第37話
――――なに? ここどこ? 何でこんなに真っ暗なの?
プハッ!
ウリエルはベリアルに頭から被せられたローブを、慌ててどけた。その拍子に膝の上の本が落ちた。
「やだ……寝ちゃってたんだわ。あれ? ベリアルは? ベリアルさ~ん! ベリアル!」
彼女は辺りをキョロキョロしたが、ベリアルがいないと分かると「逃げた! んもう~、なによ!」と悪態をついた。
(こうなったら、あいつの部屋の前で見張ってやる!)
ウリエルは床に落ちた本を拾い、部屋を出ようとした。
「あ、そうだ。メモメモ……」
部屋を出た彼女は扉に”ある事”をし、一人納得し頷いた。
◇◇
そして、再び天界図書館にて――――。
アスタロトはベリアルに、天界での行動を正直に話した。図書館には、二人以外に誰もいなかった。ベリアル達の雰囲気を感じた天使達は、さっさと出て行ってしっまったのだ。
「わたしから言える事は、諦めろという事だけだ。ここ(天界)の上層部には首を突っ込むな」
話しを聞いたベリアルは、呆れてこう言い放ったのだ。そして「んったく、そんなくだらん事で、わたしを巻き込むな」と、アスタロトを一喝した。
「くだらん事」と決めつけるベリアルに、さすがにアスタロトもムッとし「あなたも好きな者の為なら、僕と同じ事をすると思いますよ」と、つい言い返してしまった。しまった、と思ったが、もうどうでもいい。
ベリアルは暫く彼を睨んでいたが「わたしの部屋へ行くぞ。あのガキを追い出せ!」と唐突に席を立つと、さっさと出入り口へと向かった。
「ガキって……彼女、僕とたいして変わらないですよ」
「なら、お前もガキだな」
アスタロトはムッとしたが、仕方なく後をついて行った。
そして、ベリアルの部屋の前に来たのだが――――。
「あのクソガキ……」
扉には、ウリエルが書いたであろうメモが、金色の羽根で留められていた。
『ベリアル様へ
寝てしまった私に ご丁寧にローブを”頭から”掛けて下さり
ありがとうございます
それでは私ウリエルは あなた様のおっしゃるとおり
アスタロトを”待ち伏せ”する事にします
そうそう
あなた様の大切な本お借りしま~す♪
by ウリエル 』
綺麗な文字と共に、似顔絵らしき下手くそなイラストが描かれている。
「おい、これは星なのか?」
ウリエルの顔らしきイラストの両側に、星型のような”印”がある。
「それ、翼のつもりじゃないですか? 可愛い……」
ベリアルが振り向く。
「あ、いえ。それ僕がもらって――――」
アスタロトがそう言う前に、ベリアルは乱暴にメモを剥がすと、握り燃やしてしまった。
「あ~……もったいない」
「ああ?」
「あ、いえ……」
「アスタロト、覚悟しておくんだな。あいつを怒らすと怖いぞ」
それ、どっかで聞いたような……。
ベリアルはそう言うと、アスタロトの肩を軽くポンと叩いた。そして、自分の部屋へと入って行った。
目の前で扉が閉まると同時に、アスタロトは思い切りため息を吐いた。
「はあ~……。覚悟ねえ」
はいはい、わかりましたよ。
彼もまた、ブツブツ言いながらも、自分の部屋へと帰って行った。
自分の部屋へ戻る為広い廊下の角を曲がると、すでに彼女はドアの前で待っていたのだ。
表情は厳しいが、絶世の美少女なだけに、怒った表情でさえ惹きつける。
(うわ~……もう来てるし)
壁に寄り掛かり、腕を組む姿は、つい先程のベリアルと重なる。脇にはその彼の部屋から持って来たであろう本が挟んであった。
ウリエルはアスタロトに気づくと、人差し指を上に向け、こちらに来いと動かした。いつもだと、彼女の姿を見かけると嬉しくてたまらないのだが。
(か、覚悟しなきゃな……)
「や、やあウリエル!」
アスタロトは、自分の声がこの時ほど間抜けなものはないと思ったのだった。




