002 そして金髪翠眼少女へ
シオンは、真っ暗な街で目を覚ました。街灯がシオンを照らし、すぐ近くには摩天楼が建ち並んでいる。空気は不気味なほどに美味しく、空には飛行船が飛んでいた。
「ふーむ……」
起き上がり、ベンチに寝転がっていたのにも関わらず、身体が全く痛くないことに違和感を感じる。これが、ヘーラーの言っていた〝異能力〟? まぁ、痛いよりは俄然マシだ。
「とりあえず、タバコでも買いに行くか」
地図もなければスマホもない。シオンは、自分の足で、店のありそうな場所まで向かっていくしかなかった。
「つか、声が甲高いな。なんでだろうか」
ボツボツと呟けば、自分の声が高いことを認めざるを得ない。不思議に思いつつ、シオンは夜の街を歩いていく。
それから10分くらい歩き、ようやく売店を見つけた。が、シオンのデニムのポケットには1ドルも入っていない。となれば、情報収集のために新聞でも立ち読みしようと、シオンは売店に近づく。
すると、
「よォ、嬢ちゃん。おれとイイことしね?」
「は?」
「100メニー払うからさ。ちょっと、しゃぶってくれれば良いんだよ」
「はぁ」
シオンは、脊髄反射気味に、紫色のバンダナを巻いた男の股間を蹴る。
「ぐッ!?」
へたり込む男の顔を思い切り蹴って、気絶したのを確認し、シオンは男から財布を抜き取る。
「なに考えているんだか……」
とはいえ、カネは手に入った。あからさまに怪訝そうな表情の売店の店員に近づき、シオンは〝メニー〟と書かれた札を1枚取り出す。
「新聞と……そこのタバコください」
店員はなおも不思議そうな表情で、シオンへ告げる。
「悪いけど、12歳くらいの女の子にタバコは売れないな。新聞なら売っても良いけどさ」
「は?」
「この〝アンゲルス連邦共和国〟じゃ、20歳未満の喫煙は禁止されてるからね。というか、早く帰ったほうが良いよ。〝パープルズ〟の末端に金的食らわせちゃったんだからさ」
「はぁ」
仕方ないので、新聞だけを受け取る。シオンは首をかしげながら、英語の新聞をパラパラと読む。
「週末発砲事件が、10年ぶりにゼロ。大統領選挙でサラトガ候補が優勢。合衆国との連携を強めていく方針……うーん」
『アンゲルス・タイム』という新聞で、あらかたの情報を得るも、シオンの頭には疑問符ばかりだった。
「ま、並行世界といったところなのかねェ……」
そして気になるのは、先ほどの不良と店員の態度だ。彼らは、シオンを〝嬢ちゃん〟や〝女の子〟と呼んだ。これではまるで、シオンが少女になってしまった、と言わんばかりである。
「鏡でも見れば、嫌でも分かるか」
シオンは、近くにある公衆トイレに入る。男性用のトイレに入り、シオンは顔を確認する。
そうすれば、
「……あァ?」
白髪交じりの黒髪オールバックも、筋肉隆々の身体も、そこにはない。あるのは、金髪に染まった女性らしい編み込みロングヘアと、縮こまった身長、可愛らしい顔つきだった──。
「クソッ、悪い夢でも見ているのか?」
顔をブンブン振り、シオンは意気消沈しながらトイレから出てくる。
そこには、ヘーラーがいた。
「シオンさん、貴方は生まれついてのモンスターです。なので、少女の姿になってもらいました──」
ヘーラーが言い切る前に、シオンは彼女のみぞおちを殴る。
「うぐッ!?」
「おい……」今ひとつドスのない低い声だった。「話が飛躍し過ぎだろ。テメェ、一回死んでみるか?」
「て、天使は人間では殺せません……ッ!!」
「あぁ、そうかよ……」
シオンは、深い溜め息をつく。なにが悲しくて、〝甲高い声〟を持つ存在にならなくてはならないのか。シオンがもっとも嫌いな声が、シオンの声帯から出てくるという拷問。これでは、〝全米最重要指名手配犯〟の貫禄も台無しだ。




