12話
「パーティに入るって………ギルドにも入るってことか?」
「いや、あくまでヒースのパーティに入りたいだけだ」
「でもそうなるとちゃんとした理由がないと訝しがられるぞ」
ヒースの言う事はもっともだ。だが俺はそれに対する答えも持ち合わせていた。
「大丈夫だ。ギルド加入の前のお試しでパーティに入ってるって言えば何とかなるだろ」
「う〜ん………まぁ何とかは、なるだろうな」
そう言ってヒースは口ごもり、何か考え事をした後、俺に提案をしてきた。
「なぁアルク、お前ギルドに入る気はないのか?」
ヒースが視線を上げ、立っている俺と目を合わせる。
「今のところは必要と感じてない。俺は人付き合いが苦手だし自分の居場所が作れなさそうだしな」
「俺が見る限り社交性はあると思うぞ?」
「ある一定の人だけな。それに仕事に関してはビジネスライクな付き合いだし」
俺は視線を木目調の床へと移して続ける。
「とにかく、今はギルドには興味がない。今回の件、頼めるか?」
そう言うとヒースは諦めたのか残っていたビールを飲み干し、財布から代金を取り出して立ち上がった。
「そうか、変なこと言ってすまなかったな。それと、アルクをパーティに入れる件、上に伝えておく。明日は1時にダンジョンへ潜るから来てくれよ」
「あぁ、分かった」
ヒースはそれを言ったきり、無言で扉を開ける。いつも通り、扉にくくりつけてあるベルがからん、と鳴った。
俺は静かになった酒場の中で立ち呆けていた。
ギルド、ね………。
呆けていたのも数秒のことで、俺は酒場を閉めるために、外に置いてあるウッディプレートを中に仕舞おうと扉を開けた。
◆
時は戻りダンジョンの中。
「ふっ!」
ワイトが繰り出してきた剣技とは到底かけ離れた、ただ振り回しただけの剣をかいくぐり、跳ねるように剣を切り上げた。
それは相手の左の大腿骨を切断し、ワイトは左に傾き倒れる。
この動作はモンスター相手に有効なので大概はこの動きでモンスターを狩っている。
それを見てヒースは感嘆の声を出した。
「すげぇなあ、やっぱ」
俺はワイトからドロップしたアイテムを回収する。今回のドロップアイテムはワイトの指輪、だった。つけると魔力がほんの少し上昇する。
滅多に出ないアイテムだったので少し心が踊りつつヒースに言い返す。
「これくらいはヒースでもできるだろ」
それを言うとヒースは困った顔をして言う。
「どうだろうなぁ………」
「おいおい、大丈夫かよ」
俺は苦笑する。そこには本気の心配と茶化しが半々含めれている。
ヒースはそれを感じ取ったのか、どもりながら言う。
「だ、大丈夫だって!俺には頼れる仲間がいるんだからな!」
「そりゃ良かった、だけど個々の技術も高めておいたほうがいいぞ」
最後の方はヒースだけでなくパーティメンバー全体にも言ったものだ。
パーティメンバーの反応は様々で、神妙に聞く人や、明らかに聞き流している人もいる。
その中でエルーニは下を向いていた。
聞いているのか聞いていないのかは、よく分からなかった。
◆
「そろそろ帰るか?」
約34体目のスケルトンを倒し終え、一息ついたころヒースが言った。
俺の勘だと、5時くらいのはずだ。
「そうだな、時間も時間だし」
ヒースは腰から懐中時計を取り出して言う。そしてヒースの言葉に皆が賛同した。
しかし一人だけ、違う提案をしてきた。
「あの……俺だけ残らせてください」
それを言ったのはエルーニだった。
俺は唐突な発言に言葉が無かった。今まで全くと言っていいほど喋らなかったエルーニがこの時だけは何故か発言したのだ。
そしてもっと驚いたのは次に続くヒースの言葉だった。
「はぁ………分かった」
なんと肯定したのだ。自分が言えた義理じゃないが一人で狩るということは危ないというのに。
俺は視線でヒースへ無言の問いを投げかける。しかしヒースはじっと俺を見つめるだけで何も言ってこななった。
◆
「あれで、いいのか?」
33層から地上に戻ってきてすぐにヒースへと尋ねた。
「勿論悪いとは思ってるけどさ……」
ヒースの返答にもどこか歯切れの悪いものを感じる。
俺はそれを聞き出そうとさらに問う。
「じゃあどうして」
「あいつを一人にして狩りから帰ってきたら、あいつは無傷だったんだよ。それからもずっと」
「だから、一人でも籠もらせてるのか?」
「そうだよ、あいつなら大丈夫だと、そう思ったからな」
ヒースは羨ましいような悲しいような声で呟く。それを見て俺は疑問に思うことがあった。
それだと、パーティの意味が無いじゃないか。しかも一人で最下層に潜れる実力があるのになんでヒースのパーティに入ったんだ?
