001 全米最重要指名手配犯の死
「あーあ。ついに死んじまった。リザルト画面は見られるのかね」
かつて、世界を震撼させた強盗犯がいた。彼はゲーム感覚で盗みを働き、ついには全米最重要指名手配犯に成り上がった。
しかし、栄光は長く続かない。FBI史上最大の作戦によって、彼は射殺される。35年目の誕生日の話であった。
「つか、ここはどこだ?」
彼についての情報は多くない。日系人。通名は〝シオン・タカハシ〟で、白髪交じりのオールバックとアスリート並みに鍛えられた身体が特徴的だが、それ以外は普遍的な中年男性といったところか。
そんなシオンは、死体安置所のごとく静まり返った場所にいた。といっても、薬品の匂いはしない。むしろアロマの匂いが広がっている。
シオンは近くにあった机の上に座り、ボーッと足を動かしていた。
すると、
「ヒトの子よ。貴方は罪を犯しすぎました」
女の声が背後から聞こえる。シオンは振り返り、ベルトの間から銃を取り出そうとするも、そこに銃があるわけもない。職業病というヤツだろう。
振り返った先には、目が痛くなるほど明るいピンク髪の女がいた。目は碧く澄んでおり、どことなく不機嫌そうな表情である。
「奪い、殺し、騙し、操り……そんな者の輪廻転生を司る身にもなってほしいです」
「ハッ、おれが輪廻転生? 面白い冗談を言うねェ。また暴れるだけだぞ?」
「貴方は〝一周目〟ですので、転生しなくてはならないのです」
「へェ……」シオンは冷静な態度を崩さない。「あんなに好き放題してきたのに、一周目だからといって転生させるとは。お役所仕事じゃあるめェし」
「反省の色が、全く見えませんが?」
「反省している暇があるのなら、前へ進むしかないだろ。人間は前に進むしかない。どんな未来が待っていようと、な」
「……哀れになるくらい、自己中心的ですね」
「哀れなのは、ピンク髪のアンタだろ。あれか? 頭ン中はピンク色ですって言いてェの?」
「ぴ、ピンク色じゃないですッ!」
「図星かよ……」
打って変わって、シオンは怪訝な面持ちになる。
「まぁ良いや。輪廻転生するんだろ? 退屈はヒトを殺す。するのなら、さっさと決めてくれ」
「ま、まぁ良いや? 私を侮辱して、まぁ良いや?」
「侮辱していねェよ。ほとんど自爆みてェなもんじゃねェか」
「ひ、ひどい。ひどいですッ!!」
シオンは机の上から立ち上がり、指をパキパキ鳴らす。
そして、ピンク髪の女へと近づき、拳が届く距離で足を止める。
「な、なんですか?」
シオンは、ピンク髪の胸ぐらをつかみ、至近距離で目を合わせる。
「ピーピー騒ぐな。おれは、女の甲高けェ声が大嫌いなんだよ」
ピンク髪の女は、シオンの目つきに圧されたようで、目に涙を溜め始める。
「あ、あぁ……」
シオンは舌打ちし、ピンク髪の女を押して倒させる。
「ッたく……これじゃあ、おれが悪人じゃねェかよ」
そうボヤき、シオンは再び机の上に座る。
「で? オマエがおれを輪廻転生させるの?」
「は、はい」
「名前は?」
「ヘーラーです……。人間換算で5年目の駆け出しですけれど、天界試験にもしっかり受かっていますし──」
「天界試験とやらがなんなのか知らんが、人間ごときに圧される天使様なんているんだな」
「……そうやって私をイジメて楽しいですか?」
「楽しくねェよ。甲高けェ声は嫌いだが、いちいち女をいたぶる趣味はねェ」
「な、なら──」
「おい」
「は、はい?」
「言い訳している暇があるのなら、成すべきことをしろ。あまり、おれを怒らせるんじゃねェ」
尻もちをついていたヘーラーは、涙を白衣で拭き取り、コクリと頷く。
「よろしい」
シオンは、落ち着いた声色でそう言う。
「さて、やるべきことはひとつだけ。おれを輪廻転生させることだな」
「……自信満々ですね。異能力も決まっていないのに」
「異能力? まぁ、開けてからのお楽しみだな」シオンは力強く宣言する。「さぁ、やってやろうか。第二の人生」




