第34話
ここは、天界唯一の図書館。
広い円形の壁一面には無数の書籍が収まった棚が並び、真ん中にいると、まるで円形闘技場にいる錯覚に陥ってしまう。色とりどりの背表紙が、観客の顔に見えるせいか。
遙かに聳え立つ本棚は、永遠に増え続ける書籍のせいで、”父”の住まう聖域へと貫く。
その先は聖なる霞のせいか、アスタロトの目でも確認出来ない程だ。
その真ん中にも縦長の本棚がずらりと並んでいたが、高さは壁の本棚ほど高くはなかった。
アスタロトとアリエルは、中央に並ぶ読書机の一つに座り、決闘――――じゃなかった、話し込んでいた。
「でも、アスタロト君の活躍もあるんでしょ? この間の事件の解決」
「違う違う、リリスが見せてくれた人間界の本がヒントになったんだよ。それもあってさ、リリスへのお礼というかさ」
「そっか……。あなた優しいのね」
「優しいだなんて……。そんな事言われたの初めてだな。俺はただ、さっきも言ったように、ウリエルの為にやりたいんだ」
ふと、アリエルは顔を伏せ「今の人間達も、君みたいに誰かの為に思ったり行動してくれたら」と、呟いた。
(アリエルも、人間界で色々と大変なのかな……)
アスタロトは彼女の表情から、明るさの裏に隠された苦労を感じ取っていた。
その後アリエルは、次の任務があるからとアスタロトに軽く挨拶をし、部屋から出て行った。彼も特別に図書館には用が無くなったので、そっと席を立った。その際もう一度図書館の天上を仰ぎ見た彼は、燦々とした中に、増え続ける本の世界を見上げていた。
その日からウリエルはウリエルで霧となったアスタロトの姿を見かけたり、アスタロトはアスタロトで、ミカエルに会おうとしていた。だが、全天使軍を率いる総大将に相談するというのは、さすがに無謀というもので、諦めるしかなかった。
「僕、最近アスタロト君に会ったよ」
そんなある日、ウリエルはアズラーイールからこう言われた。
「彼って僕の事ハリーって呼ぶんだよ。笑っちゃうよね」
「ハリーって誰?」
「ははっ、誰だろね」
(なんなの、あいつ? どうして天界でちょろちょろしてるのよ)
ウリエルは次第に、アスタロトに対して不信感を抱き始めていた。
(そうだ! ベリアルに聞いてみましょ。また上の誰かに探りを入れるよう言われているのかも)
さっそく彼女は地獄管理界へ向かった。
ベリアルの部屋はルシフェルやアスタロトの部屋と離れており、管理界の住民達の区域内にあった。
例の事件の時にカマエル達が押し入った際、すぐに彼が駆けつけられたのも、このおかげである。
地獄管理界全体の監視と安全を見渡す為にも、上官達の部屋は偏るべきではない、という事である。
ウリエルは地獄管理界の広場を歩いていた。
「ごきげんよう、ウリエル様! 今日はどうされました?」
「こんにちは! ベリアル様に用事があるのよ」
すれ違う住人達と挨拶を交わしながら、ベリアルの部屋へ向かったのだった。




