11話
コツ、コツ、と足音が壁へと天井へと反響して辺りの闇に溶け込もうとする。
いつもならそのまま一定のリズムで音が鳴り響いていくのだが今回はそれが掻き消された。
「それでよ〜!こいつ一番最初の敵と遭遇して漏らしちまったんだぜ!?」
「ちょ、ヒースさん?!止めてくださいよ!」
ヒースに秘密を暴露された人物は、顔を赤面させ止めに入ろうとした。
この人はラムズ・コトフ。中衛でアタッカー兼ヒーラーを努める器用な人だ。ヒースのパーティの中で一番実力があるかもしれない。
何故ヒースとコトフのやり取りを眺めているのかというと、俺が一時的にだがヒースのパーティに加わることにしたのだ。本当はパーティなど組みたくもないのだが、依頼の完遂のために必要だったので渋々加わることにした。
ピリピリしたダンジョンの空気の中、ここだけは柔らかい雰囲気で探索を行っている。ヒースの人柄がなせる業だろうか、気負いというものが全く感じられず、皆がリラックスしているように感じる。
そしてそれを俺にも影響を与えようと、ヒースは俺に話し掛けてくる。
その中でコトフの秘密暴露があったのだ。
憐れ、コトフ。
◆
「今回は、なんだ?」
ヒースのパーティに入る前日。元々サイレントケットにいたエルーニがヒースのパーティにいることを知り、サイレントケットへ赴いた時だ。
そのことを伝えるとアナベルは難しい顔をして、俺に依頼を伝える合言葉を言ってきた。
「もちろん、エルーニについてよ」
「それの何を調べるんだ?」
「……エルーニの気持ち、かしら」
「気持ち?」
「えぇ」
俺はアナベルを見据える。アナベルは、じっと俯いていた。
ややあってアナベルは顔を上げる。そこには不安げな表情が張り付いていた。
「私、ギルドのことでエルーニの気を悪くしたなら謝りたいの。ギルドマスターとしてではなく、私個人で」
俺は少しの驚きと、大量の『またか』という思いで一杯だった。
何故こんなことを思っているのかというと、前にも同じようなことがあったからだ。
その時はその人のパーティメンバーと仲間割れして居場所が無くなったから脱退したという理由だったのだがアナベルはそれを俺に調べさせ、というか依頼して、原因を知るとすぐに打開策をその人へと提示した。だがその努力も虚しく、それから一度もギルドへ顔を見せたことはなかったという。
「……」
俺は返事に困っていた。
あの人の二の舞いを踏むことになるのではないかと、そう思っているのだ。
だがアナベルはそれを見越してか、口を尖らせながら言ってくる。
「大丈夫よ、今回は無理強いはしない。ただエルーニの本心を知りたいだけ」
「そっか」
「そうよ、もうあんな思い、したくないもの………」
アナベルは下を向く。そこには悲痛を訴えかけてくるものがあった。
俺は自分の先程の対応が悪かったことを詫びる。
「………悪い」
「大丈夫よ、私の問題なんだし」
そう言って笑顔を作る。ただ俺には、ぎこちない笑みに見えた。
俺は気まずい空気をなんとかしようと無理に声を張って言う。
「じゃあ依頼は受けるぞ。期間は……ちょっと長くなってしまうかもしれないがそれでもいいか?」
「えぇ、構わないわ」
「じゃあ最低でも3週間後、ここに来る。もっと早くカタがついたらそれ以前に訪ねるから」
「よろしく頼むね」
◆
日付と場所が代わり、1時弱のアルク酒場。
ヒースが回鍋肉を食べ終わり、アナベルと同じく例の合言葉を言ってきた。
一日に2つ依頼を受けることは滅多に無かったので少し驚きながら言う。
「用件は?」
「エルーニの素行だ」
俺は再度驚く。まさかヒースもエルーニについて依頼をしてくるなんて思ってもいなかったのだ。
依頼をしてくるとしたら33層のマッピング情報かなぁ、でも今全然マッピング出来てないんだよなぁとか思いながら気を抜いて聞こうとしていたのだ。
俺はヒースの真意が分からず、質問する。
「なんでまた、エルーニの素行調査なんだ?そいつがいるお陰で33層にも潜れてるし問題は起こしてないんだろ?」
「むしろそこなんだよ」
ヒースはテーブルに頬杖をつきながら愚痴るように言う。
「あいつは確かに腕があるし数日パーティを組んでみたが問題も起こしそうにない穏和な性格だと感じた」
「だったらどうして」
「不自然なんだよ」
ヒースはビールジョッキを傾け、一口飲んでから続ける。
「なんでそんな奴がウチのギルドに入ってきた?俺達はそんなに強いわけじゃない。前にいたギルドはサイレントケットだと聞いた。しかもそこではギルドマスターに進言できるくらいの側近だったんだろ? 」
俺はそれに無言で頷き続きを促す。
「ますます意味が分からない。そんなことをする奴はよほど複雑な事情があるか、物凄いアホだ」
ヒースはとめどなく言葉を口にする。呂律が回らなくなってきているのは酒のせいだろう。
「だがあの性格を見るにアホだという線は考えにくい。だからアルクに頼もうとしたんだ。自分で聞くのは憚れるしな」
「俺だったらいいのかよ……」
俺はヒースの言わんとするニュアンスを理解しながらもおちゃらけた口調で嫌味を言う。
案の定、ヒースは慌てて弁解しようとしてきた。
「そ、そうじゃない。アルクなら情報収集が出来てあいつに尋ねずとも知りたいことが知れると思ったからであって」
「分かってるよ」
俺はヒースの予想通りの言葉に思わず微笑する。
ヒースはそれを遅れて理解したのか、憮然とした表情でビールを飲んだ。
俺はそれを見ながらアナベルとヒース、2人の依頼について考えていた。
今回は2人の依頼がほぼ一致しているから実質やることは一つだけだけどそれをやるために効率がいいのは____
俺はひとしきり考えたあと一つの結論に達した。そしてヒースへと声を掛ける。
「ヒース」
「どうした?」
「俺をヒースのパーティに一時的に加えてくれ」
「…………え?」
これが、俺がヒースのパーティに入るきっかけだった。




