなツマミを注文するのだが今回は両方とも違った。


「何かあったのか」


俺は拭いきれない違和感を覚え、ヒースに問いかけた。するとヒースは弱ったような顔でこちらを見た。


「ん、まぁな。最下層に潜っているとやっぱり精神的にくるんだろ」

「あぁ、なるほど。確かに初めて最下層に潜ったときはキツかったな」


ヒースの言葉に俺は天井を見上げながら思い出す。これはまた後の話だ。




数分して、俺は回鍋肉(ホイコーロー)を作り上げ、ヒースの元へと運ぶ。


「おまたせ致しました」

「いつもそんくらいの対応をしてくれ」

「今回だけだ」

「てことはいつも他の客にはやってんのかよ」

「まあな」


その言葉にヒースははぁ……、と息を吐きだし、食べ始めた。







回鍋肉(ホイコーロー)を食べ終わったヒースが呟く。


「ごちそうさん」

「はいよ」


だが一言それを言ったきり、何も言わなくなってしまった。何も入っていない回鍋肉(ホイコーロー)の皿を見つめ、何かを考えているようだ。

そして思い切ったように勢い良く顔を上げ、俺に話し掛けてきた。 


「アルク」

「なんだ?」 

     ・・・・・・・・

「その……お姉さんは元気か?」

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