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5話

階層主(ボスモンスター)の部屋は、仄暗い光に包まれていた。少し暗く感じるくらいだ。


不意に部屋の中を甲高い声が謳うように響いた。すると辺りは一気に明るくなり、部屋を最奥まで見渡すことができるようになった。恐らく魔道士パーティ辺りが魔法を使ったのだろう。とにかくこれで戦いやすくなった。

部屋は一辺50mはあろうかと思うような大きさの四角形で、碧色の石畳が一面に敷き詰められている。ぬめりとした印象が俺の脳裏に擬似的な感覚として湧き出てきて、思わず身震いした。


そのとき、ズシン、と。

地が震えるのを感じ取り、すべての冒険者が武器を構えるのと同時にアナベルも指示を出していた。


「総員、戦闘準備」


その言葉にギルドメンバーは身構え、階層主(ボスモンスター)が来るのを待ち構えた。しかし階層主(ボスモンスター)はゆっくりと、冒険者たちの精神力を奪っていくかのように歩を進めてくる。

音は次第に大きくなっていき、近づいてくるのをイヤでも考えさせられた。



部屋の奥から出てきた獣人型のモンスター。体躯は俺の2倍以上あり、頭には湾曲した角が生えている。

階層主(ボスモンスター)は俺達の前で止まり、大剣を手に掲げながら威嚇の咆哮(ハウル)をした。


「グゥオオオオオオオオオ!!!!」

「総員、戦闘開始!」


モンスターの咆哮(ハウル)とアナベルの指揮が決戦の引き金となった。

こちらは綺麗な陣形を組み、階層主(ボスモンスター)と対峙する一方、階層主(ボスモンスター)は無茶苦茶に大剣を振り回し、敵(俺達)との間を空けようとした。


しかしそれを前線にいる盾役のパーティが受け止める。身体をすっぽり覆い隠すような盾と、モンスターの振り回した大剣との間に、盛大に火花が散った。


そしてその隙をついてアナベルとヒース、それに俺が突撃していく。

アナベルは長い刀身を活かして右の脇、ヒースは左の胴、俺は立ち上がれなくなるかと思い右足の踵を斬りつける。


「ガアッ!」


すると多少のダメージは通ったのか、モンスターが一瞬悲鳴を上げた。

そして距離を取ろうとモンスターがバックステップをする。


見かけと違い、意外と敏捷性がある。そしてかかとを斬っても動きは変わらず、か。


そう頭の中にメモをしておく。戦闘中にも覚えておかなければならないし、なにより階層主(ボスモンスター)の情報だ。

情報屋としてボスの情報を把握し、売り捌くために覚えておかなければ。

しかしそのせいで、俺は相手の攻撃を防御、回避、そして自分から攻撃をしながら仕事をしなければならないことになるのだが。


いつもながら辛いなぁ………


しかも今回はいつもと違ってパーティメンバーがいる。無理に気を遣って相手の攻撃を喰らうなどということは避けたいところだ。


攻撃を当てたあと、反撃を喰らうのを恐れモンスターへ突っ込んでいくことはやめた。その代わりに前に出た盾役パーティが階層主(ボスモンスター)の攻撃を盾で受ける。

モンスターが盾へと攻撃する隙にまた斬りかかる。今度は胸を一閃した。

だがモンスターの行動が遅くなることはなかった。その後も攻撃を各所に当てていくが行動遅延の引き金、又は弱点となるところはなかなか見つからない。


このままでは敵が死んでしまう。

本来なら喜ぶべきことなのだが、俺はまだ手放しに喜ぶことは出来ない。

俺がそう思うのには訳があった。

弱点の場所を情報として売ると値が数倍に跳ね上がるのだ。

何故なら冒険者からすれば弱点の情報は喉から手が出るほど欲しい情報だからだ。

その理由は、冒険者の死ぬタイミングで一番多いのがモンスターとの最初のエンカウントであり、何を攻撃してくるか分からない、攻撃が通りやすいところはどこかなどのそれらの情報を一切知らないので、分が悪いからだ。

