7話
ダンジョンは日が落ちてからでも出入りが活発で、ダンジョンから出てくる人、入っていく人のためのワープのエフェクトが一定の間隔で上がっている。
俺は入り口の近くの石畳の段差に腰掛け、その光景を見ていた。
いや、正しくはその光景の向こう側を見ていたら自然と視界に入ってきた。
俺は先日、とある女性から依頼|(素行調査)を受けたため動き出しているのだが、その女性の旦那の勤め先がダンジョンギルドだったのだ。
ダンジョン入り口の近く、やや北東寄りに堂々とそびえ立つダンジョンギルド。そこでもダンジョンの入り口と同じようにいくつもの部屋の明かりが煌々と点いている。
その光景をぼーっと眺めること約1時間。
待つという行為は素行調査の基本であるが、俺はどうしても慣れない。
この時間に何かできることはないかと頭の中で情報の整理をしながら待っているとギルドのエントランスから一人の男性が出てきた。
目を凝らして見ると、依頼主から借りた写真の風貌にそっくりで、今回の調査対象だと判った。
その男性___マノワ・サティスさんは中肉中背で、少し猫背だった。顔は遠いのでよく分からないが整っているというのは写真を見たから分かる。
その写真を見た時、顔よりも平均身長っていいなぁと思ったのは胸の内に秘めておく。
マノワさんはエントランスから出ると北に向かっていった。その方向はサティスさんの家のある方角だ。
俺は男性と15mほど離れたところで尾行を始めた。
男性は北風に立ち向かうように身体を丸めながら進んで行く。
今日は、このまま帰るのか?
そう思い始めた時、マノワさんは急に進路を変えて細い裏路地へと入っていった。
慌てて俺も見失わないように後をつける。
細い裏路地は両隣が建物なのでいつも暗いのだが、今の時間帯はそれに拍車をかけて暗くさせていた。
前を進むマノワさんも前が見えづらいのか、歩く速度が遅くなっている。
すると男性の手元が光り、辺りを照らした。恐らくリットアップという魔法でも使ったのだろう。通りに入るときに使わなかったのは入ることを周りに見られたくないからだろうか。
そのまま10秒ほど歩くと行き止まりへと差し掛かった。周りには何もなく、ただ目の前に2mほどの壁があるだけだ。
男性はのっぺりと灰色に塗られた壁を見つめたまま立ち止まっている。
まさか、気付かれてここにおびき出したのか?
そう思っていると、影から3人の男の姿が現れた。皆防具を身につけているため、冒険者だと想像がつく。
その男達はマノワさんを取り囲むようにし、何か話しかけている。
俺はそれが聞こえるようにするために魔法を呟いた。
「ラピッドイヤー」
この魔法は、聴覚を鋭敏化させる魔法でいつもなら聞こえない音も拾うことができる。
だがこれが使えるのは静かなところに限られ、騒音が大きいとそれらが拾いたい音の邪魔をしてしまうのだ。
一度実験のためと商店街で使ってみたところ、あまりの騒々しさに頭が割れるほど痛くなり、鼓膜が破れるかと思った。
段々と魔法が効き始め、音がはっきりとしてくる。
「そろそろ__してもらわなくちゃな」
「ま、待ってください、___には__しますから」
「そう言ってもう3ヶ月くらい___だけど?」
だがまだ聞こえにくく、所々音が拾えない。
「まぁいいさ、明日もここで待ってるぜ?」
男達の一人、恐らくリーダーである人がそう言ってこちらへ歩きだしてきた。
俺はそれを事前に察知し、見つからないように路地の入り口へと戻っていき、そのままアルク酒場へと帰っていった。
◆
「さて、今日も行きますか」
定休日である水曜日の夜、昨日と同じ時間に俺はダンジョンへと向かう。
ソフィアの中心部に行く途中、俺はマノワそんの状況について考えていた。
昨日のマノワさんと男達の話から推測すると、マノワさんがあの男達に借金をして、それを延滞させているから脅迫させられている。というのが一番考えられる。
俺は情報屋として高利貸について調べたことがあったが、10日に1割の利子がつくところや、借りた人が女性だった場合、最悪身体で払わせるというところもあった。調べていくうちに苛立ち、気分が悪くなってきて調べるという気が起きないほどだった。
マノワさんも、同じ状況なのだろうか。
だとしたらかなりマズイ。聞いた限りだと3ヶ月は滞納していると聞こえたので、利子はかなりの額になっているはずだ。
そんなことを考えていたらダンジョンについた。
俺は昨日と同じ位置に腰掛け、ダンジョンギルドを眺める。
ギルドがそびえ立つ下では青白いエフェクトが発光しているので、どことなく幻想的な風景に見える。
みんな夜遅くまで頑張るよなぁ、と思いダンジョンから無事に帰還した冒険者を内心褒め称えながら見ていた。
するとその中から一人、見覚えのある人物が出てきた。
マノワさんだ。
ダンジョンから出てきたマノワさんは少し早歩きでスプリトの方へと進んでいく。その顔はどこかホッとしたような、諦めたような複雑な顔をしている。
その光景を見ていると、マノワさんは一目散にスプリトへと走り始めた。
俺はそれを見て慌てて追いかける。
まさか、夜逃げ?
そう思うほどにマノワさんは足が速く、毎日走り込んでいる俺でもついていくのがやっとなくらいだ。
そのままマノワさんはスプリトの商店街まで駆け、ある所で立ち止まった。
そこはモンスターのドロップアイテムなどをお金に変えるところで冒険者にとっては行きつけの所でもある、換金所だった。
マノワさんはそこへ入っていき、数分して出てきた。その手には茶色い麻袋に入った何かを持っている。恐らく換金した際のお金だろう。
するとマノワさんはそれを持って、今度は都市の中心部、ダンジョンへと再び走って戻っていった。
俺はそれを見てまたぜいはぁ言いながら追いかけていく。
◆
ダンジョンの方へと戻っていったマノワさんも疲れたのか、そこからは歩きだした。今度はオビドスの方、サティス家があり、昨日の密会が行われた方角だ。
マノワさんは路地裏の前で立ち止まるとはぁっ、と深呼吸して入っていった。
そのまま昨日のように路地裏の途中まで歩いてリットアップを使い、奥へと進んでいく。
そしてまた壁の所へ行くと3人が影から出てきた。
俺はラピッドイヤーを使い、また話を聞こうとする。
「これでいいだろう?」
「あぁ、十分だな」
「は、やっとかよ。これ以上待たせたらどうしようかと思ったぜ」
昨日より少し魔力をつぎ込んでいるため、今回ははっきり聞こえた。
それに今回は良い情報が手に入った。恐らく、マノワさんの借金の返済が終わったのだ。
その後少し小声で何かを話し、路地裏を出ていこうとする。
俺はその前に路地裏を出て、アルク酒場へと戻っていった。




