第47話
クイーンの名曲流れる部屋の中アスタロトは上半身裸になり、スタンドミラーの前に座っていた。
よく鍛えられた美しい腹筋が、鏡に映されている。
彼は鏡に左腕を映し、丁寧に手彫り針で翼を描いていく。すると、徐々に鮮やかな見事な翼が浮かび上がってきた。
手彫り針は、アスモデから紹介された彫り師から借りた物であり、それは人間達の使う物とはあきらかに異質な物であった。
その針は地獄の奥底に棲む地獄獣の爪を加工された物で、罪人達の魂を引き裂いてきた物だ。
息を詰め、最後の仕上がりへ。そして――。
(完成だ……)
アスタロトはゆっくりと息を吐き、鏡の中のタトゥーをじっくり確認する。
カ・ン・ペ・キ……。
タトゥーの翼は片翼だったが、羽根の細部まで表現されており、今にも羽ばたきそうである。
ウリエルの翼――。
頬に残った彼女の唇の感触が蘇り、胸が締め付けられた。
「さすがだな、俺は……」
(副業に刺青師もありかな?)
「ウリエル、君は何て言ってくれるかな?」
早くウリエルに見せたくて、ウズウズしていた彼であった。切ない思いに駆られ、もう一度鏡の中の翼を眺める。鏡の中の翼は、彼の思いに反響するかのように躍動していた。
「そうだ、あいつに自慢してやろう!」
アスタロトはウリエルに見せる前に、さっそくアスモデを呼びつけ、”力作”のタトゥーを披露した。
「お前すげーな! この翼本物みたいじゃんか!」
「だろ? 自分でも驚いてる。ああ……自分の才能が恐ろしい!」
「うるせーよ! 道具のおかげでもあるんだぜ。何といっても地獄獣の爪で出来た針だからな」
「わかってるよ! ああ、早くウリエルに見せたいよ」
アスモデは、そんな友人に呆れながらも笑っていたが「ああ、お前に言い忘れた事あるんだけど」と、急に真顔になった。
「なんだよ?」
「一晩はかなり苦しむからな。俺も経験したし」
「なんだよ、それを早く言えよ」
「言ったら止めたか? 止めないだろ?」
「まあ、そうだけど」
「ま、覚悟しておくんだな。それより、何で片翼なんだ?」
「両翼なんて、あまりに図々しいだろ? 片翼で十分さ」
な、ウリエル……。これで、いつでも一緒だ。
その晩、アスタロトはアスモデの言った通り、痛みと熱に苦しんだ。その苦しみの中、彼は夢を見たのだった。




