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6話

テーブルに湯気が立ち昇らなくなった紅茶の入ったカップが2つ置かれている。

俺はそのカップを手に取り口元へ運ぶ。冷めかけていた紅茶は甘みだけを与えてきた。

俺はそれを顔を顰めつつ一口飲んだあと、テーブルへ戻す。夕陽の差し込む部屋に、コトンと音が響いた。

そして視線を前へと移動させる。

そこには藍色のローブを着た、一人の女性が座っていた。

対面するように座る女性は、長く紅い髪の毛が顔を覆い隠すほど俯いたまま動こうとしなかった。

対する俺も、どう話しかけたものかと身のない考えをして言葉を発さずにいた。

だがこのまま話し掛けないのも精神的に苦痛なので、俺はとりあえず声を掛ける。


「あのですね」「あのっ」


女性も同じことを考えたのか、顔をいきなり上げて意を決するように言い、完全に被ってしまった。


俺も相手も俯き、気まずい空気が部屋中に満ちた。

だが俺はぱっと顔を上げ、めげずに再度声を掛けようとする。相手は恥ずかしくてもう話しかけてこないだろうという予測からだった。


「えっと…」「あ、あの…」


また被った。


「「………お先にどうぞ」」


これで3度目だ。しかも今度は一字一句同じで。


「………気が合いますね」


今度は被らずに相手へと届いた。


「そうですね」


すると女性はふふっと笑い返してきた。

だがその笑顔にもまだ緊張感があった。


俺は続ける。


「それで依頼の件ですが、お受けいたします。情報提供の日時は7日後の、店が開いている時間に、ここに来てください」


そう言うと、女性はほっと安堵した表情ではい、と答えた。







時は討伐戦直後に戻る。


俺は階層主、もといペングインを討伐したあと、その時に得た情報を文字に起こすために急いで家に戻ろうとしていた。


ダンジョンからスプリトへと走り出した時、数秒遅れてダンジョンから人が出てきたのに気がついた。その時はただダンジョンから誰か地上へ帰ってきたんだな、としか思っていなかった。

だから俺に話しかけていることに全く気が付かなかった。


「あ、あの………」


俺は無言で走っていく。


「すみません………」


変わらない速度で。


「あのっ!」


そこで俺に話しかけていることにようやく気づいた。

耳が痛くなるほど大きな声を出され、驚きながら振り返った。

するとそこには憤懣やるたかない表情で俺を睨みつける一人の女性エルフが立っていた。俺を追うために走っていたようで息を切らしている。

藍色のローブを着ていてすぐに魔道士だと分かる。赤色の長髪で、髪先がローブの中に収まっていた。歳は俺と同じくらいかそれよりも上くらいの印象を受ける。

そして背が俺より小さい。160cm弱くらいで俺よりも少し小さいくらいだ。心の中で小さくガッツポーズをする。


背が低いのは重要。超重要。


「………どうかしましたか?」


そんな内心を顔に出さないように極めて平静を装って話しかける。


「た、助けていただいたお礼をと……」

「助けた?いつです?」

「ペングイン討伐の時です」

「ちょっとその呼び名止めてくれます?」


やっぱり気恥ずかしい。今更になって名前付けしたことを後悔し始める。

対して魔道士は俺が名前をつけたことを知らないのか、首を傾げている。

しかしまぁいいかと思ったのか、お構いなしに頭を下げて言った。


「ペングインが突進してきた時に助けていただいてありがとうございます」

「いや、別に大したことしてないしお礼なんて必要ないですよ。それじゃ」


そう言って身体を反転させて走りだす。


「ま、待ってください」

「………まだ何か?」

     ・・・・

「その………お姉さんはお元気ですか?」


俺はその言葉に数秒固まってしまった。

何故この女性が合言葉を知っているのだろうか。

そのことは後で聞くとしてまずは安全な場所を確保しなければならない。誰が聞いてるかも分からないここでは危険すぎる。


「大体の内容はどういったものでしょうか」


すると女性は複雑な顔をした。口をパクパクさせ、言おうか言わまいか迷っているようだ。


俺はそれを見て言う。


「じゃあ、とりあえず付いてきてください」







俺は女性___サティスさんというらしい___を引き連れてアルク酒場まで来た。

来る途中隣の武器屋のおばちゃんに、あらあらまあまあみたいな顔をされた時は飛んでいって弁解しようかと思ったがそれだともっと誤解を招きそうだったのでやめておいた。


俺とサティスさんは店の一角にあるテーブルに相向かいに座り、俺は紅茶を注いでサティスさんへ差し出した。

そしてサティスさんが一口飲んで心が落ち着いてきたところで単刀直入に聞いた。


「それで、ご用件は?」


すると相手はまだ躊躇(ためら)っているのか、まごまごしている。

しかし踏ん切りがついたのか、ぽつりぽつりと話し始めた。


「実は、夫の帰りがこの頃遅くて……」


それを聞いて俺は、あぁ浮気だな、素行調査か、面倒くさいなと考えた。


というか夫いるのかよ。くそぅ。

しかもこんな可愛いエルフさんが奥さんなのに旦那浮気すんなよ、という憤りも沸いてくる。


「なるほど、ではその旦那さんの素行調査を依頼されると?」

「は、はい……」


そして念のため釘を刺しておく。


「もし、貴女の旦那さんが良からぬことをしていても私はありのままの情報を提供します。よろしいですね?」

「は、はい………」


語尾が震え、更に俯きこんでしまった。

あ、拙い。

そう思ったが時すでに遅し。返事をしたあと、ひっくひっくと嗚咽を漏らして泣き出してしまった。

どうやら精神的に大分参っていたようで俺の一言が精神の堤防を決壊させてしまったようだ。


あぁ、どうしよう。

俺は情けなく、オロオロしながら何もせず、サティスさんの目の前に座りこんだまま泣き止むのを待っていた。








「すみません。突然泣き出したりして」


女性が泣き終わり、一段落して女性が無理に明るくしたような声で言った。


「いえ、こちらが浅はかでした。すみません」


その後俺は何を言ったらいいか分からなかった。泣かせてしまったのと話すことが無くなってしまったのだ。

対する女性も泣いてしまったことへの恥ずかしさからなのか、また俯いてしまった。





そしてそこから冒頭のやり取りがなされ、今に至っている。



サティスさんが帰ったあと、 素行調査なんていつぶりだろうと思いながら紅茶のカップを片付けていた。

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