4話
正午過ぎ、少し早すぎたかな、と思いながらソフィアの中央のアークスに行ってみると、そこには既に人だかりができていた。
幼い外見のドワーフ、鋭い耳に色白なエルフ、更にあまり見かけない種族間のハーフも目に入った。
男女比は9:1くらいだろうか、圧倒的に男の方が多い。
その中には集まった人達に指示を飛ばすアナベルの姿もあった。
昨日のようなオメデタイ装いではなく無骨な軽装のアーマーを身に着けていた。
銀のプレートにところどころ水色に染色されている。
俺はそのアナベルに近づいていく。
「アナベル」
「あ、アルク。来たの」
早いわね、と俺に近づいてくる。その後ろにはギルドメンバーと思しき人達が数人こちらを見ていた。体格がよく前線の盾役となりそうな雰囲気だった。
その中の一人は恐ろしい形相でこちらを睨みつけてきた。
………俺何かしたのかな。
アナベルのギルドメンバーから放たれる無言の圧力に怯みつつもアナベルに話しかける。
「そういうそっちも既に来てるだろ」
「私はギルド長だからね。早く来ないと示しがつかないから」
「俺的にはゆったりと来たほうが雰囲気出ると思うけど」
アナベルは少し真面目すぎるところがある。困っている人に手を差し伸べなきゃ気が済まないような性格なのだ。
アナベルが口を膨らませながら言う。
「いいの!これは私のやり方なんだから」
「いや、まぁそれでいいと思うけどさ……」
アナベルの機嫌を損なわせてしまい、アナベルの後ろにいるギルドメンバーに再度睨まれているところで肩にばしん、といきなり強い衝撃を感じた。
「いようアルク!来てやったぞ」
「…………」
「おい、無反応かよ!言っとくけど何気ない行為が一番傷つくんだぞ!」
ガヤガヤと叫ぶ男はヒースだ。
「……なんでここにいるんだ?」
アナベルとヒースはギルドが違う。こんなところにヒースが来たらあのアナベルの後ろにいるマッチョなギルドメンバーに袋叩きにされる危険がある。
それはそれで構わないが。
「ヒースさんは私が助っ人を依頼したのよ」
「へ?何のために?」
「アルクの為よ」
「………いまいちよく分からないんだが」
はぁ、とアナベルはため息を吐き俺に説明してくる。
「アルクは今までボス攻略はパーティメンバーがいなくて一人だったでしょ?それだと危険だからアルクと面識のある人にパーティメンバーになってもらうように頼んだのよ」
そういうこった、とヒースは胸を張る。
「ちなみに私もアルクとパーティ組んで一緒にボス討伐するから」
その言葉に近くにいたギルドメンバーが動揺し始めた。
その中の一人、俺を恐ろしい形相で睨みつけてきた奴がアナベルへ意見を言う。
「ア、アナベルさん。あなたがいないと私どもは主力がいなくなって壊滅状態に陥ってしまいます。それにレイドパーティ全体へのご指示はどうなさるおつもりですか」
その言葉にアナベルは淡々としていた。
「あなたのパーティにはもう一人腕が立つ人を呼んだわ。レイドパーティ全体の指示は一つのパーティにいても届くでしょ」
「で、ですが………」
アナベルの反論にマッチョ男は諦めが悪そうに言葉を発する。
それをアナベルが打ち消した。
「とにかく、これで行くわ。あなた達が私の指示無しでどれだけやるかも見てみたいし」
するとマッチョ男はようやく諦めたのかすごすごとパーティの元へと戻っていった。
「みんな!そろそろボス討伐に行くよ!」
その声でみんなそれぞれ自分の得物を手に取り、鬨の声を一斉に上げながら立ち上がる。少し離れた位置から見ていた俺はその光景がなんとも言えず、格好いいと思った。
◆
32階層の最奥部は、不気味な静けさと、ひんやりとした空気が漂っていた。
ここまで来るのにモンスターのエンカウントは、これから始まる決戦を後押しするかのように、全くと言っていいほど無かった。
階層主の部屋の前に立つ人々は、一切口を開いていない。しかし皆がこれから相まみえる相手との決戦を待ち遠しいと感じていると思わせる雰囲気があった。
代わりに武器が擦れ合う、カチャカチャという音がダンジョンに響いていた。そしてそれは、武器がこれからの交戦を待ちわびるかの様な固い意志を持っていると錯覚させる。
その静けさを破り、麗美な声がダンジョンに響いた。
「これから32層、ボスモンスターの討伐を行う。私から言えることはこれだけ____」
と、アナベルは深呼吸をして一拍置く。
「全員、生きて帰ること」
その言葉に集まったメンバーはそれぞれ思い思い咆哮する。
それに続くようにアナベルが重厚な扉を開いた。




