第53話
ウリエルは、ミカエルから一枚の紙らしき物を手渡された。
(何かしら?)
その紙は、何やらレポートのような用紙だった。
「あーっ!」
突如、後ろにいた女子生徒の一人が声を上げた。驚いたウリエルは、そちらを振り返った。
悲鳴を上げたのは小柄な赤毛天使。彼女は顔を赤くし、下を向きもじもじしている。
「どうしたの?」
ウリエルは彼女に駆け寄った。
「ごめんなさい……」
赤毛天使はすっかりしょげかえり、小さな翼は下がってしまっている。彼女の仲間も心配そうだ。
「リア、もしかして管理界へ行った時の事でしょ?」
友人の一人が小声でそう言ったのを聞いてウリエルは「管理界で何かあったの?」と、リアと呼ばれた生徒の顔を覗き込み聞いた。
「ウリエル様、そのレポート私が無くした物です。一枚だけ見つからなくて、また新たに作成していたところだったんです」
「リア、本当は違うでしょ?」
そばかす天使の友人ルルが、リアの耳元でこそこそ言う。
ウリエルは生徒から詳しい事情を聞く為「とりあえず図書館へ行きましょ。詳しい事は、そこで聞くわ」と、生徒達を促した。
「ミカエル様、ありがとうございます。すいませんけど、これで失礼させてもらいますわ」
「ああ、じゃあ僕はこれで」
ウリエルはミカエルにお礼を言い、女子天使達を天界図書館へと連れて行った。
そして、女子生徒のリアによると――。
生徒達は勉強の為と、ウリエルの指示で地獄管理界へ行っていたのだ。
管理界の住人に詳しい話しを聞いたり、住民達の住む町を観察したりと、色々とレポートしていた。その様子をベルフェゴールが見ていたらしい。
「あんた達、ちょっとそのレポート見せてくれる?」
彼女達の前に現れたベルフェゴールは、全身黒ずくめだ。黒のレザーロングコートに、黒のパテントレザーロングブーツ。彼女の白い首筋には、毒蛇が這うようなタトゥーが入れてある。両耳には、びっしりと派手なピアスが数個光っていた。
――えっ?
少女達は突然そう言われ戸惑った。
「すいません、それはちょっと……」
「あたしに見せられないっていうの? ほら、早くしな!」
色白の美少女だが、見習い天使達を睨み付ける眼光の鋭さにリア達は震え上がった。
(あの子達、お可哀想に……)
(ベルフェゴール様に目をつけられたらねえ)
周りにいた住民達は、遠巻きにして見ているだけだった。誰もベルフェゴールに関わりたくないのだろう。
リア達は、渋々レポート用紙数枚を差し出した。
奪い取るようにレポート用紙を手にしたベルフェゴールは、一枚一枚チェックするように確認した。
「へえ~、ちゃんとやってるじゃん。”あいつ”の生徒だから、どんなもんかと思ったけど」
リア達は、尊敬するウリエルを”あいつ”呼ばわりされムッとした。だが、住民達でさえ恐れている彼女だ。まだまだひよっこ天使では何も言えない。
その後、レポート用紙を返してもらって天界へと帰って来たわけだが、整理中に一枚だけ紛失してるのが分かったのだ。
「きっとベルフェゴール様が取ったのよ、わざと!」
「でも、本当に私が無くしちゃったのかもしれないし……」
「私は、あの方が怪しいと思うわ! ホント恐ろしい方!」
リア以外の生徒達は、一斉にベルフェゴールを非難し出した。
「ちょっと待って! 真相がわからないのに、彼女を疑うのは良くないわ。本当に親切心で届けてくれたのかもしれないでしょ?」
ヒートアップする彼女達を、ウリエルは何とかなだめようとした。
「リアも新しくレポート作成してくれたし、この話しはおしまいにしましょ。私も、まだ管理界に慣れてないあなた達を行かせたのは悪かったわ」
「そんなー! ウリエル様は悪くないですよ!」
再び生徒達がベルフェゴール批判をしそうになったので、ウリエルは話題を変えた。
「ところで、今年もイケメンランキングやるのかしら?」
その頃ベルフェゴールは、パイプ煙草を吸いながら物思いに耽っていた――。




