13話
ヒースのパーティに加入して1週間が経った。その間もエルーニは、パーティでの探索後一人でダンジョンへ籠っている。
未だエルーニの目的が何なのか、分からずにいた。
「結局、何が目的なんだろうな〜」
俺の側ではヒースが陽気にボヤいていた。酒が入っているせいか、声が軽い。
「目的が無いってこともあるかもな。ただ熱心で努力家なのか」
俺はキッチンで皿を洗いながら答える。
「ん〜…………そうは見えないんだよなぁ………」
そう言いながら枝豆を口に運んでいる。
俺は煮え切らない口調に疑問を投げかけた。
「何を根拠に?」
「あいつは普通の人と違う目をしてるんだよ」
「目?」
「そう。なんとなくだが、血走っている気がする」
「なんとなく?」
「なんとなくだ」
「じゃあ大丈夫だな、何とも無さそうだ」
「俺を信じろよ!」
どうでもいい軽口を叩きながら俺はエルーニについて自分なりに考えていた。
が、エルーニの行動を見るにただ努力家なだけではないかと、先程はふざけたように言ったが実は本当にそう思い始めていた。
無言で皿洗いをしているとヒースが席を立つ。
「そろそろ帰るわ。金はここに置いとくからな」
「分かった、じゃあな」
おう、と端的に一言発しヒースは酒場を出ていった。ヒースが居なくなり、酒場には静けさだけが残った。
◆
次の日の夕刻、俺は中間報告のためにアナベルのギルドへ立ち寄った。
大人数でダンジョンへ潜ることにすっかり馴れたのか、この頃パーティというものに抵抗を感じなくなってきた。
その帰り道、西の方角へちょっと進むとサイレントケットのギルドが見える。
パーティに馴れたといえどやはりギルドは別だ。ここに来るたびに得たいのしれない緊張感に包まれる。
いつものように受け付けの女性にアナベルを呼んでもらう。
数分後、アナベルが奥から出てきた。
「今日は、エルーニのこと?」
そう言って俺の目の前に座る。そこで丁度良いタイミングで受け付けの女性が紅茶を運んできた。
いつも思うんだけどこの女性受付と秘書兼ねてんのかな?
そのままぼうっとしているとアナベルは俺の思いに気が付いたのか、洩れるように呟く。
「エミリアは双子よ?」
「え、そうだったのか」
だから受け付けと秘書の人が同じ顔してるのか。
納得して再度じっと見ているとアナベルが口を挟んできた。
「アルク?あんまり女の子をジロジロ見ちゃ駄目よ?」
「あ、いや、そういう訳じゃ……」
そんなに見ていたのだろうか。アナベルはジト目で俺を見つめ、秘書のエミリアさんは鉄面皮のように微動だにせず、表情は伺えない。
そのままアナベルのジト目に狼狽えながら本題へと移る。
「えっと、エルーニについてだけどここ一週間特に変化は見られなかった。パーティでダンジョンに潜ったあと残って一人で狩りを続けているくらいで」
「え?エルーニが一人で狩りをしている?」
俺はそれを聞いて少し逡巡し、答える。
「まぁそうだよな、最下層に一人で潜らせるなんてやっぱ危ないよな」
「違うわよ、それもそうだけどエルーニが残って狩りをしているの?」
「ん?あぁ、そうだけど?」
するとアナベルは口元に手を当てながら続ける。
「エルーニ、私のギルドでは不真面目で有名だったのよ、ダンジョンに潜らずにずっと南の賭場で遊んでばっかりで」
「でもアナベルの側近だったのか。そんなに遊んでいても強かったのか?」
「エルーニには才能があったのよ………冒険者としての、ね」
アナベルは天井を見つめながら言う。そこには哀愁と尊敬とが含まれている気がした。
俺は返す言葉が見つからずそのままでいると更にアナベルが呟いた。
「なんで私のギルドでは不真面目だったんだろうなぁ………私の責任、なのかな」
沈鬱な表情で俯く。
「そんなことは無いだろ、弱いギルドに入って責任感が生まれただけかも分からんし」
「でも………それだとしても、やっぱり責任感を持たせられなかった私に問題があると思う」
どんどん弱気になっていくアナベルに俺は業を煮やし、立ち上がった。
「そんなに一人に執着してたら身体が保たないぞ。ただでさえサイレントケットは団員が多いんだから」
少しキツめの口調になってしまい、マズかったかなと思いつつアナベルを見る。
アナベルは今にも泣きそうな表情でこちらを見上げ、そして無言で頷いた。
これ以上ここにいるとアナベルの泣き顔を見てしまうので俺はすぐに立ち去ろうとアナベルに言う。
「じゃあ、帰るわ。何かあったら報告する」
アナベルはまたも無言で頷いた。
◆
サイレントケットのギルドから外に出ると、冷たい夜風が身を切り裂くように通り過ぎた。俺はそれに立ち向かうように歩きだす。
アナベルに口ではああ言ったが、俺は状況をアナベルへ報告しないほうがいいのではないかと思っていた。
あの精神的に不安定な状況で更に悪い報告などしたら塞ぎ込みかねない。そう思ったのだ。
重い足取りで歩いていると、それを助長するように向かい風が強くなっていった。




