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天界物語~天使たちの舞踏会  作者: 髙橋涼羽


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第52話

 舞踏会の季節が近いせいか、天界や地獄管理界ではその話題が何気に流れていた。ただ、若い見習いや、特に生徒達は浮かれ気分でそわそわ落ち着かない様子だ。

 ウリエルの生徒達も同じようで……。


「舞踏会の衣装どうしましょう?」

「それより、あなたのパートナー決まったの?」

「えっと……それは……」

「あら~、ダメじゃないの、それじゃあ」

「やっぱ私はミカエル様がいいなあ~」

「無理に決まってるでしょ!」

「ひっど~~~いっ!」

「あなた、ダニエル君は? 去年彼だったでしょ?」

「決めてる方がいるって……」

「あら、それは残念ねえ」

「ねえねえ、デミアン君は? あの子ちょっといいよねえ」

 女子天使達の笑い声とおしゃべりが響く。


「さあさあ、おしゃべりはそこまで! 早く図書館へ行きましょう」

 図書館手前で、いつまでもおしゃべり止まない女子の輪に、ウリエルは入って行き急かした。

「はあーいっ!」


 今日のウリエルの右耳には、ゴールドの二連のチェーンと小さな星が二つ付いたイヤーカフ。ミニ丈フィッシュテール裾の服に、淡いオレンジ色のローブを羽織っていた。

 地味な他の天使達に混じると、いつも派手なウリエルはかなり目立つ。しかも絶世の美貌の持ち主なものだから尚更だ。

 そんな彼女に女子達は、いつもおしゃれの仕方をこっそり教えてもらっていた。他の大天使、特に老天使は口うるさい為、女の子は好きなおしゃれも出来ないのだ。そんな時、好きな自由なおしゃれが出来る管理界の女の子達の事を、羨ましく思う事があるようだ。

 見た目が同じくらいの女の子達の気持ちが、ウリエルには十分に分かっていた。


「ウリエル様、パートナーもうお決まりになったんですか?」

 天界図書館へ行く途中、女子の一人が興味津々な顔で聞いてきた。

「ふふ、ナ・イ・ショ!」

 ウリエルはそっと人差し指を唇に当て、ウインクした。

「え~っ! どなたかしら? まさか、あのアスタロト様じゃないですよね」

「まさかまさか! ウリエル様が”あんなひと”選ぶわけありませんわ! そうですよね? ウリエル様」

「当然よ! ウリエル様に相応しくありませんわ」

 女子生徒達は実に辛辣である。これにはウリエルも苦笑してしまった。

 そんな中、彼女は胸の奥でチクッと痛みを感じていた。


『あいつの事実際どう思ってるんだ?』


 アスモデの声が、頭の中でこだまする。

 ウリエルは、アスタロトの青い瞳を思い浮かべていた。ミカエルの鋭さを持った、突き抜けた鮮やかな青とはまた違う青い瞳。それは、森深くに湛えた神秘の池の青さだった。

 その瞳を思い、ウリエルはドキリとした。


「きっとミカエル様よ! お似合いですもの」

 我に返ったウリエルは「えっ? まっさかー!」と、あははっと笑った。

「彼は私にとってライバルですもの」

 ウリエルは、きっぱりと言い切った。

「へっ? ライバル……ですか?」

 女子達の頭の中は、疑問符だらけになった。

「そっ、ライバルよ! 今年は例の事件のせいでレースが中止になっちゃったけど、来年こそは絶対に彼に勝つわ!」

 彼女の言うレースとは、毎年行われている、天使達による飛ぶ速さを競う大会だ。この行事も恒例であり、舞踏会に次いで皆楽しみにしているイベントである。

 ウリエルとミカエルは毎年このレースで最後まで競う事になるのだが、いつも僅差で彼女は負けてしまっていた。


「秘策を考えているの、実はね。見てらっしゃい、ミカエル!」

 そう息巻くウリエルだったが、何故か目の前で生徒の表情が変わり、口に両手を当て”ヒャ~”とか”キャー”とか声を上げた。

「ウリエル様! うしろうしろ!」


(……?)


「秘策って、どんな秘策なんだい? ウリエル殿」


 ――えっ?


 聞いた事ある声は……。

 ウリエルが振り返ると、ミカエルがこちらに向かう姿が目に入った。

「ああ、ミカエル様、ごきげんよう! たった今、あなたの話しをしていたところよ」

 ウリエルは、まったく動じる様子がない。


 ”さすがだ!”

 生徒達は一斉にこう思った。


「ん~……残念だわ。今年は私が勝つはずだったのに」

「それはどうかな?」

 こう彼に一蹴されてしまったウリエルは、ぷくっと頬をふくらませた。

 ミカエルの絵に描いたような爽やかな笑顔に、女の子達はもううっとり見惚れてしまっている。

「やっぱりあのお二人って、ああ並んでると絵になるわよねえ!」

「お似合いよねえ~」

「ねえ~!」


 どの大天使達よりも、最も多忙なミカエルが天界図書館へ来るなんて珍しい、とウリエルはふと思った。

「ミカエル様、どうされました?」

「あ、そうだ。ベルフェゴール殿から、これを君に渡してくれと頼まれてね」

「えっ? ベルフェゴールが?」

 ミカエルはベルフェゴールから渡されたという、一枚の紙をウリエルに差し出した。

 唐突に聞く名前。その名前は、ウリエルにとって今も忌まわしい記憶の残る名前だった。


 ベルフェゴール……。今は地獄管理界にいる元天使。暗闇を思わせる黒いショートヘアと瞳の、ウリエルにも劣らないくらいの美少女だ。だが、同じ管理界の住人達からは少々疎んじられていた。それは、孤独を好み、冷酷な性格のせいであった。


 ウリエルは、胸の奥が凍り付くのを感じたのだった。

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