ep.6 不思議な人
「ただいまー」
もちろん、お母さんはいない。
今日は夜勤だから適当に食べて。
そう言われていたのを、思い出した。
「夕ご飯は……いいや。いざとなったらカップ麺食べればいいし」
階段を上がる音がする。
自分しかいないから、どんなに音を立てても許される。
そんな時間が、私は大好きだった、
『みんないる〜?私20時からやるわ』
『22時半頃から。』
『僕は20時半かな』
すぐに既読数と返信が増える。
『了解、やり始める時呼んで』
そう打った後、キーボードから手を話して、椅子から立ち上がる。
「さ、お風呂入るか〜」
三日月ではない月が輝く。
今日は何の月なのか。
少しだけ興味が湧いたので、空を眺めるのをやめてスマホで検索する。
更待月、と出た。
ふけまちづきと読むらしい。
「あー、退屈。けど20時からって言っちゃったからな」
お風呂はまだ、沸かない。
ひとりのために水道代を大量に使ってしまうのはもったいない気もするが、それはいいらしい。
お母さんは、不思議だ。
寝ろといいつつお母さんも寝ないし、普段は節電やら節水やらと言うくせに毎日私がお風呂に入るのは咎めない。
スマホが鳴る。
メッセージ。送信者は、お母さん。
見るまでもない。
そう思いつつ、いつも既読をつけてしまう私が居る。
顔認証でロックを外す。
『早く寝なさいね』
やはり、いつもどおりのメッセージ。
『お風呂入ってないから、入ってから寝るね』
昨日とあまり変わらないメッセージ。
送信音が鳴る。
携帯は、もうしばらく見たくない。
そう、思ってしまった。
「お風呂入るかぁ。あと歯磨きもしなきゃ」
その声が切れると同時に、一階へと降りる足音が響いた。




