004 〝ヘーラーお姉ちゃん〟
「つ、翼ッ!?」
チンピラのひとりが叫ぶ。しかし、シオンは気にする素振りも見せず、その翼を腕でも動かすように叫んだチンピラへ当てる。
すると、
バコンッ!! という破裂音とともに、チンピラはその場にへたり込む。血が飛び散り、うめき声をあげる。
「クソッ! このガキ、魔術師か!?」
「やべェ!! 逃げンぞ!!」
背中を見せた連中など、放っておいて良いだろう。シオンはフーッと息を吐き、翼を引っ込める。
「し、シオンさん?」
「なんだ?」
「貴方、完全に悪事に使っていましたよねッ!?」
「正当防衛だろう」
「し、しかし──」
「おっ、拳銃があるな。とりあえず、コイツを使うか」
呻くチンピラから拳銃を抜き取り、少女の手にはやや大きい代物をベルトの間に隠す。
「さて、寝床を探すか」
呼吸をするように、チンピラたちを痛めつけたシオンは、行く宛もなく夜の摩天楼に向かっていくのだった。
*
チンピラから奪った財布には、10メニー札が7枚。70メニーの価値は分からないが、自販機の値段を見る限り、1メニーでジュースが一本買える。新聞は3メニー。タバコは10メニー。となれば、安いホテルであれば泊まれるだろう。
「しかし、この姿で泊まらせてくれるホテルがあるものか」
普通に考えれば、今のシオンの見た目なら親がいると思われる。なので、せいぜい家出少女として保護されるのがオチだ。ただ、シオンに親はいない。となれば……。
「おい、ヘーラー」
「な、なんでしょうか?」
「オマエを姉代わりにして、ホテルへ泊まるぞ」
「仕方ないですね……。でもひとつだけ」ヘーラーは、底意地悪い笑みを見せる。「姉というのなら、私のことを〝ヘーラーお姉ちゃん〟と呼んでください」
「気持ち悪りィな」
「仕方ないでしょう!! 金髪翠眼の女の子からお姉ちゃん、なんて言われたら、私妊娠するくらい嬉しいんですから!!」
「いよいよ気色悪いぞ。まぁ良いや。減るものでもない」シオンはヘーラーに上目遣いする。「ヘーラーお姉ちゃん、お願い」
「……シオンちゃぁぁぁぁん!!」
抱きつかれそうになったので、シオンは彼女の包容を避ける。壁に激突したヘーラーは、すすり泣きながら、
「なんでこんなひどいことするんですか!?」
と逆ギレしてくる始末だった。
「うるせェよ。抱きつかれたくないんだ」
「ひ、ひどい……」
「ひどいのは、おれをこんな姿にしやがったオマエの脳髄だろ」
「うー……」
「ともかく、近くに安いホテルがある。早くカネ持って空いているか聞いてこい」
「はいぃ……」
非常に不服そうなヘーラーだが、誰が悪いのかといえば彼女自身なので、同情する気にもなれない。
ヘーラーが空き室確認をしている中、シオンは夜の街を見上げていた。
「まさに計画都市だな……」
建ち並ぶ摩天楼、歴史的建造物がなさそうな街並み、飛び交う車とバイク、定期的に聞こえる発砲音。あまり治安の良い街とはいえない。
「……あの銀行、襲いやすそうだな」
道路が目の前にあり、警備もさほど多くなさそうな小さい銀行を見つける。夜なので閉まっているが、最初の強盗にはお誂え向きだと感じた。
といっても、強盗にはそれなりの人員がいる。ガンマンにドライバー、ハッカー辺りは必要だろう。また、この世界には魔術があるらしいので、それに対する対策も練らなければならない。
そうやって銀行を眺めていると、
「シオンさん、ホテル空いているそうです~」
ヘーラーが戻ってきた。先ほどまで寝ていたため眠たくないが、落ち着ける場所は必要だ。シオンは、ヘーラーとともにホテルへ入っていくのだった。
(ま、近いうちに狼煙を上げるか……)
結局、強盗の世界でしか生きられないのがシオンという人間である。それ以外に、稼ぐ方法を知らないのだから。