もし魔法が効かないモンスターがいてそこに魔道士が突っ込んでいったら死ぬ確率が格段に上がる、ということを防ぎたいのは誰しもが思うだろう。

つまり、戦う前から情報を仕入れておけば戦いやすくなり、死ぬ可能性が減少する。その情報が、相手にとって悪影響を及ぼすのなら尚更だ。

だから俺は弱点を確認しているのだが____


「どこだ……」


未だに見つけられずにいた。戦闘が始まってから既に40分が経過している。

ボスの行動が短絡的に、そして動きがさらに俊敏になっており、限界が近いことを暗に知らせていた。


あと攻めていないところは、頭部くらいか。だが階層主(ボスモンスター)の頭部はジャンプしても届かない高さにあり、近距離武器では厳しいものがある。


弱点かどうかは別としてだが。




「グアアアアアアア!!!!」


さらに少し経ち、攻撃を当て続けたら、階層主(ボスモンスター)の行動が著しく変化した。


階層主(ボスモンスター)は、おもむろに武器を後ろに放り投げ、四つん這いの格好になった。

獣人、とりわけミノタウロスによく見かけられる突進攻撃だ。あれを喰らえばひとたまりもなく、一撃当たればそのまま死亡、ということもある。


階層主(ボスモンスター)の行動の変化にいち早く気づいたアナベルは周りに指示を出した。


階層主(ボスモンスター)の進行方向に道を作って!盾パーティも逃げるように!」


その言葉に周りのメンバーは一瞬間を開けて、左右に別れる。そこに階層主(ボスモンスター)が突っ込んでいった。

危機一髪逃れたメンバーに安堵の表情が浮かぶ。しかしそれを階層主(ボスモンスター)が許さなかった。

突っ込んだ階層主(ボスモンスター)がいきなり進路を変更し、ひとつのパーティへとまた突っ込んでいったのだ。

対象となったのは魔道士パーティ。

後衛に配置されていたために階層主(ボスモンスター)の突進によって近距離まで近づいてしまったのだ。

さらに運の悪いことに、魔道士パーティは軽装で、なおかつ防御する盾などを持ち合わせていなかった。

そこに階層主(ボスモンスター)が突っ込んでいけば___簡単に想像はできる。

最悪な想像だが。


ロメリアもそれを理解しているのか、顔を歪めながら叫んだ。


「盾パーティ、守りなさい!」


その言葉に盾パーティの一員と思われる人物が悲壮感漂う顔で叫び返す。


「無理です!今からではとても間に合いません!」

「間に合わせなさい!」


アナベルが必死の形相で命令する。

だがその表情には冷静さは失われていた。



階層主(ボスモンスター)は魔道士パーティへと辿り着こうかとしていた。

だが、そこへ俺が階層主(ボスモンスター)の進路を変更させようと頭に生えている角を斬りつける。

すると威力が充分だったらしく、頭が進行方向から逸れ、突進も方向が変わった。


すると、周りにも余裕が生まれたのか隊形を組み直し始めた。戦闘が始まった時のような階層主(ボスモンスター)を囲うような隊形へと変わっていく。


俺はその間にアナベルとヒースの所へ合流する。するとアナベルが隣に立ち、階層主(ボスモンスター)へ顔を向けたまま話しかけてきた。


「アルク、あの行為は危険よ。あそこは盾パーティに任せるべきよ」


その言葉に俺は同じように階層主(ボスモンスター)を見ながら諭すように答える。


「アナベルは盾パーティに頼りすぎなんだよ。盾パーティにも限界があるし、何よりあの場面ではどう頑張っても間に合わなかったし何より___」


さらに俺は続ける。隣に立つアナベルからは思わず身を引いてしまうほどの緊張感があった。


「攻撃は最大の防御、って言うだろ?」


俺ははにかみながら言う。それにアナベルは頭を抱えながら呟いた。


「これだからアルクは一人にしたくなかったのよ………」

「まぁいいだろ。俺もあのパーティも無事なんだし」


そこへヒースが後ろから気まずそうに、だが嬉しそうに声を掛けてきた。


「イチャついてるとこ悪いがそろそろ俺達も行くぞ〜?ギルド長と助っ人が行かなきゃ示しがつかないぞ?」

「あぁ、悪い。今から行くよ。あとヒース………俺達はイチャついてなんかないからな」







俺達が前線につく頃には既に決着がつこうとしていた。だが階層主(ボスモンスター)は、自身のプライドからか、必死にもがき抵抗していた。

俺はアナベルへと声を掛ける。


「俺とヒースがモンスターの攻撃を受け止めるからアナベルはとどめを刺してくれ」


その言葉にアナベルは無言で頷く。ヒースの顔は後ろに立っていたから見ていない。大体どんな顔をしているかは想像がつくが。

ちなみに何故アナベルにとどめを任せたかというと、そっちの方が後味が良いからだ。仮に俺やヒースがとどめを刺してしまうと、ボスから出るドロップアイテムは暗黙の了解によりとどめを刺した人のものとなるため、俺やヒースのものとなってしまう。ボスのドロップアイテムは高価であるため、それを手に入れて稼ぐギルドも少なくない。そんなものを俺が取ってしまうと、 アナベルのギルドに反感を買う可能性がある。だからアナベルがとどめを刺すのが得策なのだ。


