第29話
地獄管理界の自室に戻ったアスタロトは、久々にキャンバスに向かっていた。
元々彼は、絵画は見る事も描く事も好きだった。
人間界の「ロック」という音楽に出会う前は、よく色々と描いていたっけ。
地上の景色、人間の世界、色鮮やかな動物達、そして仲間達……。
勿論、ウリエルの絵も。
只、彼女のヌードを描いてしまった時は、部屋ごと破壊されちまったっけな。
先程まで会っていたウリエルのベビードール姿がまだ目に焼き付いているうちに、絵に残そうと彼は思っていた。
そして何と彼は、数時間もかからず描き上げてしまったのだ。
「よっしゃあーーっ! 出来た!」
アスタロトは腕を組み少し離れて眺め、左右横から眺め、また正面に戻り眺め、そして満足そうに何度も頷いた。
白い肌が透けそうなピンク色のベビードール姿のウリエルが、正面を向き黄金の翼を広げ、アスタロトを迎え入れるように両手を差し出していた。花びらを思わせる唇が、いまにも語りかけてきそうである。
そして何より力を入れたのは、その瞳だった。
翠色の瞳の奥に、何と自分の姿を映り込ませたのだ。
「見てるかーっ! カラヴァッジョー!」
アスタロトは天井に向かって叫んだ。
絵画の中のウリエルにうっとりと見つめていた彼は、その唇に口づけをしようとした。しかし彼は我に返り「おいおい、これじゃあ、あの変態じじいと一緒じゃん!」と、ベルゼブブを思い出し赤面した。
(けど、我ながらいい出来じゃん!)
今にも飛び出して来そうな絵の中のウリエルは、優しい微笑みを讃えていた。
「何処に飾ろうかなあ? 絶対彼女に見つからないようにしなきゃな。また部屋ごと爆破されたら、かなわねえしな」
独り言を言いながら部屋の中を歩き回っていたが「あ、そもそも彼女が来る事ねえや」と苦笑し、結局彼は奥のリスニングルームの壁に掛ける事にした。
入るとすぐ目に付く、高級オーディオシステムの上にである。
大好きなロックを聴きながら、ビールでも飲んでウリエルの絵を眺める。
一人ニマニマしていたが「あっ、そうだ! こうしていられねえや」と、大急ぎで部屋を出て行った。
彼は黒い霧となり、天界へと目指したのだった。
(まだウリエルがリリスの所から戻って来てなければいいが)
”リリスを舞踏会へ”……。
アスタロトはウリエルに内緒で、ダメ元で行動するつもりだった。




