005 酒好き天使様
ホテルに入ったシオンとヘーラーは、それなりに広い……ただしタバコの匂いが広がる部屋にたどり着く。さすがは安いホテルといったところか。
「寝られれば、それで良いんだが」
シオンはベッドに寝転がる。いきなりこの世界へやってきて、疲れも溜まっているのは間違いない。彼、いや彼女は目を閉じ、これからの行動について考える。
(カネがなければ、なにもできない。タバコを一箱買うことすらできない。手持ちには、安っぽいハンドガンがひとつ。無茶振りにも、程というものがあるだろうに)
死んでしまったのだから、最初からリスタートするのは仕方ない。そんなことくらい分かっている。分かっているが、この少女の姿でまともに仲間を集められるとも思えない。
「シオンさん、お酒飲んで良いですか?」
思慮を巡らせるシオンに、ヘーラーが頓珍漢なことを言い出す。彼女は冷蔵庫からビールの瓶を取り出し、今まさに飲もうとしていた。
「ダメだ、馬鹿。おれだって酒飲みてェんだよ」
「でも、今のシオンさんは金髪翠眼の少女ですよね? なら、ジュースだけで我慢すべきです」
「死ね」
だいたい、卑しくも天使を自称するヤツが酒など飲んで良いものなのか。馬鹿馬鹿しい。
とはいえ、ヘーラーはアルコールの禁断症状を起こしているようだ。
「はぁ。好きにしろよ。責任は取らないぞ」
「やったー!! やはり瓶ビールに限りますよねッ!!」
ヘーラーは、瓶を手刀で開けてそれを一気飲みし始めた。脳みそがアルコールで構成されているのか? と言いたくなるが、もう相手にするのも面倒臭い。
「うぃー……。やはり効きますねぇ」
「あぁ、そうかよ。……つか、ベッドひとつしかないんだな」
「大丈夫ですよ! 私がシオンさんを抱きしめて寝ますから!!」
「声を潜めろ、と言っているだろうが。キーキー騒ぎやがって」
「お酒を飲んだら、声だって大きくなりますよ!! さぁ、私の胸に飛び込んでくるのです!!」
抱きつこうと向かってきたヘーラーにアッパーを食らわせ、彼女が気絶したのを確認し、シオンは気だるそうにベッドに座る。
「笑えねェ冗談だよ、全く」
ヘーラーが、気持ち良さそうに気絶する中、シオンは薄いホテルの部屋の外から、車が停まる音を察知する。
「……〝パープルズ〟って連中か?」
まぁ、追跡されていてもおかしくはない。シオンは銃を持ち、一旦ホテルから出てみる。
外には、4台ほどのベンツが停まっていた。車から出てきた連中は、アサルトライフルに防弾チョッキを羽織り、まさに臨戦態勢といった感じだ。
「死にに来るとァ、良い度胸しているねェ……」
拳銃の弾数は8発。セダンから降りてきたのは、総じて12人。そもそも弾丸が足りない。
ただ、こちらには異能力がある。〝天空の死神〟という仰々しい名前の、異能力が。
そうして、ホテル前でシオンが突っ立っていると、
「おい、クソガキ。テメェ良くも、ふたりも病院送りにしやがったな」
「病院送りにされるほうが悪いだろ。クソガキ相手にさ」
「それもそうか」リーダー格の男は不気味な笑みを見せる。「ま、報復をしねェわけにもいかない。悪りィけど、ここで死んでくれねェか?」
そう言い切った直後、
弾丸が、シオンの頬を掠めた。シュー……という銃弾の音とともに。
「容赦ないねェ」
「威嚇射撃ってヤツだ。さて、オメェら。蜂の巣にしてやれ」
シオンは、深く息を吐く。
すると、
その金髪の少女は、クレーンに吊られるかのごとく空を舞う。
「分かった、分かった。〝私〟はここにいるから、当てられるものなら当ててみろ」
「あぁ、そうさせてもらうぞ」
リーダー格の男は、シオンに向けて指を指す。
そのときには、銃弾の雨あられがシオンの身体に直撃した。
「そりゃあ、無防備に空飛んでいりゃ喰らうか」
けれど、シオンは動じない。彼女は続ける。
「ただ、肩こりを感じるような年齢でもないんだ。さぁーて、ご近所迷惑は良くないことだよな?」




