ep.5 仮想世界
「早めに寝なさいよ」
そう、お母さんが言った。
お母さんだって、決して早くは寝ていないはず。
それでもいいのは、大人だからか、それとも不規則な仕事だからか。
「はあい」
もちろん、守る気なんてない。
お母さんの言いつけよりも、大切にしたいものがあるから。
『みんな、いる?』
『月先輩はまだ。僕と夜半はいるよ』
無意識のうちにつけたヘッドフォン。
そこからゲーム音が、流れ出す。
「やっほ〜」
「ごめんユリ、次からでいいか?」
星……いや、セイの声がする。
「セイ、左」
「了解」
短すぎるほどに短い会話。
それで、簡単に通じてしまう。
彼らが長く話しているのを、聞いたことがない、と思ってしまうくらいに。
それで通じてしまう彼らが、少しだけ羨ましい。
「あ、やられた」
「僕も。……ユリ、来て」
セイに話したい、相談したいという気持ちと、お母さんに叱られたくない、という気持ちが入り混じる。
「わかった」
結局、それしか言えなかった。
「夜半くん、右カバーお願い」
「了解」
どこかに、今日は反応が来た、とほっとする私がいた。
敵が死ぬ音がする。
もちろん、仮想世界での命。
数十分で復活できるような、そんな軽いもの。
「ごめん。やられたから助けに来て」
どちらとも、何も答えない。
そういえば、ふたりともあまり話す方ではなかったな、なんて思った。
いつもなら、師匠がいる時間だったからか、その静かさを違和感に感じてしまう。
「ユリ、今日ミス多いな。大丈夫か?無理せず、寝たほうがいいぞ」
「ごめん。ほんと疲れてるみたいだからもう今日は寝るね。おやすみ」
そう言って、退出ボタンをクリックする。
『おやすみなさい』
その一言を送信した後、私はパソコンの電源を落とした。
いつも通りの適当さ
by眠たいです。計画性がない人