色々な疑問が渦巻いてはいたが口には出さなかった。
「そうか………」
その後に俺は話しを逸らした。
「そういえば分け前はどうするんだ?」
話しを逸らしたいことをヒースも悟ったのか、若干声高に返してきた。
「それは半分にするつもりだ」
「半分?それじゃ、そっちの割りに合わないだろ」
「いや、実際アルクは半分くらいモンスターを狩ってたしな。丁度良いくらいだろ」
「いや、だけど………俺はギルドに入ってる訳ではないし………」
「貰っとけよ、アルクのお陰で最下層で死ななかったようなもんだしな、ホント、ギルドに入ってきて欲しいもんだぜ」
その言葉に後ろのメンバーも頷く。
場が拒否させないような雰囲気になってしまったので仕方なく受け取ることにした。
「ありがとな。今度店に来たときには割引してやるよ」
「ホントか?!言質は取ったぞ?!」
「おい、それが目的かよ」
ヒースにしてやられた俺ははぁ、とため息をつきながら別れの言葉を切り出す。
「じゃあな、ヒース。また明日もよろしく」
そう言うとヒースは右手を挙げてはにかんだ。
「おう、また明日な!」
◆
ヒースと別れたあと、俺はすぐにダンジョンの最下層、33層へと再度赴いた。勿論、エルーニの観察にだ。
幸いにも、エルーニは入り口のそばで狩りをしていた。俺は見つからないように道の角を上手く利用して死角に入る。
エルーニは盾役特有の大盾でスケルトンの剣を弾き、できた隙に斧を振りかざしていた。斧は一撃でスケルトンの首を吹き飛ばし、首が無くなったスケルトンは崩れ落ち、地面へと溶けていった。
見ただけだが、戦闘は安定していて下手をしない限り死ぬことは無いだろう、と感じる。
エルーニはスケルトンからドロップしたアイテムを拾い、そのまま前へと進んでいく。
エルーニはそのまま狩りを続け、ダンジョンから出ようとしたのは6時を過ぎてからだった。
◆
ダンジョンから出たエルーニは、足早に東へと動き出した。そして迷わずアイテム換金所へと足を踏み入れた。
俺は外からエルーニに見つからないように声を聞いた。しかし聞こえてくるのは本当に所々で、何を話しているのかは分からない。ラピッドイヤーが一人だけに通用するならば、とこういう時はいつも思う。
するといきなり換金所から怒号にも近い声が聞こえてきた。
「もっと高くなんないのか?!」
その声に周りにいた人は一斉に声の主へと視線をやった。声の主は、エルーニだった。
辺りがしん、と静まり返った中、換金所の職員と思しき男性が恐る恐る意見をする。
「ですから、この金額はドロップアイテムを適正の金額で換金したもので」
「それは分かっている。だが、もう少しまけてくれてもいいだろう!」
「規則で決まっておりまして、それは無理です」
威圧するエルーニに語尾が震え、今にも消え入りそうだ。エルーニの体格もその威圧に一役買っているのだろう。
「そこを何とかするのがそっちの役目だろう!」
無茶苦茶だ。あの人たちは適正価格で買い取ることによって社会の物価を安定させているのを知ったらそんなことは言わなくなるだろうか。
その後もエルーニと職員の問答は続き、最終的にはダンジョンギルドの役員を呼ぶ、と換金所の役員が脅して決着はついたようだった。
俺は蓄声機でそのやり取りが録音されているかを確認してその場を去った。
そしてその後も1週間、エルーニはヒース達と別れたあと同じようにダンジョンに籠り、そして換金していった。




