第39話
「オーロラの間」――――。
座天使達の住まう場所。天界の中でも、特に神秘的な聖域である。
ウリエルとアスタロトの目の前には、「オーロラの間」へと続く荘厳な雰囲気の門がそびえ立っている。
その門は水晶のように透明で、虹色の色彩を放っていた。
門の両側には座天使長ラジエルの部下なのだろう、門番が立っていた。この門番達の鎧と翼さえ、水晶のように美しかった。
頭上には、巨大なオーロラが踊るようにうねっている。その様子は、まるでドラゴンが舞う姿だ。
「美しい……」
アスタロトは初めて訪れたこの聖域に、あまりの美しさに胸を打たれ、暫くこの感動に浸っていたかった。
「ウリエル、どうしてここに?」
「ドラゴンを借りるのよ」
「は?」
「座天使達が飼っているドラゴンを借りるのよ。今から(そのドラゴンに)乗らない?」
「えっ? でも君は、俺がアスモデとドラゴンに乗った話しに呆れてたじゃないか」
「バカねえ、人間界で乗るからでしょ。しかも無断でドラゴンを連れ出して」
「う……。けどそう簡単に(ドラゴンなんか)借りられるのかい?」
「知らな~い!」
「えーーーっ!」
ウリエルは、さっさと門番達の方へと歩いて行った。
ホント、ウリエルはいつも突拍子のない事をしでかすんだよなあ……。
ま、それが魅力でもあり、なんだけどな。
アスタロトは、今にもスキップでもしそうな彼女の後ろ姿を、愛おしそうに見ていた。
「ごきげんよう! ラジエル様にお会いしたいのだけれど、よろしいかしら?」
ウリエルは門番の一人に声をかけた。
すると門番は「これはようこそ、ウリエル様。どうぞ、中へお入り下さい」と慇懃にお辞儀をし、門をゆっくり開け始めた。
「アスタロト様も、さあどうぞ中へ」
(えっ? 俺の事知ってるんだ)
「あ、ども……」
アスタロトは軽く片手を上げ挨拶をした。
(なんか、こういうの照れるな)
中へ入る際、アスタロトはチラッと門番を見た。気品に溢れた表情は穏やかだが、その立ち振る舞いは凜としていた。
(カマエルの部下どもとは大違いだな。そういえば、あいつ地上ではどうしてるかな?)
門を通ると、両側にオーロラの柱が立ち並ぶ廊下を歩いて行く。
「ウリエル、あの門番達、俺の事知ってたよ。驚きだね!」
「なに言ってるのよ。当たり前でしょ。あなた四大長官の一人としての自覚持ちなさいよ!」
そう言って、ウリエルは彼の背中を叩いた。
またしても彼女に叱られるアスタロトだった。
「ウリエル、俺ラジエルに会うの初めてなんだよ。ルシフェルよりも緊張するなあ」
「ねえアス、あなた初めてここへ来たんでしょ? 以前ドラゴンに乗ったって、どうやって?」
「見習い座天使を騙してやったのさ。ちょうどそいつ、階段付近でウロウロ迷っていたからさ。その時ドラゴンを連れて来させたんだ」
「えーっ! ひっどーい!」
「もう大昔の事さ。でも反省してる」
――――遠い記憶。懐かしい思い出だ。
アスタロト達はそのうち大広間に出た。そこには、大勢の座天使達が行き来していた。その天使もオーロラの翼を持っている。そして、すれ違う二人に対して静かに挨拶をしてきた。
「ウリエル様、アスタロト様、ようこそ我が『オーロラの間』へ」
「ラジエル様はいらっしゃいますか?」
「ウリエル様、どうぞこちらへ」
一人の座天使が、二人をラジエルの部屋へと案内してくれた。
アスタロトは過去の”やらかし”の事もあるせいか、徐々に緊張してくるのだった。




