第33話
その翌日、アスタロトが再び天使界へ行っていると、偶然ウリエルと会ってしまった。
ウリエルの方も、まさか彼と会うとは思わなかったのか、ひどく驚いていた。
「アス、どうしてここにいるの?」
「え、え~……」
アスタロトの目が泳ぐ。明らかに動揺してるのが分かる。いつもなら彼女に会うと「デートしよ!」か、見惚れてボーッとしてるかなのだが。
「と、図書館に用事があってさ」
「図書館ならこっちよ」
ウリエルは反対方向を指差した。
「あ、そうだったね。久々だから間違えちゃったかな、ははっ! じゃね」
(なに? あいつ……)
ウリエルは訝しげに、図書館へそそくさと歩いて行くアスタロトを、ずっと見送っていた。
「危ねえ~……」
アスタロトは行くつもりのなかった天界図書館へ、仕方なく向かった。途中行く先々で他の天使達とすれ違い、その度にあの”三人組”の天使達のようにコソコソ囁かれた。
「ねえねえ、あの方って、ウリエル様にしつこくつきまとってる方じゃない?」
「しっ! 一応、地獄管理界のお偉いさんよ」
「え~? うそっ! ルシフェル様とぜんぜんちが~う!」
最後のセリフが、アスタロトの胸にグサリと刺さる。
(他の天使達にとって、俺はどう見えてるんだ?)
普段周りからどう見られようが余り気にしない彼だったが、この時は少しばかりショックだった。
しかも「つきまとってる」という言葉に傷ついた。
――――ウリエルも俺に、つきまとわれてると思ってるのかな?
そんな事を考えながら図書館へ入って行ったが、またしても中にいた天使達から好奇の目で見られ、中にはギョッとして慌てて出て行った者までいた。
これには、さすがに彼でも頭にきた。
「なんだよ! どいつもこいつも! 管理界の者を馬鹿にしてるのか?」
アスタロトはとうとう大きい声を出してしまった。
「しーっ!」
司書の一人アメリアに睨まれ、注意を受けてしまった。
「すみません……」
「そうじゃないのよ。ごめんなさいね、アスタロト殿」
明らかに好奇で見ていた天使とは格の違う、なめらかな褐色の肌をした、美しい大天使が入って来た。
長身でスレンダーな彼女は、歩いて来る姿はまるでスーパーモデルのようだった。
キリマンジャロの雪のような真っ白な翼が輝いていいる。
「アリエル――――」
「久し振りね、アスタロト殿。あなたらしくないわよ、カッカして」
「ああ、すまん。大きい声出しちゃって。けど、あれはないよなと思ってさ」
アスタロトは頭を掻いた。
アリエルはいつも明るく、気持ちの良い女性天使だ。ガブリエルが”静”なら、アリエルは”動”だろうか。
「それより向こう(人間界)から、いつ帰って来たの?」
彼女はラファエルと同様、人間界で時々「国境なき医師団」の手伝いをしていた。
「さっきね、ラファエル殿の部下に報告書を届けに来たんだけど……。まあ、ちょっと座らない?」
アリエルは近くの席に座るよう促した。
残っていた二、三人の天使達が、気を利かせたつもりなのか出て行った。
「さあ、君の悩みを話してくれたまえ」
彼女はアスタロトの目の前で人差し指を突き出した。
「あはっ! 相変わらずだなあ、アリエルは」
アスタロトは、彼女のこういう所が大好きだった。
冗談好きで、さっぱりとした性格が、他の天使(特に女性天使達)から受けが良かった。
アスタロトは彼女にも、リリスの件を話してみた。
「でも、まだあなた自身が天使長の誰かに聞いてみてないんでしょう?」
「無理だよ! 天使長なんて直接会った事もないし……。どうせ俺なんか相手にしないさ」
「そこなのよ、アスタロト殿」
「えっ……?」
「会った事もない天使長だから怖いんでしょ? あの子達もそうよ」
天使達が出て行った入り口の方を、アリエルは見ながら言った。
「地獄管理界の者なんて滅多に会わないものだから、あの子達慣れないのよ。決して馬鹿にしてるわけじゃないのよ」
「まあ……わかってるけどさ」
「ねえ、ウリエルの事好きなんでしょ? 喜ぶ顔が見たいんでしょ? なら、それを行動に移しなさい」
アリエルは黒目がちな瞳をキラキラさせ、ニッコリと微笑んだ。
アスタロトは彼女のその笑顔を見て、決心がついたのだった。




