第42話
「ウリエル様、ずいぶんと難しい本読んでるんだな」
ザフキエルはウリエルから預かった本を、しげしげと表紙と中身を見た。
「それにしても、あの二人お似合いだと思うけどなあ。本当につき合ってないのかな?」
もうすでに遠くまで飛んで行った二人を乗せたドラゴンへ、彼は眩しそうに眼差しを送っていたのだった。
「さあ、もっとスピードを上げてちょうだい! オーロラの中を進むのよ」
ウリエルが、ドラゴンの首筋を優しく撫で合図する。するとドラゴンはもっとスピードを上げ、オーロラのカーテンの中を上下、そして左右へと縫うように飛行しだした。
「うおーーーっ! すげーーーっ!」
アスタロトは興奮し、雄叫びを上げた。ドラゴンに乗るのは二回目のはずなのに、まるで、初めての体験のような気分だった。
気持ち良かった。爽快だった――――。
これもウリエルと一緒だからだ。
そうだ、今俺は彼女を抱き締めているんだ。
これ以上な幸福があるか?
ザフキエルを騙してまでドラゴンに乗ってしまった、あの時の自分に見せつけてやりたいよ。
そして、こう言ってやろう。ざまあみろ! と。
「ウリエル! 俺は今サイコーな気分だよ!」
「私もよ!」
ウリエルもキャーキャー歓声を上げ、楽しんでいた。
そして――――。
「ストップ! ストップよ! ――――よしよし、いい子ね」
ウリエルはドラゴンの飛行を止め、オーロラの世界を見渡し、暫くその美しさを堪能した。
「見てアス……なんて綺麗なの」
「そうだね、本当に美しい。でもねウリエル、この美しさは君の”力”も大きいと思うんだ」
そうさ――――彼女は、太陽を司る天使でもあるのだから。
「ううん、アスタロト。この美しさはね、座天使達の『父』への賛歌なのよ。だから、私の”力”だけではとても出来ないわ」
降り注ぐオーロラの光の中、二人の乗ったドラゴンはまるで魚のように静かに漂っていた。水晶の体はオーロラを反射し、虹色に輝きだす。そんな中、ウリエルはすっと右手を高く上げた。
(何をするんだろう?)
アスタロトが不思議に思っていると――――。
高く上げたウリエルの手から、ふわりと柔らかな炎が立ち上った。するとそれは突如、燃え盛る炎の剣の如くオーロラの空へと突き抜けたのだ。紫とオレンジが織り成す美しい炎、ウリエルだけが作り出せる神秘の炎だ。
「アス、見てて!」
ウリエルは炎の剣を揺らめくオーロラの中で大きく動かし、緑色や紫色煌めく光との共演を楽しんでいた。
それは幻想的で、アスタロトは永遠にこの状況が続いてほしいとさえ思っていた。
「美しい……。ウリエル、こんな言葉人間ぽくて本当は言いたくないんだけど、今俺は感動で胸がいっぱいだよ」
けど、もっと美しいのは、子供のようにはしゃぐウリエル、君だよ……。
その後も二人は、ドラゴンの遊覧飛行を存分に楽しんだのだった。
やがて「そろそろ帰りましょうか? ザフキエルが下で待ってるわ」と、ウリエルは炎の剣をゆっくりと消しながら言った。
「ん、そうだね」
アスタロトは名残惜しそうにオーロラの世界を見渡し、この美しさを瞳に焼きつけた。勿論、ウリエルの炎も。
そしてドラゴンはウリエルの指示に従い(もうすっかりドラゴンは、彼女に従順になっている)、座天使の住まう世界へと戻って行った。
ザフキエルの下へ戻ってみると、彼は洞窟の傍らでウリエルから預かっていた本を読んでいた。彼はドラゴンが降りて来るのを確認すると本を閉じ、手を大きく振った。
「ただいま、ザフキエル!」
「お帰りなさいウリエル様、アスタロト様!」
ウリエルはドラゴンから下りると、愛情たっぷりにねぎらい、彼の顔を抱き締めた。
「ありがとね、また会おうね」
大きな目を細め甘えるドラゴンも、彼女と離れるのが寂しそうだった。
アスタロトも彼に敬意を表し、首筋を撫で感謝した。
ありがとな! 君のおかげでウリエルとの時間が楽しめたよ。
こうして彼らは、「オーロラの間」へと戻ったのだった。