ボス討伐の帰りに大勢に囲まれて殴られる、なんてことはされたくない。





「よし、行くぞ!」


俺の掛け声にアナベルとヒースも一緒に駆けていく。

部屋の中央にいる階層主(ボスモンスター)は危険を察知したのか、対処していたパーティを大剣の一振りで蹴散らし、こちらへ身体を向ける。

そして大剣を頭上へと振りかぶり、俺達へ振り下ろしてくる。


「ヒース!」

「分かってるよ!」


蹴散らされた奴らに歯噛みしながら俺とヒースは大剣の下へと潜り込み、受け止める。ズンッ、という重みを身体で感じる。金属特有の甲高い摩擦音がこだまする。

そして俺とヒースはタイミングを合わして大剣を押し返した。

ギィンッ!と金属の擦れ合うイヤな音を出して階層主(ボスモンスター)は身体を仰け反らせる。そこに俺の横から摺り出てきたアナベルが下腹部へと突きを入れる。


「ハァアアアアアア!!!!」


気合とともに打ち込まれた突きは階層主(ボスモンスター)の息の根を止めるには十分だったらしく、階層主(ボスモンスター)は身体を仰け反らせたまま硬直し、数秒後に後ろへと倒れた。




階層主(ボスモンスター)が倒れ、一瞬の静寂のあと、部屋を揺るがすほどの歓声が辺り一体に轟いた。あるものは武器を放り投げて喜び、あるものは抱き合っている。俺はそんな皆の感情を爆発させた様子を尻目に座り込んで考え事をしていた。


相手は自分が不利になると武器を放り投げ、突進をしてくる。そして弱点は頭の角。近接武器は突進の時にしかチャンスはなくリスクが高いため、遠距離か魔法を使えるメンバーを連れて行くことが攻略のコツ。


俺は忘れないように32層の階層主(ボスモンスター)の情報を頭に入れておく。

すると部屋の中心部にいるアナベルが皆に話しかけた。


「さて、皆生き残ったし、恒例のアレ行くよ!」


その声に俺以外の皆がガヤガヤと騒ぎ立てた。中には拍手をしている人もいる。


恒例のアレ、とは階層主(ボスモンスター)の名前付けだ。いつまでも〜層の階層主(ボスモンスター)、では味気がないという声から始まっていて、第10層辺りから始まっているらしい。

ちなみにそれまでの1〜9層のモンスターはダンジョン統括ギルドのマスケティア家が話し合って決めたらしいが、やはりボスを討伐したギルドが決めていいという現ギルドマスターであるマスケティア・サウタージュさんの粋な計らいによりこうなった。

それにより、不思議な名前が付いているモンスターがいるのはご一興だ。

モンスターは不本意だと思うが。


アナベルの掛け声にギルドメンバーはどんどんと名前を上げていく。

英雄の名前を言う奴や、獣人の中でも有名な冒険者の名前を言ってみたり、中には『猛々しい雄牛(ファースブル)』とご丁寧にルビも書いてある大きい紙を取り出して見せていた。


なんでそんなもの持ってきていたんだ。


しかしその努力も虚しく、アナベルは一瞥しただけであっさりスルーした。




いろいろな名前が出てくるがなかなか決めてに欠けるようで未だに名前をつけられずにいた。

困りかねたのか、アナベルは俺へ助けを求めに来た。


「アルク、なんかない?」

「ない」

「即答はやめて欲しかったなぁ……」


本当はあるけど答えたくないのだ。

俺がつけた名前を自分で情報として売り出すということを想像すると気恥ずかしくなる。

でもアナベルも困ってるみたいだし助け舟を出すとするか。俺が言えばもっと活発に周りが言い始めるだろうし。

そう考え、俺はアナベルへ提案した。


「もうペングインでいいだろ」


するとアナベルはこちらへと向き直し、言った。


「それだ」


………嘘だろ。



という訳で32層の階層主(ボスモンスター)はペングインに決まった。




………ペングインってどこかの国の言語で『肥満』って意味なのは隠しておこう。

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