第32話
「ガブリエル様!」
ウリエルは、幼子達の花畑「幼子の間」にいたガブリエルに声をかけた。
花畑には彼女の部下達が数人いて、子供達のお世話をしている。その部下達がウリエルに気づき、軽く会釈をした。
「ウリエル! ウリエル!」
一斉に幼子達が彼女に駆け寄る。
「こんにちは~! みんな元気にしてた~?」
ウリエルは黄金の翼を広げ、駆け寄ってきた子供達を優しく包み込んだ。
「ウリエル殿、今日はお手伝いの日ではなかったはずですよ」
ガブリエルは赤子の白く輝く魂を数個抱えながら、近づいて来た。
「アスタロトが来ませんでした? 私の生徒が、彼があなたの所じゃないかと」
「さあ……私は会ってないわ。別の用事じゃないかしら?」
「そうですか……」
(はあ……嘘をつくのは慣れないわ。ごめんね、ウリエル)
ウリエルは釈然としなかったが、暫く子供達と遊んだ後、再び図書館へと向かった。
一方アスタロトはというと、自室で書類等を整理していた。書類には、様々な死亡した犯罪人達の名前が連ねていた。
「こいつは深淵部行き……。こいつは地獄獣の餌だな。こいつは、あいつと同じメタトロン様の刑へと――――」
こうしていても、アスタロトは例の件を考えていた。
(はあ~……どうしたもんかなあ)
いきなり自分なんか熾天使長が会ってくれるわけねえしなあ。ミカエルはどうだろ?
そうぐだぐだ考えていると――――。
「おーい、アスーっ! 飲みに行こうぜ!」
ドアを壊さんばかりの大きなノック音を立てながら、部屋の外でアスモデが叫んでいた。
アスタロトは、ちょっとビクッとする。
(あいつ、そのうち本当に壊さねえだろうな)
彼は整理中の書類をそのままに、アスモデと酒場へ出掛けた。アスタロトは、彼にも相談してみるつもりだった。
地獄管理界の住民達が集う酒場へとやって来たが、アスタロトの姿を見る度アドラメレクのような一部の客は、仰々しく挨拶をしてくるのだった。彼はそれが煩わしく、本当はここへは来たくなかったのだが。
中には女性数人が、彼に熱い視線を送っていた。なかなか色っぽい女に声をかけられたが、丁寧にお断りした。言うまでも無く、彼はウリエル以外の女性には、まったく興味を示さなかった。そちらへ目線さえ向けなかった。
完全無視を決め込む彼に興味を無くした女達は、さっさとその場を離れて行ってしまった。
「アスモデ、ちょっと聞いてくれるか?」
アスタロトは不味いウイスキーを飲みながら、例の話しをしてみた。
(やっぱ、ここの店は無しだな。店主を代えるべきだよな)
「う~ん……どうだろな。ガブリエルでさえ難しかったんだろ? なら、お前じゃ無理だろ」
「だよなあ~……」
アスタロトは頭を抱えた。
(やっぱミカエルに聞いてみるしかないか)
「お前って、本当にウリエルの事好きなんだな」
「おいおい、それ、そっくりそのままガブリエルからも言われたよ」
「あははっ!」
「あはは、じゃねえよ。……ん、たく。みんなウリちゃんの良さがわかんねえのかよ~」
アスタロトは解決策が見つからない苛立ちで、テーブルに突っ伏してしまった。
するとアスモデが「お前、知らんのか?」と、真顔で聞いた。
「ん、何が?」
「お前の存在があるから、みんなウリエルに舞踏会のパートナー申し込みしないんだろ」
(俺の存在?)
「――――どゆこと?」
「んったく! ホントお前ったら、ウリエル以外の周り見えてないんだな」
アスモデは呆れ返り、ウイスキーを一口飲んだ。
そして「ウリエルを狙ってる奴って多いんだぜ。ただな、もしウリエルにパートナーを申し込んだら、お前に半殺しの目に遭うと思ってるから、手を出さないんだろ」と、いつものデカ声が小声になった。
「俺はそんな事しねえよ!」
「でも、実際他の連中が申し込んだら?」
アスタロトは躊躇無く「半殺し、だな」と答えた。
「だろーっ?」
アスモデはまたデカ声に戻り、豪快に笑った。
「そういうお前はウリエルの事どうなんだよ?」
「俺は穏やかで、静かな娘がいいよ」
(こいつ! ま、いいか)
アスタロトは良い解決策が見出せないまま、暫くアスモデと酒場でダベっていた。




