第57話
アズラーイールに会った時の事を、リリスはおかしそうに話し終えた。
「彼って、あまりにもマイペース過ぎるでしょ? だからこっちもついイライラしちゃってね。彼に悪い事しちゃったかな?」
「ふふっ、でもね、そのマイペースさが死者達の心を癒やしているのも本当よ。彼にしか出来ないと思うわ」
ウリエルは美味しそうにハーブティーを飲みながら、アズラーイールの顔を思い浮かべ微笑んだ。
「そうね……。なんかね、彼の事ちょっと可愛いかも、って思っちゃったんだけど」
「おっ? おお~!」
ウリエルは意味ありげにニヤニヤと、リリスの顔を覗き込んだ。
「ちょ、ちょっとやめてよ! あたしはね、男なんて興味無いんだからね!」
そう……あたしは男なんて大嫌い!
「ちょっと弟? そう、弟みたいな感覚よ」
「ふ~ん」
ホントにそうかなあ~?
ウリエルのニヤニヤが止まらない。彼女はハーブティーのカップを弄びながら、何か言いたそうにリリスを横目で見ていた。
「なによー! その目は-」
リリスは「からかうな!」とでもいうように、ウリエルの頬を軽くつついた。
「へへっ」
ウリエルは、ちろっと舌を出した。
そして、とうとう舞踏会の前日がやって来た。
前日どころか、もう数日前からそわそわ落ち着きのない男が一人――。
そう、アスタロトである。
はたして衣装はこれで良かったのか、上手く彼女をエスコート出来るのだろうか。自分はウリエルのパートナーとして、本当に相応しかったのだろうか。
アスタロトは着ていく衣装を前に、嬉しさ反面、ずしりと緊張が襲いかかって来るのを感じていた。
「情けねえよなあ、俺って……。わかってるよ、こんなんで管理界の一上官なんだからな。やっと夢が叶ったというのに」
アスタロトは舞踏会の話題で盛り上げようと訪ねて来たアスモデに、こう愚痴った。いつものように大好きなクイーンの曲をかけていたが、まともに耳に入ってこなかった。
「なんだ? それって、なんとかブルーってやつか? さしずめ舞踏会ブルー、てか。ははっ!」
アスタロトは、この無神経な友を睨んだ。アスモデは、さすがにまずいと思ったのか「すまん……」と、素直に謝った。
アスタロトは「別にいいさ」と、ポツリと言ったかと思うと。
「うわーーーっ! ウリエルーーーっ! 大好きだあーーーっ!」
突然、アスタロトは立ち上がり叫んだ。
「おいおい、落ち着けよ! アス、まずは座れ」
肩で息をしていた情けない友にアスモデは、彼を強引に座らせた。
「いいか、アス。”夢の時”はたった一日だ。このたった一日を、俺らは過ごすんだ。そしてなアス、管理界の俺達で、舞踏会を盛り上げ成功させようぜ!」
アスモデはポンと友人の肩を叩き、持ち込んだビールをぐいっと飲んだ。
「頼むぜ! 俺達の”国”の大公爵様」
アスタロトは笑ってしまった。がさつで口が悪い友人だが、アスタロトにとって唯一大切な友だ。
彼は、アスモデに感謝した。
「すまんな……そして、ありがとな」
「いいって! じゃ、明日の舞踏会に乾杯!」
「乾杯!」
やっとアスタロトの耳には、クイーンの名曲が熱く心地好く流れてきた。
「ところでアスモデ、お前のパートナーって誰なんだ? ずっと内緒にしやがって!」
「内緒にしていたわけじゃないさ」
それでもアスモデは、ニヤニヤとはぐらかすように、なかなか誰なのか明かさなかった。
(こいつらしくねえなあ~!)
「いいから早く言えよ! ほらほら、言わねえとビールひっかけるぞ!」
アスタロトはビールをかける真似をし、アスモデをからかった。
「よせよ! わかったわかった! エイブリだよ!」
「えっ? エイブリって、バフォメットさんとこの養子の?」
アスタロトはすぐに、大人しくはにかんだ可愛らしい女の子の顔が浮かんだ。
「ああ、そうだよ!」
アスモデは顔が真っ赤だ。ビールのせいでは、決して無い!
「へえ~、お前好みらしい~!」
「うるせー!」
「よくこんな”がさつ野郎”に、バフォメットさん許したな。あのひと、すっげーエイブリ可愛がっていたもんな。本当の娘みたいに」
「がさつで悪かったな! でも、バフォメットの親父さんホントいいひとだよな。エイブリは幸せだよ」
「そうだな、うん」
「という事で――――」
アスタロトはそう言うと、栓の抜いてないビールを思い切り振った。そして――。
プシュッ!
栓を威勢良く抜くと、白く美しい泡が勢いよく吹き出した。アスモデも同様に吹き出させた。それを思い切り掛け合ったものだから、上から下までびしょびしょになってしまった。
だが、愉快だった。
明日は夢の舞踏会だ。
ウリエル、君と踊れる日が来るのをずっと俺は待っていたんだ。
君は今、何を思ってるのだろう。
俺の事を考えてくれたら嬉しいよ……。




