第27話
「あのね、アス――――」
ふと、ウリエルは話題を変えた。
「舞踏会のドレスね、毎年リリスが考えてくれていたのよ。もちろん、今年もデザインしてくれるの」
彼女は本当に嬉しそうだった。
「へえ! そうだったのか」
アスタロトは納得した。
そういえば毎年の舞踏会に来る天使達は、大抵地味で、おとなしめな衣装だ。それに比べてウリエルのドレスは、いつも目を引く華やかな衣装だった。
去年アズラーイールと踊っていた彼女は、可愛らしさと美しさで輝き、アスタロトはそれを羨ましそうに眺めていたのだ。
いや、去年だけではない。毎年毎年、彼はウリエルだけをずっと目で追いかけていた。
もし彼女の相手が自分だったら……。
「おいおい、お前彼女ばかし見て、自分の相手怒らすなよ」
アスモデから注意されたっけ。
「今年のパートナーはあんたでしょ? ねえウリエル、うんっとセクシーな衣装でいきましょうね」
そう言ってリリスは、ウリエルの髪をそっと撫でた。
「んもう、リリちゃんったら! やあねえ……」
二人はじゃれ合った。
そうだ、今年は俺がパートナーなんだ。念願だったウリエルのダンスパートナーに。これ程嬉しい事は無いはずなのに。
アスタロトは少し複雑だった。
そんな舞踏会にリリスは参加出来ないんだった……。ウリエルは、本当は彼女と一緒に参加したかったろうに。
アスタロトがウリエルの横顔をぼんやり眺めていると「でも意外ね。あんたずっとこの子と踊りたかったはずでしょ? なんで(今回の申し込み)初めてなの?」と、リリスがテーブルに片肘を付き聞いてきた。
ウリエルが美しい翠色の瞳で、じっと見つめていた。
「それは……ほら、いつも俺は君にデートに、その、誘ってるだろ?」
彼は無意識に早口になった。
「まあ、結局断られるけどね」
アスタロトは自虐気味に笑ったが、ウリエルは只ゆっくりと瞬きしただけだった。
「でも、舞踏会は俺にとって特別だったからさ。なかなか言い出せなくて……」
何か本人の前で告白するのがすごく恥ずかしかったが、この花園のせいなのか? この場所の魔法にでもかかったかのように、何でも話せそうだった。
「ちゃんと申し込もうと何度も天使界に行こうとしたけど、結局誰かにいつも先越されてるんだよな」
「……そうだったの?」
「そういうのを”言い訳”って言うんだよ。要領悪いね、あんたは」
「はあ~……」と、リリスはわざと大きくため息を吐いてやった。
(ほんっと馬鹿だね、こいつは! いざという時にこれなんだから。これだから男は)
正直リリスはアスタロトに対し腹が立った。
アスタロトは顔を赤くしながら「……それに直接なかなか言えなくてさ」と、徐々に声が小さくなっていく。
「はあ~? 図々しく『ウリちゃ~ん! デートして~!』なんて言ってるくせに?」
わざと意地悪く突っ込むリリス。
アスタロトは横を向き、ますます顔を赤くする。
「それとこれとは別だろ! ……怖かったんだよ、断られるんじゃないかって」
彼は不貞腐れ、下を向いた。
クスッとウリエルは笑った。
「バカねえ、断るわけないじゃない」
「えっ?」
「舞踏会は私にとっても特別だもの」
アスタロトは思わずウリエルを見ると、彼女はとろけるような優しい微笑みを向けた。
この花園の世界に感謝したかったアスタロトだった。
「えっと、じゃあ来年の”予約”もしていいかな?」
「調子にのらないで!」
「調子にのるな!」
ウリエルとリリスから、同時に怒られてしまった。が、アスタロトは幸せな気分だった。
ウリエルとの距離が、近くなった気がした。
(あの事件のおかげなのかな? 皮肉なもんだな)
香り豊かなハーブティーをおかわりして、彼はそろそろお暇する事となった。
「私、お見送りして来るわ」
「しばらく二人で歩いて来なさいな」
リリスが珍しくアスタロトを気遣った。
そして、二人は白い光が注ぐ外へと出た。花園からのむせかえる程の香りが、柔らかな風に乗ってきた。




