第28話
暫く二人は、美しい花園の小道を歩いていた。
時々優しい風がアスタロト達の間を吹き抜け、ウリエルのガウンの裾を捲り上げる。白い太腿が露わになり、アスタロトは慌てて横を向いた。
ふと彼はリリスのように「ウリエル、君の翼が見たいんだけど」と、言ってみた。意外にもあっさりと彼女は翼を現わしてくれたが、またしてもその際、顔にぶつかってしまった。どうやら彼女の翼は、小柄にしては少々大きめのようだ。さすが、四大天使なだけはあるのだろうか?
美しく輝く翼をうっとりと眺めながらアスタロトは「俺は、君の翼が一番美しいと思ってる。お世辞なんかじゃないよ。本当に、そう思ってる」と、最後は囁くように言った。
「ありがとう、アス……」
ウリエルの黄金の翼が、静かになびいている。
「私は、天使だった頃のあなたの翼を覚えているわ」
アスタロトは驚いた。
「ホントに?」
「ええ、薄い緑色だったわ。とても綺麗だったわよ」
ああーー……なんて奇跡なんだ!
そして、なんて俺は幸せなんだ!
神様――――じゃなくて、”父”よありがとうーっ!
アスタロトは嬉しすぎて泣きそうになった。まさか、自分の事を(しかも翼の色なんて)覚えてくれていたとは。
「なあ、他には? 他には?」
「え~? 知らな~い!」
二人の笑い声が、花園中に響く。
そんな二人を戸口で見ていたリリスは「あの二人、なんだかお似合いね」と、ちょっぴり嫉妬を感じ唇を噛んだ。
「それにしても、ここの光はちょっと強すぎるなあ。今度サングラスでもして来ようかな? なんて」
「あら、この花園の光は私が送ったものよ」
(しまった……!)
「ご、ごめん。慣れるよ」
「別にいいわよ(笑)無理しなくても。仕方ないじゃない」
ふふっとウリエルは微笑む。
「あの……リリスって、いいヤツだな。俺は誤解していたかも」
ウリエルは暫く無言だったが、やがて口を開いた。
「リリスは私にとって大切なひとなの。私は四大天使としてじゃなく、一人の天使として、彼女を守りたい……」
(……そうか)
アスタロトは、彼女とリリスの間の見えない強い絆を思い知らされ、寂しさを感じた。
「じ、じゃあ俺はもう行くよ」
「ええ、じゃあね」
アスタロトは黒い霧となり、素早く飛び立つ。
そのすぐ後ウリエルも飛び立ち、リリスの下へと戻って行った。
その姿を見届けながらアスタロトは、ある決意をしていた。
俺も何か出来る事ないかな?
リリスが何とか舞踏会に参加出来るように……。
ウリエルの喜ぶ顔が見たい。
熱い思いを胸に、彼は地獄管理界へと戻って行ったのだった。




